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追い駆けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と始まり
8/21

ある神殿への遠征①

 魔法陣開発特別チームへの参画は終了となった。

 所属していた「解析」グループの仕事は概ね完了して解散。魔法師団の何名かは「書き換え」グループに編入されて魔法構築の任についたが、神殿調査を行うチームの編成が完了したと城から連絡があり、そちらを優先させるようにとの理由で俺はめでたくお役御免となった次第だ。


 そういうわけで、いまは約1ヶ月ぶりにパーティ4人で遠征に来ている。

 正確には4人だけではなく、第三次神殿調査団に護衛兼覚醒魔法陣の被験者として帯同しており、彼ら調査団員8名と合わせて計12名の所帯である。

 城が手配した馬車3台に人と資材を詰め込んで二日半の行程を経て昨日この地へ到着したところだ。


 そういえば出立のときは朝早かったにも関わらずにフリーデン騎士団長とヨハンソン宰相が城門のすぐ傍まで見送ってくれたっけ。


 え?

 よく聞いてくれました。

 ようやく両名の名前が決ま…、ゲホンゲホン。名前を覚えました。

 以前までは「騎士団長どの」「宰相どの」としか呼んでいなかったから、これで礼を失することが無くなったことだろう。多分。


 さて、話を調査団が到着した時のことに戻そう。


 神殿は鬱蒼とした森林の中に通された古い林道から大きく外れた山の斜面近くにある。

 普通なら馬車では入れない場所にあるが第一次神殿調査団が林道を辛うじて延ばしてくれてあり、神殿まで残す距離は1kmもない。

 なお林道は石畳等で舗装がされているわけでない。木の根や大きな石を掘り起こして土を踏み固めた程度のものだが獣道に比べれば格段に快適である。


 林道の終着点には約20~30m四方が切り拓かれた場所があり、ここで昨日から当調査団初の野営を始めたわけである。

 王国の騎士団から貸し出された天幕には様々な生活魔道具が完備されているので調査団の方たちは比較的快適な夜を過ごしたことだろう。

 そのぶん構造もやや大掛かりなために調査団に帯同してきた騎士二名では流石に大型天幕を二つ設営するのに苦労していたので我々が大いに手伝って差し上げた。

 ちなみに我々の仮設ログハウスのほうが設置は楽なのだが残念ながら今回もお披露目はお預け。我々も天幕に留めておいた。



「おはようございます」


 朝食後暫くして調査団の団長が我々の天幕を訪ねてきた。

 王城所属の学者であるカール氏。この調査団の団長を務めており、同じドラゴニュートであるアンドレスとは古い知り合いなのだそうだ。

 天幕の内側から垂れ幕をめくりあげて彼を出迎えた。森林の香りと共にヒンヤリした空気が中に滑り込んできた。


「おはようございます。どうぞカールさん」


「ありがとうございます。…こちらの天幕の空間魔法は素晴らしいですね」


 彼を招き入れると同時に控えめながら感嘆の声をあげたカール氏。

 どうやら我々の天幕に施された空間魔法が彼らのものよりかなり広かったようだ。マズったかな?

 ちなみに天幕内は垂れ幕で共有スペースと四人の個室に仕切られている。今は出入口と繋がった共有スペースに彼を通したところだ。


「ノア様、こちらの空間魔法のことは他の者には伏せておきますのでご安心ください。」


 表情を読まれたようだ。


「お心遣い感謝致します。ところで御用向きはこれからの予定についてでしょうか、あいにく…」


「おはよう、カール」


 と他のメンバーが揃って天幕を離れていることを詫びようとしたところ、タイミングよくアンドレスが戻ってきた。


「おはようございまーす!」


「おはようございます」


 アメリアとカミーユも一緒に戻ってきた。


 アメリアは久し振りの遠出にずっとウキウキしていた。朝食をかき込むと剣を掴んで森の中へ。

 アンドレスもその様子を見に後をついて行った。なんちゃって親馬鹿め。

 カミーユは自生している薬草の採取。教会の貴重な収入源であるポーションの材料だ。さすが次期神官長候補。


「皆さんおはようございます。朝早くからお邪魔して申し訳ありません」


「ぜんぜん大丈夫だよ!もう今からでも出発できるよ?」


「いや、流石に今からは。1時間ほど後に5分か10分くらいルート等の打合せをさせて頂いた後で、そのまま出発しても差し支えが無いか、お伺いに参った次第です」


 カールさん、朝からアメリアの天然カウンターをサラリと受け流してみせた。さすが年の功。さすが団長。

 さっきまでカミーユが薬草をたんまり入れた籠を抱えながら「姉さん何を言ってるの」なんて顔をしていたがこの様子を見て収まったようだ。


「ああ、それでいい。それまでに我々も装備の最終チェックを済ませておこう」


 アンドレスがそう応え、我々もカール氏に向き直って頷いた。


「ありがとうございます、それでは後ほど宜しくお願い致します」


 カール団長はそう言って自分たちの天幕へ戻って行った。

 なんというか物腰の柔らかい人だな。うちのアンドレスもジェントルマンだがそれ以上じゃなかろうか。



 さて1時間などあっという間だ。

 装備のチェックはさっさと済ませてしまおう。

 そういやアメリアは本当にすぐにでも出発が可能だったようだ。

 夜が明けたばかりの薄明かりの中を彼女がゴソゴソと出掛けたことは俺も気付いていたが、彼女が天幕に戻ってきたとき出くわしたカミーユが姉のフル装備姿を見て「どうしたの」と思わず訊いていたらしい。


 やることがなく手持ち無沙汰になったアメリアがまた素振りに出掛けてしまい、カミーユからそんな話を聞かされた我々三人は装備チェックをしながら笑い合っていた。

 そして再びアメリアが戻ったとき、彼女がいない間にそんな話をしていたことを知ると「別にいーじゃないさー」とまた四人で笑い合い、出発準備は賑やかに滞りなく進んでいった。


 ちなみに我々のものを含めた全ての天幕と資材はこのまま残していくことになっている。

 調査団員8名は王城所属の学者6名と騎士2名から構成されるが、この騎士達が留守番として残ってくれるわけだ。

 短くとも数日、長ければ10日ほど滞在することになるし、毎日片付けるのも大変なのでこのほうが効率的だ。彼らにすれば有事のときは勿論、日常的に訓練もしていて慣れてもいるようだ。



 さて時間だ。

 カール団長の天幕の前にテーブルが用意され打合せが始まった。というか再確認だ。


 大まかには次のとおり。


 一点目。調査団員は、第一次および第二次調査団から引き継いだマップの補完を行う。当調査団がマップを完成する予定。

 二点目。調査団員は、調査途中あるいは未調査の区画にある壁書や壁画を漏らさず記録する。

 三点目。我々4人は、調査団員の活動中は常に彼らの安全を最優先にした行動をする。

 四点目。魔法陣の間での臨床試験は、以上を無理なく完遂できることを確認したうえで進行する。

 五点目。全指揮権はカール団長が有し、生命保護を優先した行動方針を基軸とする。調査団全員が五体満足で無事に帰還すること。


「全指揮権なんて申し上げましたが、危険が差し迫っている場合は有力な冒険者である皆さんに従いますから遠慮なく我々に指示を出してください。宜しくアンドレス」


「言われなくともそのつもりだ、こちらこそ宜しくカール」


 旧交を温めているというほどのシーンではないが彼らがお互いに信頼し合っていることを我々や団員たちが理解するには十分だった。


「さてあと一つだけ。この神殿のマップです」


 テーブルに広げられた地図には、この神殿が地上二階と地下一階の構造であることを示していた。欠けている箇所は未踏破区画だろう。カール氏が続けて説明する。


「マルしている区画が調査済み、サンカクが調査途中です。そして…」


 その場でカール氏がペンで地図に線を書き入れる。


「本日はこのルートの調査を行う予定です。地図の写しをお渡しするので宜しければそちらにも書き入れてください」


 カール氏の隣にいた団員から差し出された地図をカミーユが受け取り、手早くペンで同じように線を書き入れた。普段は交代でマッピングしているが我々の中で一番丁寧で解りやすいのが彼女なのだ。


「カミーユさん、ありがとうございます。皆さん、続きは進捗を見ながら随時行うということで構わないですか」


「大丈夫だよ!」


 早く行こうよと言わんばかりのアメリアを気遣いながらも我々の同意を確認してから「それでは」と打合せは終了した。カール氏はデキる人だ。ずっと苦労していそうだけど。


「皆さん、お茶は如何ですか」


 うちにも自慢できる気遣いの人がいた。

 カミーユがいつの間に淹れたのか、そして如何も何も、既に騎士や学者の何人かに紅茶の入ったカップを配って回っていた。たちまち紅茶の薫りが周囲を満たし、出発前にしばし、英気を養うことになった。



 さて出発だ。

 留守番の騎士2人に見送られ、学者6人と我々4人の計10人で野営地を後にした。


 先頭は俺とアメリア、殿をアンドレスとカミーユが務め、学者たちを挟んで縦一列を組む。

 ちなみにこの隊列順はいつも同じではない。森林に適性の高いエルフの俺が今は先頭だが、神殿に入れば多分アンドレスと交替するだろう。

 だが神殿内にも例えば植物の蔦などが多く見られるようならこのままということもあり得る。植物が存在するなら木々たちとの感覚共有魔法で周囲の索敵や偵察が容易になるのだから。


 野営地から神殿までは道なき道だ。

 背の高い様々な草木を脚で踏み均した程度の獣道。石や泥に足を取られる団員もいるが、僅か1km程の距離なので旅に不慣れな彼らでも大きな問題はない。

 また彼ら6人のうちカール団長を含めた4人が第ニ次調査団にも参加していることもあり余裕すら感じる。

 もっともこんな序盤で余裕が無くなるような人が調査団に加わることは考えられないだろうが。

 ちなみに第一次からの参加者はいないようだ。


 序盤の行程は順調だ。

 一度だけ小型の魔獣をアメリアが単独先制して倒したくらいだ。それ以外は全く何も無い。無いに越したことはない。

 また第一次調査団が残した目印であるピンク色の杭が要所に打ち込まれているので効率的に移動出来ている。

 もちろん感覚共有魔法で方向は掴めてはいるのだが多少なりとも歩きやすい道というのは実際に足を踏み入れないと判らないのでこの目印には助かっている。


「見えてきたよ!」


 やがてアメリアが声を上げた。

 鬱蒼と茂る木々の隙間から白く光沢のある石造りの建築物が見えてきた。


 かなり異質だ。


 今まで世界各地で様々な街や建物を見てきたが、そのいずれとも全く違う。

 まだ距離はあるが「違う」ことは解る。

 建築様式とか石の積み方とか材質とかの話ではない。とにかく異質なのだ。


 木々の隙間から徐々に姿を現す遺跡。

 鈍く冷たい光沢をもったその建造物を見上げる角度に伴なって湧き上がる感情。

 これは期待。まだ見ぬ神秘への好奇心。

 不安もあるがそれを余裕で掻き消してしまう高まる感情を抑え込みながら、俺は歩を進めていった。


「いっちばーん!」


 アメリアは今日も元気だ。

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