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我が為ノ夢物語  作者: 好き書き帳
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1/75

『退屈な幕開け』

 絵本の最後はこう締めくくられる。


『また会おう。この身が朽ちても。この身に流れている血がいずれ、またおまえの前に立つことを望む』

 そう言って、おまえは重たい鎧から解放されて眠りについた。

 永い長い醒めない眠りに。

 ならば、その夢も醒めなければ良い。

『約束』などいらない。

『約束』など、したくない。

 それは『呪い』としか思えない私には。辛過ぎるものだから。


 白騎士は、双剣を地に突き立てて、天を仰ぐ。

 無音の咆哮を上げて、空に悲しみを響かせた。


 長く。長く。

 黄昏が地に堕ちるまで。───という、悲しい終わり。王の最後で物語は終わる。


 ◆


 ここは、とても静かだった。

 それ以上も以下も、なにもないほどに。


「───『退屈は人を殺す』というがまさか、まことにそうだとは、な」

 男はひび割れた手のひらを、つまらなそうに見て、つまらなそうに言った。


 男は、天蓋てんがい付きの大きな寝台に横たわっていた。

 金色の長髪が純白のシーツの上に広がっている。

 掲げていた手を下ろし、男は遠くに問い掛けた。


「それで、俺はいつまでこうしていればいい?」


 寝台の横に置いた古い絵本はもう何度読み返したかわからない。

 ページは端がかけてしまっている。

 子供の頃から読んできて、飽きたことなどなかったはずが。

 ここにきて読み飽きてしまった。


御身おんみの病が治るまででございます」


 つまらない返答だった。 


「それはいつだ? お前達はいつまで、俺にこうして大人しくしていろと?」

 扉の側にいる守衛は、答えに渋る。


「……いまだ、『ひび割れ』なるものはお見えになりますか?」


「そうだったな。お前達には視えないのだったな」

 他者にはこれが。この身体に入った『ひび割れ』が視えない。

 己にしか、自身の手や足、胸に入った亀裂を認識できないのだ。


 そして───。

 それが視えている自分の方が、おかしくなったのだと。

 気でも触れた、と。


 周りの者は言い掛かりをつけ、こうして、守衛をつけて自分を隔離した。

 そして、来る日も来る日も、医者や魔導師の治療を施される退屈な日常に追いやられたのだ。


「いささか。飽きた」

 男はむくり、と起き上がった。長い金髪が垂れ下がる。

 同時に、守衛たちが腰の帯剣に手をかけた。


「動かれるな。いざとなれば力づくで止めよ、そう命を受けております」

「それは退屈しのぎにちょうどいいかもしれん」


 寝台から足を下ろし、手足の具合を確かめる。

 問題ない。まだ動く。

 男は、守衛たちをつまらなそうに見た。


「まずい薬も、役に立たん治療も、もういらん。──退屈すぎる」


 このままでは、退屈に殺される。

 この訳のわからない病ではなく。


 守衛たちは、すでに剣を抜き放っていた。


 男のヒビの入った素足が、豪奢な刺繍が施された絨毯を踏む。

 剣を持った守衛たちが迫ってくると、その瞳にわずかな羨望が宿った。


「俺の前で堂々と剣を振るとは……いい度胸だ」

 羨望はすぐに冷めた瞳の中に消えて、胸の中にくすぶりを残した。

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