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追い駆けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と始まり
6/24

ある魔法陣の開発

 王城に十数ヶ所あるらしい会議室のうちの一つ。

 俺は新しく組織された「魔法陣開発特別チーム」専用の会議場にいる。

 え?会議「場」という表現が気になる?

 だって広いんだもの。

 以前に俺たちパーティが出席した会議室より広い。たぶん3倍じゃきかない。

 それでも王城の人たちは会議「室」と呼んでいるが。


 そんな会議「室」には、王国騎士団所属魔法師団の研究班の精鋭と、俺を含む一般人から組織された者を合わせて40人はいるだろう。もっとも30数人は魔法師団が占めている。一般人も殆どが領主お抱えの学者で、俺のような冒険者は他に1人。そりゃあ冒険者家業をやるような人間がこんな堅っ苦しい場所に…おっと今のは無し、ゲホンゴホン。あとで挨拶くらいしておこう。


 4面ある巨大な黒板はその全てにチョークで幾何学模様や古代文字などが書き込まれ、その周囲では数人が熱心に議論を交わしている。


 8個ある大テーブルの幾つかでは大きな紙を広げてやはり数人がかりで魔法陣を描いている最中だ。


 そして会議室の中央、つい会議室と言ってしまったが、おそらく大テーブルが撤去された中央の広い空間の床には幾つかの簡易的な魔法陣―先述の大テーブルで紙に描かれた魔法陣が組まれている。


 本格的なものを、遺跡のような大掛かりなものは勿論のこと装飾品のような小さなものも含めて魔力を保持しやすい鉱物や金属を素材にしたものを指すとすれば、簡易的なものは魔道具師が作った特殊インクで紙や布に書き込んだだけのものをそのように呼んでいる。

 つまり大テーブルでインクと紙を使って作成された魔法陣を、台も設置されず床に直置きして広げているわけだ。


 今では一般に普及している生活魔法や魔道具でも最初は規模の大きな魔法陣からスタートするのだから、魔法の開発者たちには頭が上がらない。洗練されてくると同じ効果でもより効率化された魔法陣に改良されて小型化&省魔力化されるのだ。

 俺も冒険者の端くれとしてその恩恵に預かっている。さて今度は俺がその開発に携わるわけだが偉大な先人たちに少しでも近付き報いるように努力しよう。


 そんな魔法陣だが、既知の設置魔法においてその効果を無効化するためには大まかに「解析」と、「書き換え」或いは「相殺」のニ段階が必要になる。

 先日発表された各国の騎士団および魔法師団で編成組織した連合調査隊による公式見解では「相殺」ではなく「書き換え」が妥当であることが提示された。この発表の際に開示された魔法陣を基により洗練させた魔法陣を開発することが我々の目的である。


 何十年か前までは争いの絶えなかった周辺各国だが、対魔王という共通の敵が現れたことで協力関係を築けているのは心境的には複雑なところだ。

 連合軍もそうだが本来は軍の機密になるであろう情報すら開示されるのだから。まぁ全部包み隠さずかどうかは定かではないが。



 さて説明や前置きが長くなったが俺ことノアは「魔法陣開発特別チーム」の中で更に細分化されたグループのうち「解析Bグループ」に所属している。

 師団長さまに強制もとい勧誘されて来たものの最初は勝手が解らず訊かれたことに答えるくらいだったが、2週間も経つと能動的に出来ることがすっかり増えてきた。


 今日は昨日の夕方から当グループで作り始めた簡易魔法陣を完成させて起動実験を行う予定だ。いまは会議室中央に空けられた床スペースに、グループのメンバーが手分けして描き上げた魔法陣の紙を並べて繋ぎ合わせているところだ。魔法陣とは魔力を通す回路の集合体であるので、これらを描くことは当然ながら繋ぎ合わせることも繊細な作業が要求される。



 昼近くまでかかって組み上げが完成した。あとは仮想「魔王城の結界」魔法陣を所定の場所に置き、我々の試作「解析」魔法陣が想定どおり働いてくれるかどうかを見極めるだけだ。

 城の食堂で、これまた城内に何箇所かあるうちの一つで食事をかき込んで午後から実験本番を迎えた。


「さぁて魔力を流してみましょう、ノアさんお願いねー」


「わかりました」


 当グループリーダーであるこの女性研究員は魔法師団創設時からのメンバーらしい。彼女から指示を受けて俺は大きく広げた掌を魔法陣の一端に左右揃えて置いた。ここから魔力を流して魔法陣を起動させるわけだが、これがそこそこ大変なのだ。


 魔法陣を起動させるための魔力は魔法を伝達させる回路が占める面積に比例する。この簡易魔法陣に限って解りやすく言えば、これを描くために使用されたインキ量に比例する。そして魔法陣の複雑さや描き手の技量にも左右されるが簡易魔法陣はサイズが大きくなりがちのため、起動させるためには多くの魔力が必要となる。

 つまり魔力容量の多い者が重宝されることになり、エルフの俺は彼らからすれば渡りに船だったわけだ。ヒューマンであれば2〜3人必要なところ俺一人で済んでいる。使い潰されるほどではないが都合よく利用されている気がしなくもない。まぁ今さら言っても仕方がない。ちっ。


 掌から魔力を魔法陣に送り込む。

 掌で覆った箇所に描かれた文様が淡いピンク色の光を鈍く発し、順に光が円心状に拡がる。繋ぎ合わせた箇所も跨いでピンク色の光は魔法陣を埋めていく。

 更に送り込む魔力の勢いを強める。

 光が拡がる速度が速まった。同時に抵抗も感じ始めたのでこれ以上は魔力供給を強める必要はないだろう。


「さっすがノアさーん、そのままお願いねー」


「はい、このまま魔力供給を維持します」


 話し方が緊張感のないリーダーだが魔法陣の知識量が半端なく初日から非常に驚かされている。見た目で人を判断してはいけない好例だと思う。

 魔法陣を埋めるピンク色の光はもうすぐ全体の6割近くを埋めそうだ。ここまで問題なく文様が一定の光を蓄えていることは魔法回路に大きな問題がないことを指し示している。


 グループのメンバーだけでなく他のグループのメンバーも何人か手を止めて我々の進捗に注目している。この女性研究員に実力があることも理由だが、魔法容量が大きな俺も興味の的であることを彼女から聞かされていたため意識してしまう。いかんいかん、集中だ。


 既に回路の8割以上まで魔力が行き渡ったようだ。リーダーの指示により数人のメンバーが、横に設置してある仮想「魔王城の結界」魔法陣とその周辺に障害となるものが無いか最終確認を始めている。

 なお実際の使用状況を想定してこの仮想結界魔法陣と我々の試作「解析」魔法回路は繋げていない。回路から解析魔法が発生して一定距離の空間をあけた結界魔法へ働きかける必要があるからだ。

 この発生構造や波及範囲を設計構築することが我々「解析Bグループ」の仕事だ。解析魔法自体は同Aグループの仕事なのだが、我々のリーダーである彼女がそのAグループのリーダーも兼任しているから驚きだ。優秀からなのか他に適任者がいないからなのかは不明だが。


 それはさておき。


「ノアさーん、9割到達。少し供給スピード落としてー」


「はい、9割到達。魔力供給を抑えます」


 リーダーの指示により魔力の出力を下げた。

 簡易魔法陣は魔力供給が過多になったときに魔力を逃がしたり遮断したりする仕組みが基本ない。そのためタイミングを見計らって魔力供給を止める必要があり、そうしないと回路が焼き切れたり魔法の種類によっては発火爆発することがあるのだ。


「更に下げてー、はい、そのままー、カウントダウンいくよー、3、2、1、ゼロー」


 リーダーの合図に合わせて左右の掌を魔法陣から離して魔力放出を止めた。ふぅと一息。

 張っていた気が少し緩むところを堪えて辺りを見渡し、簡易魔法陣の回路全体に魔力が行き渡っていることが視認できた。魔法陣の隅々までピンク色の光が蓄えられている。


「すぐに発動するよー、万一に備えてねー、次は制御班よろしくー」


「制御班、魔力誘導を開始します」


「同じく、魔力監視を開始します」


 万一とは発火などの事態のことだ。他にも想定外の現象が起きることもあるがそれは今は置いておこう。

 グルーブのメンバーたちが、ある者たちは水系や土系の元素魔法、他のある者たちは魔法障壁をそれぞれ構築準備を進めている。

 そして制御。

 俺は魔力を供給することが今日の役割。制御班の二人がこれから、供給充填された魔力を監視誘導するわけだ。え?俺は一人だけど今さら何か?


 出力を司る文様が輝き出して魔法発動の直前と判る。

 グループメンバーは元より他のグループメンバーたちも全員が周りに集まって我々の動向を注視していた。


「射出するよー、制御班にー魔法障壁を張ってー」


 相変わらず話し方に緊張感がないリーダーだが指示は的確だ。


 魔法陣の一端、仮想「魔王城の結界」から一番近い箇所に数十個の親指サイズの小さな幾何学文様が描かれており、制御班の二人がこれに両手を添えて待機している。制御盤だな。

 魔法陣は床に敷いて拡げているから二人とも背中を丸めて正座をしており見るからに辛そうだ。

 そんな二人の後ろからグループメンバーの一人が魔法障壁を展開して備える。


 文様がひときわ強く輝き出した。


「射出!」


 リーダーの今度は緊張感のみなぎる声と共に、魔法陣から赤紫色の光が溢れて湧き上がり、ピンク色に渦巻く光の束が仮想「魔王城の結界」に一瞬で飛び込んでいった。


「制御班、そしてそこにいるAグループの解析班も一緒に魔力反応を読みなさい!」


 リーダーそれは無茶振りじゃないかい?しかも緊張感がまだ維持されているし、ずっとそれだと凛々しいのに。

 それはさておき、Aグループの解析班と思われる二人が我々グループの制御班二人の横に並んで跪き、空いている予備の制御文様に両手を添えて魔力を通わせ始めた。

 さすが特別チーム。対応力が高くテキパキした動きに感心した。


 仮想「魔王城の結界」上ではピンク色の光の束が渦巻いたまま維持されている。その近くで制御班とAグループの解析班、そしていつの間にやらまた他のグループから自前の制御魔法陣を持ち込んで繋げている者もいる。彼らも魔力反応を読み取ろうとしているわけか。


 ん?

 その繋いでいる制御魔法陣には何人分か余裕がありそうだな。

 訊いてみるか。


「すみません!私も魔力反応を読んでみてもいいでしょうか?」


「いいよ、空いているし、ここを使ってくれ」


「ありがとうございます」


 リーダーにも手早く許可を取ったうえで、制御班や解析班に交じって俺も魔力反応を読むことにした。

 騎士団長さまから勧誘された時こそ面倒だななんて思ったが、考えてみれば貴重な機会に恵まれたわけなのだから、少しでも吸収しないと勿体ないよね。きっと俺やパーティの成長にプラスになる。それどころか魔法が完成したら俺やカミーユが使うことになるだろうから、理解しておくべきだろう。 


 さて。

 えっと、魔力反応を読むって…どうやるんだろう。

 感じ取る?取り込む?…纏ったり放出したりすることは比較的得意というか特に意識しなくても出来るのだけど、はて。


「ノアさーん、どうですかぁ?」


 すっかり元の緩い調子に戻ったリーダーが、様子を訊いてくれた。


「実は魔力反応を読むという感覚に慣れていなくて」


 主にヒューマンたち町に住む者は、その多くが学校で魔法を学問として体系別に一通り学ぶそうだ。しかし俺たちエルフの故郷では幼少から遊びの延長で魔法の発動を身に付けるため、放出することには長けても感じ取ることには意識があまり向かないことが多いのだ。中には意識できている者もいるだろうが一部だろうと思う。

 治癒師が使う魔法は患者の身体を巡る魔力の流れを読むことで病巣を見付けるとは聞いたことがあるが、俺はその手の回復魔法に関する知見が少ない。神官であるカミーユだと解るのかも知れないな。


「そうだと思って。まずはですねー…」


 エルフの魔法事情を知っていたのか、単に俺の表情を読んだのか。いずれにせよリーダーの指導は優秀だ。

 彼女は教え方も解りやすく、俺は非常にすんなりと魔法反応を読み取る感覚を掴むことが出来た。


「おおっ、なるほど!」


 俺が思わず感嘆の声をあげると、同じように制御魔法陣に触れていたリーダーが「ほらね」と微笑み返した。

 制御班、解析班の面々は、そんな我々のやり取りに見向きもせず自分たちの役割を黙々と進めていた。

 いや、申し訳ない。


 皆で魔力反応を読み出してから数分たった頃。そう、実はまだほんの数分だったのだが、先程まで張り詰めていた彼らの表情に変化が現れて皆が一様に余裕のある様子が見てとれるようになった。

 ここで制御班からの報告が始まった。


「制御班から報告します」


「はーい。制御班、お願いしまーす」


「魔力の滞留箇所は、誘導を要する大規模は無し、中規模が1箇所、小規模が2箇所です」


「分かりました。滞留部位については後程マーキングしてください」


 リーダーは再び凛々しいモードになっている。是非そのままでいてください。

 制御班の報告は続く。


「承知しました。続けて報告します。射出先で受容した魔力濃度は観測開始時が当初想定の97%から終了時92%を一定ペースで低下。波及範囲は終始94%で変化なしでした」


「分かりました。ではこの結果を受けて次回の方針を伝えます。回路の基本設計はこのままで滞留部位の改修調整を行って100%達成を目指します。ここまで順調に来ていますので引き続き皆さん宜しく」


「はい!」


 俺を含む解析Bグループが揃って気合の籠った声で応えた。

 うん、順調だ。このまま頑張ろう。


「次にAグループ、解析魔法の下書きは出来た頃ですか?」


「はい。明朝からインクで描き込みを始めますので明後日には起動実験を行える予定です」


「無理はしないように。解析魔法は複雑ですから明々後日でも問題ないですよ」


「はい!でも頑張ります、なぁ皆!」


「おぅ!」


 解析Aグループも気合が入っているようだ。うん、頼もしい。




 こんな感じで「魔法陣開発特別チーム」の開発は忙しくも充実した内容で進行している。


 本業の冒険者稼業は元々週4日のところを3日にして貰い、オフの1日を割いて計2日をこの魔法陣開発に充てている。オフと言っても準備や装備メンテナンスで時間を使うので正味の休息日は元々1日か2日だった。つまり休息日が殆ど確保できない可能性もある。

 だがそこは我がパーティの優しさ、いや厳しさか。

 ろくに休まず冒険なんてとんでもない。近場に変更するか臨時休業にするか、それが嫌なら城の仕事なんて断れなんて言うものだから、なんとか調整して必ず休息日を取るようにしている。


 そういうことで、暫くはパーティ4人で遠征なんて出来ないが、いずれにせよ今の段階に至っては、次回遠征するなら魔王城に迫る場所への侵攻も視野に入れないといけない。そのためには魔王城の結界を突破する魔法陣が完成しないことには話が進まない。

 いや、その前に覚醒の神殿の件があった。これはまだ予定を聞かされていないが、どうなったのだろうか。こんど騎士団長さまに訊いてみるか。


 などと考えていたら。


「では皆さーん、今日はこのあたりで終わりましょー」


 みたび元の緩い調子に戻ったリーダーの号令で撤収することになった。


 さて明日はオフだ。

 明後日は冒険が控えているが近場で狩りをしようということになっているので準備することは知れている。半分は休息に充てるとしよう。

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