表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追い駆けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と始まり
9/21

ある神殿への遠征②

 鬱蒼とした森の中にそれは佇んでいた。

 歩み寄ることすらも躊躇われてしまうほどの圧倒的な存在感。

 まだ遠目に見ているだけだというのに明らかに気圧されている。

 我々のような下賤の者が近付いていいのだろうか。そう思わさせられる。


 覚醒の神殿。

 我々、後世の者が後付けした名前ではない。神殿調査によって、建立時に刻まれたであろう当時の言語と思しき文様から判明した、正式な名前である。


 第一次および第二次神殿調査団は大きな成果を挙げた。

 彼らや彼らを含む研究チームによって様々なことが解り始め、まだ残されている謎の続きを究明するためにこの第三次神殿調査団が派遣されたのだ。

 彼らの気概たるや如何ばかりか。



 そんな学者たちでさえ緊張を隠せないのがよく解る。

 彼らでそうなのだから我々は尚更だ。いや逆に、彼らほど学がないことが幸いしてこの程度で済んでいるのかも知れない。


 静寂が支配している。

 空気がシンと張り詰めている。

 聞こえる音といえば、ザクザクと我々が踏みしめる足元の草の音か、カサカサと木々が蓄える葉が頭上で擦れる音ぐらいである。

 まるで足元の音が頭上で木霊のごとく反響しているようだ。

 この土地に我々は歓迎されていないんじゃないのか。

 なんともいえない雰囲気に耐えかねたのか、そんな不安を学者たちが口にしだした。

 感覚共有魔法を使って森の声を聞き、問題ないことを説明して彼らには何とか安堵して貰うことができた。

 こういう使い方も必要なんだな。


 やがて幾分か背の低くて若い木々が多くなってきた。

 建立当時はこの一帯は拓かれた場所だったであろうことが解る。



 視界も拓かれたことで木々の間から射し込む陽の光によって白い建造物が照らし出され、その全容がはっきりしてきた。

 鈍い光沢だと思っていたが、艶のある石と艶のない石版が交互に規則正しく敷き詰められていることが判った。

 文化的にも様式的にも、明らかに我々のそれとは全く異質と言って差し支えない次元の美しさがある。


 白くも鈍い光沢を放つ石造りの建立物。過去のいずれの建築様式にも属さないといわれる、積み木のように直方体の石を組んだだけにも見受けられる様相。

 レンガを積み上げたような単純構造ではなく、1m前後ある巨大な石板を寸分の狂いなく組み合わせた計算ずくの壁面。石版の境界もすぐ傍で見て初めて判るレベルである。

 我々の文化や文明とは全く異なると言われていたが、この目で見てその通りなのだと確信できた。


 色こそ白と表現したが、その無機質な白と対象的に鮮やかな緑が映える。

 足元をビッシリと覆う苔と中腹から上をこれもまた複雑に絡み合う蔓や蔦だ。

 自然が生み出した文字通り生き生きとした鮮やかな緑色だ。


 悠久の時を、いやどの程度の年月を経てきたのかはさっぱり解らないが、今を生きる我々とは明らかに異なる文化や文明を持っていたであろう人たちが建立して、長い年月を大自然の中に晒されてきたのだろう。

 それでも腐食や風化の様子はないのだが。

 何の石だろう。後で調査団に訊いてみよう。



「全員整列!」


 調査団カール団長の号令に従い、神殿正面に向かって横一列に団員が並んだ。

 いちおう我々もその横について並ぶ。


「道中は魔獣の類に遭遇しなかったが、神殿の中もそうとは限らない。アメリア殿たちが護衛してくれるとはいえ引き続き周囲に注意を払うこと。では、このまま中に入る」


「はい!」



 予め聞いていた段取り通りだ。

 疲れるような距離ではないので、怪我した者や異常がなければ休憩はなしで神殿内にそのまま進入することになっていた。


 再び森林内と同じ陣形を組んで神殿内に進んだ。

 俺とアメリアが先頭で、アンドレスとカミーユが殿だ。

 神殿の外壁に絡みついていた蔓が内部にも多く見られるため、俺の感覚共有魔法で周囲の情報をつかみやすいためだ。


 植物というのは大変な力を持っている。

 虫一匹と入り込む隙間がないように見えるのに何処かから根を張り蔓を巡らせ拡がっていくのだから。

 蔓を辿ると外壁より小さな石板の繋ぎ目から這い出しているようだ。

 何度も繰り返してしまうが自然って本当に凄い。

 深く感覚共有すると自然の一部になって悠久の時の中に意識を持っていかれそうに…

 いや駄目だ駄目だ。すぐに我に返った。

 よし、大丈夫だ。

 平静を装ったつもりだったがアメリアが覗き込んでいた。


「どうかした?」


「あ、いや、感覚共有していて少し意識を持っていかれそうになった」


「また?」


 そう、まただ。

 くすくすと笑われた。

 あ、後ろのカールさん?

 そんな怪訝そうに見ないで?

 すみません。



 廊下の道幅はなんとか4mくらいだろうか。

 武器を振り回すとなると横に誰かいると接触しかねないため戦闘の際は考慮する必要がある。


 廊下の壁は外壁と違って少しレンガ造りに近いように見受けられる。

 外壁のような1m四方ある大きな石板ではなく30cm四方くらいのサイズで組み上げられ、艶のあるもので統一されている。

 また石板はもとより隙間を埋めている材料も何か解らないが植物の蔓が貫いているのはここだ。


 一方、足元は艶のない石板で統一。

 滑りやすいかと思いきや石畳の床とそう変わらない。

 少し足音が響きやすいくらいか。いや反響してるのは床ではなくて廊下全体の構造からか。


 そんなことをチラリと考えながら俺とアメリアが先行し、その少し後ろをカール団長が続く。


 俺も感覚共有魔法を張ってはいるがアメリアは周辺警戒を怠らない。

 アメリアと一定距離を保ちながら、俺はカール団長にルートを確認しながら歩を進める。


「小型の魔獣が2体いますが距離がまだあります。地図ではこのあたりですね。早めに先手を取りましょうか」


「そのようにお願いします。最初の調査ポイントはこの辺りなので、不安は取り除きたいですね。団員に伝えてきます」



 これもまた事前の打合せどおり立ち回る。

 俺とアメリアが先行。

 距離を少し置いてカミーユ。

 学者たちを挟んで背後をアンドレス。

 場所や状況によってケース・バイ・ケースだが、今回はこの陣形だ。



 ・・・・・。



 さて。

 戦闘は容易く済んでしまった。


 様子を描くまでもない。つまりカットだ。

 ぶっちゃけ戦闘描写は少ないほうがいい。

 嫌いじゃないんだけど、あまり引き出しが多くないので元々遅い進展が更に遅くなってしまう。


 ぎゅーん、とか。

 ズドドドーン、とか。

 終始これだけで15ページ使って終わっちゃうマンガも嫌いじゃないくらいなんだけど、それを絵ではなくラノベに書くのは難しい。

 技術がないだけなんだけど。


 そもそも過去2回の神殿調査において強い魔獣の発見報告はなく、ただ狭い神殿内でサクサク調査を進めるため必要と判断された少数精鋭パーティと聞いている。

 ちょっと物足りないなんて言うと怒られてしまう。

 余裕をもって安全に進めるに越したことはないのだ。



 さて、我々は再び神殿内を進む。

 あいにく、いや幸いにして周囲には他の魔獣の存在は感じられない。

 カール氏たち調査団員には暫く安全であることを伝え、ほどなくして最初の調査ポイントに着くことが出来た。


 広間あるいはホールと言うにはさほど広くなく、部屋と言うには幾分か広めの空間。なんとも身勝手な見立てではあるが、ドアのない入口をくぐるとそんな空間に出た。


 内装は廊下と大差ない。

 そういえばここに来るまで気付かずにいたが、燭台の類いが見当たらないのに全く暗くない。

 どうやら天井に貼られている素材が、これが何なのか判らないが、光を発しているらしい。これも後で調査団に訊いてみよう。



 学者たちはカール団長の指示に従って既に各々の持ち場に別れて作業を開始している。

 壁面に彫られた文字や紋様を記録する者、手元の文献と照合する者、道具や魔法を使って壁面の手入れをする者など。

 カール氏も団長として指揮する傍らで彼らと同じように作業をしている。少数編成のため余裕が人員に余裕がないのだろう。プレイングマネージャーというやつか。


 この調査ポイントは、地図によればこの神殿内では中規模の空間だ。

 壁面には外観と同じく約1m四方の石板が規則正しく並べられており、違う点は色が白ではなく紺碧であるところか。

 艶のある石板、艶のない石板が交互に並べられ鈍く光っているように見える点は同じだ。

 その壁面や床面、天井に至るまで施された何箇所かのレリーフを、彼らはつぶさに観察している。

 先程も言ったように天井が光を発しているため暗くないが、角度によっては陰になって見にくい部分があるのだろう、レリーフに照明をあてながら観察している。



 さて、彼らのことはこれくらいで。

 我々4人の仕事は彼らの護衛だ。

 彼らが調査をしている間も絶えず危険が及ばないように周囲を警戒中だ。

 とは言え今のところ遺跡内には所々に蔓が見られるため俺の感覚共有魔法が有効であり、今は近くに脅威はない。


 先ほど範囲を拡げて確認してみたところ遺跡の7割前後はカバー出来ており暫くは索敵が容易であることはメンバー全員に伝えている。

 そのメンバーは、この部屋に入ってきた入口側にはアンドレス、この後で向かう出口側にはアメリア、部屋の中央にカミーユ、外壁側に俺が陣取っている。


 警戒体制は、万一の事態への安全マージンだ。

 あと調査団の学者たちへのポーズも含んでいるのも事実だが身も蓋もないからコレは言わない。オフレコということで。




 やがて同ポイントで予定していた調査を完了。

 少し休憩をとり、次の調査ポイントへ移動を開始した。


 そして、また魔獣と遭遇するも、今度は4体いたがこれも難なく撃退。

 ちょっとだけその様子を描くならば、大いに退屈していたアメリアが俺から場所を聞くや否や先行して瞬殺したことか。

 しかし誰もその様子を見ていないので、何とも描きようがない。


 ということで、ここでもほぼカットだ。




 神殿はそう広くない。

 いま我々がいる一階と広くない地下一階は地図が完成しており、補完すべきエリアは二階である。

 また地下一階はその殆どが倉庫機能ということが判っており今回の調査対象区域からは外されているとのこと。

 一階の調査が終われば二階へ上がり、マッピングの補完をしながら未調査区域での作業と、その階にあるであろう魔法陣での臨床試験に進めるというわけだ。



 やがて次の調査ポイントに辿り着き、学者たちは先ほどと同じように調査を行い、我々は周囲を警戒して彼らを護衛する。


 この調査ポイントでの活動を終えれば二階へ上がることになる。

 さぁ気を緩めることなく護衛に専念しよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ