『石の家』
ライアは忘れてはいけないと、男たちが道端に置いて行った紙袋を拾った。
中を確かめなくても触れただけでわかる。
「あうう、お肉が冷めてしまいました」
がくりと、うなだれる。
お肉は温かいうちに食べるのがおいしいのに。
熱を失った紙袋はどこか物悲しい。
「おい」
「お待たせしてすいません。ではいきましょう」
すっかり冷めた紙袋を抱いてライアは早足で歩き出した。
ダーイングもまた歩き出す。
しかし、男の身長はライアの頭ふたつ程高い。
歩幅も違うため、普通に歩くだけですぐにライアを追い越してしまう。
ライアは気をつかって普段より一割ましで歩調を早めていたが、その差は大きかった。
「大公様は背が高いから、足も速いですね」
「おまえは遅いな」
「失礼を。エルディング大公」
「ダーイングでかまわん」
「では、私もライアでお願いします」
歩調の合わない二人はそのまま、『石の家』へ向かった。
◆◆
裏路地を抜けて、しばらく歩いた後。
ライアは立ち止まる。
幸いなのか、他に通りをゆく人の姿はなかった。
「着いたか」
「はい。あちらが私の家でお店。『石の家』です」
ダーイングに指し示すのは、どっしりとした大岩を思わせる荒削りの石材で組まれた建造物だ。
両開きの大きな正面扉。磨かれたドアノブから扉全体に、華美にならない調和の取れた上品な装飾が施されている。
しかし、店といったが店名を示す看板らしきものはない。
「寂れた場所にあるのだな」
「それでも、なかなか繁盛していますよ?」
「何を扱っている」
「もちろん『石』です」
ああでも、とライアは大事なことを付け加えた。
「魔石はお受けしていません」
魔石を取り扱っていないことに、ダーイングはやはり疑問を持った。
「なぜ受けない」
「それは、私の魔力値が……」
ライアが答えようとした時。
バタン、と扉が開く音がして、白髪の男性が顔を出した。
「ただいま帰りました、先生。こちらは」
「その男はなんだ」
スプルスは、ダーイングを睨みつけている。
今にも、片手で掴んで投げそうな目つきだった。
「ええと、大公様です」
「……大公だと?」
スプルスの眉間のシワが深くなる。
ダーイングを、目をさらに細めてより強く睨んでいる。
「『エルディング』のか?」
「そうだ、それがなんだ?」
「消え失せろ」
スプルスの言葉には、拒絶と不機嫌が十対十で配分されていた。




