見知らぬ彼の「久しぶり」
ある日、突然見知らぬ人から「久しぶり」と声をかけられた女子大生。なかなか顔を思い出せずにいると・・・・
「よぉ久しぶり!」
とある寒い冬の暮れ、大学のキャンパスからアパートに帰る途中の道で突然後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには同い年くらいの男性が立っていた。爽やかで親しげな笑顔をこちらに向けている。
・・・いや誰?
私の悪いクセだ。昔から人の名前や顔を覚えるのが大の苦手。
高校までは、これが欠点だと感じることはなかった。だけど大学に入ってからというもの、このせいで人脈を広げる機会を失うことが度々あり、最近この欠点の欠点ぶりを痛感していたところだった。
「えー!ウソー!久しぶりー‼」
私はとりとめのない挨拶とくったくのない笑顔で時間稼ぎをすると、頭を高速回転させて「推理」を始めた。
(「久しぶり」ってことは1年の頃のクラスメイトとか?)
(いや、それとも、なんかの講義で一緒になって仲良くなった人?)
(ん?待てよ。この爽やかなマスク・・・割と最近会った気も・・・)
・・・あ!なんかもう少しで思い出せそう・・・・・・!!
「もしかしてオレのこと覚えてない?」
「へ?」
私の反応で察したのか、目の前の男性が不安そうに訪ねてきた。マズイ!
「い・・・いや、そんなわけないじゃん!ちゃんと覚えてるよ。確か、なんかの講義で一緒になったんだよね。今パッと名前が出てこなくてさー・・・ハハ・・・」
「・・・・・ごめん、なんかオレの勘違いだったみたい」
男性は気まずそうにそう言うと、そそくさと行ってしまった。
・・・・やってしまった。
これがいつものパターン。私に残るのは、そこはかとない罪悪感だけ。
もう!なんで私ってこうなのよ!
・・・それから数日後、家で何気なくテレビを観ていた時、突然あの男性が誰だったかハッキリと思い出した。
私ったら、本当になんで忘れてたんだろう。つい数日前、あの日、あの場所で私はその男の顔を確かに見ていた・・・。
テレビでは最近この近辺でたて続けに起こった連続放火事件の容疑者が警察に連行されるシーンが映っていた。
私は初めて自分の欠点に感謝した。
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