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我が為ノ夢物語  作者: 好き書き帳
TRY ANGLE
2/75

『ごく平凡な幕開け』

 今日こんにちも、変わらない日々の一幕だった。


 ◇


「出ていけ」

 それは先生が、交際を申し込んできた相手に発した間髪ない台詞だった。


 ああ。やっぱり。

 ライアは、黙ってソファに座ったまま、ことの成り行きを見守っていた。

 拒絶の意志、純度百パーセントの先生に相手は驚いて固まっている。

 その名前を思い出そうとしている間に。

 相手がようやく声を絞り出した。

 

「で、出ていけってなんだ!!? いきなり一言目がそれってどうなんだよ!!」

「なら、追い出す。去れ。失せろ」


 二言目。また先生の決まりの文句が炸裂した。

 ようやく名前を思い出した。

 エビンさんだ。……たぶん。


「ライア、君もこの失礼な人に何か言ってくれ! 俺と付き合ってくれるんだろう?」

 スプルスと向き合っていたエビンは、のんびりとソファに座っているライアに助けを求めた。

 しかし、ライアは。

「すいません。わたし、お付き合いしたくありません」

「は??? え、じゃあ、なんで呼び出したんだ?」

「ええと、だから。交際をお断りするためにです」

「なんで!」

 エビンの怒りのこもった大声に、静かな怒りの声がスプルスの口から放たれる。

五月蝿うるさい。黙れ。喋るな。口を閉じろ」

「──お前が黙ってろ!!」


 ああ。先生の眉間のシワがどんどん深くなっています。

 エビンさん。それ以上、先生を怒らせない方が身のためです。

 交際はすっぱりと諦めて、お帰りください。

 ライアが、内心そう思っていることも知らず、エビンはいままさに、スプルスの胸ぐらにつかみかからんとしていた。


「あ」


 ライアの口がポカリと開く。

 ……そして、スプルスは逆にエビンの胸ぐらを掴んで、彼を床に叩きつけた。

 石材が軋み鈍い音をたて、エビンの口から苦鳴がこぼれる。


 ライアが見たところ、エビンは二十代の青年。

 ──対してスプルスは三倍程の年齢、つまりは六十代に見える。


老人じじいと思って油断でもしてたか、若造わかぞう

 スプルスは、眉間のシワをより一層不愉快そうに深めると、片手で白髪はくはつをかきあげて、足元に伏せているエビンを睨みつけた。


 そう。

 こうやって、ライアに交際を申し込んできた相手は、スプルスに叩きのめされる。


 それは、ライアにとってごくごく普通の先生の姿であり。

 交際を申し込んできた相手の末路であり。

 至極平凡な日常の行いであった。

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