『メジャーの女王』
請求書を預かったウィスタードが下がっていく。
エルクリッドはにこり、と笑う。
「こちらはまとまりましたので、もうひとつお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「今度は何だ」
「彼女を紹介させてください」
男爵の手が、扉の方を示す。ダーイングも目を向ける。
「どうぞお入りください」
「失礼します」
扉が開き、『石の家』に足を踏み入れたのは豊満な胸にスレンダーな手脚。
長いまつげの瞳。艶やかな化粧。
女の魅力をこれでもかと体現した女性だった。
ヒールを鳴らしながら、ダーイングの前に立つとルージュを引いた唇で弧を描く。
「エルディング様、お初にお目にかかります。私は『ヴィエッタ・エルメーヌ』。エルメーヌブランドの経営者です」
「知らんな」
「まだ立ち上げたばかりですので」
「それで。なんだ」
「閣下のお召し物を、私にご用意させていただきたく存じます」
ダーイングは少し考えた。
確かに着替えはない。
「かまわん。用意しろ」
そう答えた瞬間だった。
「では早速、採寸いたしましょう!」
ヴィエッタは瞳を肉食獣のように輝かせ、巻尺を取り出した。
ダーイングは瞬きをする。
どこから出した?
そう思わざる得ないほどの早業だった。
巻尺を鞭のようにひらめかせるヴィエッタ。
「うふん。作りがいがありますわ」
ピシリ!と目盛りを刻まれた白い帯が両手で伸ばされた。
ダーイングは一歩後ずさった。
危険な予感がしたからだ。
「そんなに警戒なさらないでくださいませ」
ヴィエッタは笑みを崩さず近寄っていく。
「ここではなんです。隣に従業員用の建物があるのでそちらに参りましょう?」
なんだ?
何をする気だ、この女は?
ダーイングはまわりを見た。
ライア以外の男性陣が、顔を逸らしている。
「ちょっと、大変かもしれませんが。頑張ってください」と男爵も、しっかりと顔を逸らしていた。




