『WORKERS.1』
ダーイングは汚れを落とした体をタオルで拭き、ズボンに足を通した。
おざなりに拭いた髪は湿ったまま。
長髪は裸の上半身の背に張り付き、いくつも雫を落としている。
ポタリ、と水が落ちる音に、耳を澄ませていると。
こんこん、という音が混じり脱衣所に響いた。
音の方に目を向ければ、「あのぅ、出られましたか?」と、脱衣所の扉の外から、戸惑いと緊張を含んだ少年の声がした。
「なんだ」
「お水をお持ちしました、エルディング様。入ってもいい、いえ、構いませんか?」
「許す。入れ」
「じゃあ、失礼します」
脱衣所の扉が開く。
おずおずと入室してきたのは、身長一六〇センチ程の少年。
薄らと緑を帯びた光沢のある銀髪。
瞳は澄んだ湖面のような青。目の端は少し垂れている。
学生が着ているような白の半袖シャツに青色のネクタイの組み合わせ。
シャツは襟や袖にラインや染めが入り、アクセントを足す。
ネクタイの付け根には楕円形のカバーが被せられている。
それは透明感のある青に緑、紫が混在する石の装飾品だった。
少年は、水の入ったコップを手に持ったまま固まっている。
「どうした」
「いえ、その………。背が高いなあって、ちょっと驚いてしまって」
上目遣いで見上げてくる瞳。
たしかに、自分は背が高いが驚く程のことではないと思ったが、ダーイングは指摘しなかった。
「そんなことか」
「すいません。ええと、こちらをどうぞ。天然水です」
少年がグラスを差し出すと、小指に嵌まった蝶の翅を模した指輪が光る。
光の角度で蝶は翅の色彩を変え、本当の蝶がひらひら、と舞っているような錯覚を覚えた。
ダーイングはガラス杯をつかむと、水を飲み、空になった器を返した。
それを受け取った少年は軽く頭を下げる。
「ご挨拶が遅れました、エルディング様。僕は『カミュ』と申します。この『石の家』の従業員見習いでございます」
カミュは、穏やかな笑みを浮かべ、指輪のはまった手が、首元の装飾具に添えられた。




