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12月12日、夏の終わり。

 12月12日、僕の夏休みは未だ終わっていない。


 あの日以来、僕は彼女と会っていない。


 彼女はきっと手術を受けただろう。結果は分からない。だから、僕はまだ踏ん切りもつかずに、堤防にいる。


 この漁師町には、ホスピスがあった。


 もう手のつけようのない患者が通う介護施設がホスピスだ。海の近くに作るのは、最後の景色が美しくあるようにだろう。そのホスピスには自由時間があった。その時間だけは施設の外に出ても良い。


 これは、彼女がいなくなってから、分かったことだ。


 彼女は僕に何を求めていたのだろう。彼女が初めて僕を見つけた時、彼女は僕に何を期待したのだろう。


 僕は彼女の期待するものを提供できただろうか?



「よう! 少年!」


 その声はいつか聞いたおじさんの声だった。僕が振り返ると、あの時と同じで、髪はぼさぼさでだらしなかった。


「こんなに寒いのにまだ釣りか?」

「そうですよ。」

「ここ、釣れないだろう? だって、いつも君だけじゃないか?」

「そうですね。」

「誰かここで死んだか?」

「なら、僕がその死体を釣りあげてあげますよ。」

「なら、頑張れよ。」

「で、目的は何ですか?」

「目的があるとは限らないと、前回と同じ講釈を語りたいところだが、繰り返しは避けよう。」

「じゃあ、目的は何ですか?」

「その前に、今頃になるが、自己紹介をしよう。」

「今頃ですね。」

「私は、空岡勉。空岡優海の父親だ。」

「……聞いたことのある名前ですね。」

「君にとっては、白いワンピースの彼女と言った方がいいかな?」

「で、父親が何の用ですか?」


「優海は死んだ。」


「失敗したんですね。」

「……そうだな。」

「……。」

「もう葬式も終わって、色々と整理が付いた。


 だから、君に伝えるべきだと思ったんだ。」

「月は掴めませんでしたか。」

「元々、雲を掴むような確率だったからね。


 でも、彼女は手を伸ばしたよ。涙を擦る手を希望に手を伸ばした。


 それでも、手は届かなかった。」

「僕はその結末だとしても、後悔はありませんよ。」

「そうだろう。


 だから、君は他の人を愛せ。」

「言われずとも、きっとそうしますよ。」

「だから、君に話しかけたのかもな。」

「そうかもしれませんね。」

「じゃあな。もう来ない。」


 彼はそう言って、堤防を去った。


 そして、僕も立ち上がった。


 もう、終わりにしよう。





 ようやく、僕の夏休みは終わりを迎えた。

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