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我が為ノ夢物語  作者: 好き書き帳
TRY ANGLE
19/76

『Request』

「……──以上です。すでに『男爵』にはお伝えしました。今頃は『石の家』にて大公閣下とお会いになっている頃でしょう」

「そうか。ご苦労」


『石の家』の執事、ウィスタードの報告を受けた相手は考え込む。


「それにしても、また変な男を引き寄せたな」

「スプルス様がお側におられるからと、休暇をいただいている間にこんなことになるとは」

「仕方がない。どれだけ装っても、隠せないものはある」


『石の家』の輝石師ライア。

 彼女はこれまでも、貴族、平民に関係なく人を引き寄せてきた。

 大抵はロクでもない人間。特に男性。

 かくいう自分も、その一人に含まれている。


「しかし、どうしたものか」

「お忙しいなか申し訳ありません」

「かまわんさ」


 一時の静寂。


「ところで、ウィス。彼は、やはり気にしているか?」

「……はい。次は、どのような者が選ばれるだろうか、と」

「それは、継承権順に選ばれるだろうな。このまま決議が進めば、『第一位継承権保持者』が次の王だ」


 つまり、現国王の第一子。


「やはりそうですか」

「ああ、そうさ」

「その御方は、『まともな王』となられるでしょうか」

 懸念けねんはそこだ。

 部屋の主人はワイングラスを揺らして、赤い波を立てる。

「どうだろうな」

「では……この方ならばという継承者はおられますか?」

「いるとも。──『第十三位』。ただし、王になるには『剣』が必要だ。それなりの『剣』がな」

「なるほど」


 執事は言葉の意味を察した。


「剣のない大公にはうってつけの役目。そして願ってもない好機こうきだろう?」

「では、ダーイング様にご請求するお支払いは、『それ』で」


 相手はニタリ、と笑う。


「ああ。支払い期間はとても長くなるな」


 グラスの中で、赤い波は揺れ続ける。



 ◆◆



『石の家』最上階の自室で、ライアは寛いでいた。


 先生に「部屋にいなさい」と言われてもうだいぶ時間が経った。

 そろそろ降りて行ってもいいだろうか、と思っていると。

 階段を駆け登ってくる足音と「ライアさーん」と自分を呼ぶ声がしたので、扉を開けて出迎えた。


「こんにちわ、カミュさん」

 こんにちは、とカミュも頭を下げる。


「師匠から伝言です。男爵来たからおりてきなさい、って。ウィスタードさんもすぐに戻ってくるそうですよ」

「わかりました。では、行きましょう」

 

 ライアはカミュと一緒に応接間に向かう。


「ところで、今日はどうされたんですか?」

「孤児院のみんなで石を集めたから持ってきたんです。けど、師匠せんせいに手伝うように言われて、ずっとお手伝いです」

 疲れました、と肩を落とすカミュ。


 階段を下りながら、ライアは少年を労うべく、あとで秘蔵のお菓子をお裾分けすることに決めた。


 ◆◆


「ウィスと、ライアさんが来たらお話を進めさせていただきます」


 男爵はにこやかな笑顔で言った。

 水色の整えられた髪。

 明るい色のネクタイにはタイピン。水の波紋のような澄んだ色の丸い石が一粒。

 薬指にはシンプルなデザインの結婚指輪がはまっている。


「その前にエルディング様。どうしてあのような場所にいらっしゃったのでしょうか」

 エルクリッドが笑顔から真面目な顔になる。


「おまえに視えているか知らんが、俺は『ひび割れ』ている。そのことを周りに伝えたら、心でも病んだと思われたらしい」


 ダーイングは息を吐き、「療養という名目で閉じ込められていた」と続けた。


 エルクリッドも他も黙ったまま、その続きを待つ。


「だが、これは半月経っても治らず。だから抜け出した。そしてあそこにいた」

「それはなんとも大変な思いをされたことでしょう」

「ああ。なんとも退屈だった。無駄なほど退屈でそれに飽き飽きしていた」

「事情は大方わかりました。私どももどうにかお力になりたいところ……ああ、ちょうどこられたようです」


 階段からとんとん、と足音が聞こえ、カミュとライアが降りてきた。


「ご機嫌よう。男爵。そして、皆さん」

 ライアはスカートを摘んで、会釈する。


「ご機嫌よう。ライアさん」

「うーっす、ライアちゃん」

「よお、石ころ嬢ちゃん」

 それぞれが、挨拶を交わしたところで、扉が開きウィスタードが戻ってきた。

「お帰りなさい」

「ただいま戻りました」

 ウィスタードはライアに一礼する。


「話はついたか?」

「はい。スプルス様」


 執事は、スプルスにも一礼した。

 そして、オーナーである男爵に向き直る。


「エルクリッド様」

「何かな、ウィス?」

「ダーイング様にお支払いいただくものが決まりました」


 何を要求されるのか。

 ダーイングは黙ってウィスタードの言葉を聞いていた。


「ダーイング・ツァイラ・エルディング様に当店をご利用頂くにあたり、私どもは──『王』を請求させていただきます」

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