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我が為ノ夢物語  作者: 好き書き帳
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15/76

『魔力なし』

 冷めてしまった紅茶をウィスタードが下げ、新しく淹れ直していた。

 もわり、と湯気が立ち、茶葉と花の香りが鼻をくすぐる。


「私は、とある『石』を扱うお仕事をしています。ですが、その石は剣王国の魔導具に使われている『魔石』とは違う石です」

「……この店は、魔石を扱わないと言っていたな。改めて聞く、なぜだ」


 一拍置いて、ライアはあり得ないことを明かした。


「なぜなら、魔力値が(ゼロ)だからです。魔石は、私の専門外です」


 ダーイングは、ライアの発言に耳を疑う。


「魔力がないだと?」

「はい。一欠片もありません」

「そんな人間がいるのか」

 ダーイングの問いかけに、「目の前に」とうなずいたライアはメガネがずれ落ちそうになり、慌ててそれを押さえた。



 『魔力のない人間』。



 ……なんだそれは。

 この世界にいるものは、なんであれ、誰であれ魔力を持っている。

 多かれ少なかれ差はあるが、必ず持つもの。それが摂理だ。


 ダーイングが不審な目をライアに向ける。

 しかし、ライアはウィスタードが淹れた紅茶を静かに飲んでいた。


『輝石師』『魔力値0』。

 わからないことばかりだ、この『ひび割れ』を含め。

 右手を見る。

 亀裂は──指まで広がっていた。力を込めれば、ボロボロと崩れ落ちそうなほどだ。


 まだ。『掴めていない』というのに。

 捨てきれない想いが後押しして、胸の中に焦りを生んでいた。


「おまえにこれが、どうにかできるのか」

「治すためのお手伝いはできます」

「なら、治せ」


 ライアに向けて、ダーイングは手を伸ばす。


「待て」

「お支払いはどうされますか?」


 スプルスとウィスタードに言葉でさえぎられた手が止まった。

「後で望むだけ支払ってやる」と返答するも、二人はダーイングを値踏みするような目を向けている。


「少しお時間をいただけますか?」

「待つ気はない」

「ならば、お受けできません。このお話は無かったことに」


 ウィスタードが一礼し、扉を示した。

『お引き取りください』という意思が込められているのが、はっきりとわかった。


 待たねばならんらしい。

 ダーイングは伸ばしていた手をおろす。


「ダーイング様、お待ちの間にお風呂に入られませんか?」

「風呂?」

「まだ足が汚れています」


 店に入る前に渡された替わりの靴を履いているが、素足は汚れたままだ。

 ダーイングは気にしていなかったが、ここは従うことにする。


 ただ待たされるよりはマシだった。


 ◆◆


 それからウィスタードは入浴の準備をした。

 ダーイングを浴室まで案内して、再び『石の家』の一階、応接間に戻る。

 ライアはスプルスに言われて、自室に戻っていた。


「では、この件を『男爵』にお伝えしてきます」

 スプルスがうなずくと、ウィスタードは背を向け、つかつかと、かかとを鳴らして出ていく。


 やがて物音が消え、カップを置く音が室内によく響くようになると、スプルスは口を開いた。


「『剣なし大公』が、よりにもよって『あの顔』とは、な」

 氷もなにも入れていないのに紅茶の杯は冷え切って、そこに映る瞳の瞳孔は針のように細まっていた。

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