『WORKERS.2』
着替えを済ませたダーイングは、カミュに案内され、また『石の家』の応接間に降りていた。
そこでは、スプルスに加えて二人の男が、長椅子に行儀悪く座っていた。
どちらもガラの悪い目つきをダーイングに向ける。
「こいつが大公?」
跳ねた赤髪を髪留めで縛り、尾のように垂らしている青年が独特なしゃがれた声で質問する。
「ザイル先輩。エルディング様に失礼ですよ」
カミュが言葉遣いを嗜めるが、青年は「けっ」と吐き捨て、改める様子はない。
ダーイングは静かに新手の二名を観察していた。
ザイルと呼ばれた青年は、両耳にいくつもの飾りをつけている。
特に左耳。碧の石を加えた蛇の耳飾りが目立つ。
同系色の緑のシャツの首元で、だらしなく緩めた黒いネクタイが下がり、腰には斜めにかけた太い革のベルト。
赤に緑と派手で毒々しい。
「ギリクさんも」
「知らねえ」
背もたれに肘をかけた巨漢も、あごを上げ、重低音の声で態度を改めることを拒む。
次はギリクと呼ばれた男。
こちらは、濃紺をさらに濃くした短髪に、浅黒い肌。
太い首から続くのは、筋骨隆々とした肩や胸。腕に大きな手と足。
裏にスパイクが打たれた重そうなブーツを履き、腰の黒いベルトには、ジャラジャラと金属のパーツが連なる装飾が下がっていた。
太い指には、それに見合った指輪がはまっている。
「エルディング様は、お客様ですよ?」
「だからなんだよ。俺が貴族嫌いなの、知ってんだろ?」
ザイルは目元を歪ませる。
「知ってますけど」とカミュは困った顔をする。
ギリクは、ダーイングにガンを飛ばしていた。
腕を組み、受けて立つ姿勢をとれば、「へえ、やるかよ?」と、長椅子をぎしり、と軋ませてギリクが立ち上がった。
ニ〇〇センチ近い。
巨漢が肩をいからせて歩いてくる。
ダーイングは静かに全身に力を込めた。手を閉じては開く。
「やめろ」
「止めんなよ、じいさん先生」
ザイルが不満をこぼす。
「ギリク」
「ちっ。スプルスのじいさまに感謝しな」
巨漢は舌打ちして下がった。
元いた席にどかり、と座って足を組む。
重みでまた長椅子が軋んだ。
はああ、とカミュが息を吐き出す。
ダーイングも力を抜いて、手を開き、だらりと下げる。
「相手をしてやってもよかったのだが?」
「黙れ。さもなくば追い出す」
スプルスは静かに断じた。
「カミュ」
「なんですか、師匠」
「座りなさい」
「……はい」
カミュは、スプルスと同じ長椅子の端に座った。
「おまえも座れ」とうながされ、ダーイングは向かいの長椅子を選んだ。
疎ましげなスプルス。
険のある目のザイルとギリク。
そして、つまらなそうなダーイング。
「紹介してやれ」
「わかりました。エルディング様、ご紹介します。こちらの赤髪の先輩が仕入担当の『ザイル・ロッゾ』さん。隣が用心棒の『ギリク』さん。『石の家』の従業員です」
カミュは居心地悪くソファに座りながら、二人を紹介した。
二人から挨拶などはない。
沈黙。
◆◆
──空気が重い!! カミュは助けを求めた。
だが、師匠にも先輩たちにも、お客様にも無理な頼みだった。
誰か、何か言ってください!!
そこへ。
扉が開く音と共に「お待たせしました」と救いの声がした。
「お待ちしてました! 『男爵』!!」
カミュは、思わず大きな声を出してしまい、すぐに口をつぐむ。
「これでも急いだんですが、お待たせしてしまい誠に申し訳ありません。エルディング大公。それに皆さんも」
「おまえは、この店の何だ」
「私は『石の家』のオーナー。『エルクリッド・ユス・アルスフォン』でございます」
エルクリッドは、にこやかな笑みを浮かべる。
「アルスフォン男爵家の長男で、元『男爵』です」と、付け加えて。




