『もはや遠い彼方の地』
「ごちそうさまでした」
ライアは、おいしいお肉とパンと野菜に感謝を込めて、手を合わせる。
「お嬢様、唇にソースがついております」
ちろり、と舌を出して唇を舐めると串焼き屋の秘伝の味がした。
「はしたのうございます」
ウィスタードは、ライアを嗜めた。
「お客様はいかがでしたか?」
空になった皿を見て、ライアはにこやかに問いかけた。しかしダーイングはそれには答えない。
「食事などどうでもいい。それよりも『これ』だ」
右手を掲げてひび割れを見せる。
「これは何だ?」
「それは『ひび割れ』です」
「見たらわかる」
「おまえはなぜこれが視える」
「それは、私が……」
「待て。ライア」
スプルスが言葉を遮り、ダーイングを睨み据えていた。
「いい加減、帰ったらどうだ」
「いい加減、やかましいな。黙らせてやろうか」
先ほどからずっとこれだ。いい加減に飽きた、とダーイングが苛立ち混じりの視線を向ける。
相対するように紫の瞳が疎ましそうに輝き、色味を増した。
ウィスタードも警戒している。
「先生。私がご招待したんですから、説明させてください」
「……手短にな」
しぶしぶとスプルスが折れた。
ライアはうなずくと、居住まいを正し、胸に右手を添える。
「私はこの『石の家』の職人──『輝石師』です」
胸を張って、そう打ち明ける。
……が、やはり。
それが何なのか知らないダーイングは、わずかに首を傾げていた。
「『シャングリラ』の言葉ですから。わからなくて当然ですよ」
『シャングリラ』。
これも、自分は知り得ていてるが、ダーイングにはわからない言葉で。
やはり。
ダーイングは、眉をひそめていて、ライアはにっこりと微笑んだ。
「もう、とおい。ずぅっと遠い場所のことですよ」
その言葉に。
スプルスの瞳は哀愁の深い紫をにじませた。




