『Request』
「……──以上です。すでに『男爵』にはお伝えしました。今頃は『石の家』にて大公閣下とお会いになっている頃でしょう」
「そうか。ご苦労」
『石の家』の執事、ウィスタードの報告を受けた相手は考え込む。
「それにしても、また変な男を引き寄せたな」
「スプルス様がお側におられるからと、休暇をいただいている間にこんなことになるとは」
「仕方がない。どれだけ装っても、隠せないものはある」
『石の家』の輝石師ライア。
彼女はこれまでも、貴族、平民に関係なく人を引き寄せてきた。
大抵はロクでもない人間。特に男性。
かくいう自分も、その一人に含まれている。
「しかし、どうしたものか」
「お忙しいなか申し訳ありません」
「かまわんさ」
一時の静寂。
「ところで、ウィス。彼は、やはり気にしているか?」
「……はい。次は、どのような者が選ばれるだろうか、と」
「それは、継承権順に選ばれるだろうな。このまま決議が進めば、『第一位継承権保持者』が次の王だ」
つまり、現国王の第一子。
「やはりそうですか」
「ああ、そうさ」
「その御方は、『まともな王』となられるでしょうか」
懸念はそこだ。
部屋の主人はワイングラスを揺らして、赤い波を立てる。
「どうだろうな」
「では……この方ならばという継承者はおられますか?」
「いるとも。──『第十三位』。ただし、王になるには『剣』が必要だ。それなりの『剣』がな」
「なるほど」
執事は言葉の意味を察した。
「剣のない大公にはうってつけの役目。そして願ってもない好機だろう?」
「では、ダーイング様にご請求するお支払いは、『それ』で」
相手はニタリ、と笑う。
「ああ。支払い期間はとても長くなるな」
グラスの中で、赤い波は揺れ続ける。
◆◆
『石の家』最上階の自室で、ライアは寛いでいた。
先生に「部屋にいなさい」と言われてもうだいぶ時間が経った。
そろそろ降りて行ってもいいだろうか、と思っていると。
階段を駆け登ってくる足音と「ライアさーん」と自分を呼ぶ声がしたので、扉を開けて出迎えた。
「こんにちわ、カミュさん」
こんにちは、とカミュも頭を下げる。
「師匠から伝言です。男爵来たからおりてきなさい、って。ウィスタードさんもすぐに戻ってくるそうですよ」
「わかりました。では、行きましょう」
ライアはカミュと一緒に応接間に向かう。
「ところで、今日はどうされたんですか?」
「孤児院のみんなで石を集めたから持ってきたんです。けど、師匠に手伝うように言われて、ずっとお手伝いです」
疲れました、と肩を落とすカミュ。
階段を下りながら、ライアは少年を労うべく、あとで秘蔵のお菓子をお裾分けすることに決めた。
◆◆
「ウィスと、ライアさんが来たらお話を進めさせていただきます」
男爵はにこやかな笑顔で言った。
水色の整えられた髪。
明るい色のネクタイにはタイピン。水の波紋のような澄んだ色の丸い石が一粒。
薬指にはシンプルなデザインの結婚指輪がはまっている。
「その前にエルディング様。どうしてあのような場所にいらっしゃったのでしょうか」
エルクリッドが笑顔から真面目な顔になる。
「おまえに視えているか知らんが、俺は『ひび割れ』ている。そのことを周りに伝えたら、心でも病んだと思われたらしい」
ダーイングは息を吐き、「療養という名目で閉じ込められていた」と続けた。
エルクリッドも他も黙ったまま、その続きを待つ。
「だが、これは半月経っても治らず。だから抜け出した。そしてあそこにいた」
「それはなんとも大変な思いをされたことでしょう」
「ああ。なんとも退屈だった。無駄なほど退屈でそれに飽き飽きしていた」
「事情は大方わかりました。私どももどうにかお力になりたいところ……ああ、ちょうどこられたようです」
階段からとんとん、と足音が聞こえ、カミュとライアが降りてきた。
「ご機嫌よう。男爵。そして、皆さん」
ライアはスカートを摘んで、会釈する。
「ご機嫌よう。ライアさん」
「うーっす、ライアちゃん」
「よお、石ころ嬢ちゃん」
それぞれが、挨拶を交わしたところで、扉が開きウィスタードが戻ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
ウィスタードはライアに一礼する。
「話はついたか?」
「はい。スプルス様」
執事は、スプルスにも一礼した。
そして、オーナーである男爵に向き直る。
「エルクリッド様」
「何かな、ウィス?」
「ダーイング様にお支払いいただくものが決まりました」
何を要求されるのか。
ダーイングは黙ってウィスタードの言葉を聞いていた。
「ダーイング・ツァイラ・エルディング様に当店をご利用頂くにあたり、私どもは──『王』を請求させていただきます」




