『与えるもの』
「請求が『王』だと?」
「はい、エルディング様」
「俺に継承権がないことは、承知しているな?」
ウィスタードは静かに頷いた。
わかっていて、か。
『大公』でありながらも、ダーイングには継承権がない。
この国では、高位の貴族。
ましてや王族ならば『魔剣』を扱える。いや、扱えなければならない。
この国が『剣』の王に統治された国である以上それは必然だった。
しかし、ダーイングに『魔剣』はない。
魔剣どころかまともに扱える『剣』が存在しなかった。
──『剣を持てない王族』。
それが、ダーイングの呼び名だ。
ダーイングが使用した剣はどのようなものだろうと。
壊れる。
割れ、砕け、錆びつき、折れ、曲がり……。
ただの一振りで使い物にならなくなる。
魔法による『身体強化』に剣が耐えられないのではない。これまで、できるだけの剣でそれを試し、確かめてきた。
しかし、一本も『剣』はなかった──……。
◆◆
「申し遅れましたが、私どもが請求する『王』とはあなた様のことではありません」
「では、誰だ」
「『第十三位継承権保持者』です」
ダーイングは、眉をひそめた。
ならば、必要なことがある。必要なものがいる。
それに、なれと言っているのか?
この俺に。
「よろしいでしょうか?」
こつり、とライアが歩き出した。
「お客様。貴方が『まともな王』をお支払いくださるのなら……」
ダーイングの前まで歩き、立ち止まる。
「私は、そのひび割れを治し、貴方に『剣』をご用意します」
「剣を用意する?」
「腕によりをかけましょう」
ライアはダーイングの目をまっすぐに見ていた。
「どうなさいますか?」
変わらず、穏やかな微笑みを浮かべている。
ダーイングはそれを見た。
「失礼します」
横から声をかけられ、顔を向ける。
エルクリッドが黒い木板の上に挟んだ横長の紙を差し出していた。
「こちらは、請求書になります。ご承諾いただけるのでしたらご署名を」
請求額の欄には、はっきり『王』と記されている。
ダーイングはもう一度ライアを見る。
「どうなさいますか?」
差し出されている請求書。
『剣』。
もし、自分に振るえるものが。
そんなものがあるのなら──。
ダーイングは手を伸ばした。
「この店は随分と、高い支払いを請求するな……」
ダーイングは、請求書の一番下に署名をした。
「これでいいか」
「はい。当店のご利用ありがとうございます、お客様。ご満足いく物を用意させていただきます」
ダーイングの眼差しを受け止めて、ライアは揺るがない。




