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追い駆けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と始まり
25/25

あるオーダーメイドの経過

「こんにちはー」


 無骨かつ重厚なドアを開け、中に向かって声を掛けた。


「いらっしゃーい、待ってたよ」


 すると中から元気のいい中年…おっと、品の良さそうな大人の女性の声が返ってきた。

 その声を聞き終えないうちに我々四人は我が家の如く無遠慮に建物の中へ入っていった。

 鉄と炭の匂いが充満する、冬は暖かく夏はさらに暑いこの建物へ。


「連絡を頂いて全員でスッ飛んできました」


「おおよ、待たせてしまったな。

 さっそくだが、見てくれ。

 そっちのテーブルで適当に座っててくれ」


 今度は野太い男性の声だ。

 以前は時々しゃがれていることがあったが、奥さんに煙草を辞めさせられたお陰か、そういうこともなくなったようだ。



 さて、我々はパーティ四人勢揃いでマルテル工房を訪れている。

 昨夕に我々宛の所へ工房から速達が届いたのだ。

 頼んでいた剣と杖に魔法付与をする頃に再度打合せをする予定だったので来店を要請されたわけである。


 ドワーフ夫婦の鍛冶師である御主人が、奥の工房から厚めの麻布で包んだ長尺のものを抱えて出てきた。

 比較的小柄なドワーフ族である彼の、頭から膝下くらいまではありそうだ。


 同じくドワーフ族の金細工師である奥さんはカウンターで他のお客さんの対応をしていたが、そのお客さんを見送るとドアの外に『CLOSED』の札を下げて戻ってきた。

 彼女もカウンター脇の保管庫らしき小部屋から、同じように麻布で包んだ、やはり長尺のものを抱えて出てきた。



 ドワーフ夫妻はそれぞれ包みをテーブルに並べて置き、紐を解いて中身が見えるよう広げて着席した。

 一つは、カミーユの杖の木製レプリカのようだ。魔石を模した銅板の傍らに紫色の物質が3個嵌め込まれている。

 もう一つは、吸い込まれそうなくらい深い紫色の光沢を纏った剣身ブレードだ。


「わぁ…」


 剣身ブレードに見入るアメリア。

 見るからに眼が輝いてウキウキ、いや、ニヤニヤしている。



「じゃあ私から報告するよ」


 恐らく確認のためか御主人の顔をチラリと見てから、先ずは奥さんから杖の加飾作業について報告が始まった。


「元の魔石の傍らにパープルアイアンウッドを追加する件だけど、こんな感じでミスリル製の台座にセットしものを3個嵌めようと考えてる」


「3個だと手間が掛かると思うのですが、何か理由があるのでしょうか」


「カミーユちゃんが気になるのももっともだね、高くついちゃうし。

 これはね、サラ所長の助言に従ったんだよ」


「サラさん来たんですか?」


「前に皆さん揃って来た日の翌々日かな、ノアさんの手紙を持って来店したのがサラ所長だったよ。

 騎士団の副団長さんを伴ってね。

 何というか、ホンワカしてるけど、凄く頭がいい方だね」


「俺もそう思います。

 それで、これの助言はその時に?」


「最初は剣に使う魔法陣の話を旦那としてたんだけど、それが一段落したら彼女から杖の加飾の話を振られてね。

 魔石の配置をどうする予定なのか訊かれたものだから、旦那も私もそこは専門外だから、そのまま相談にのってもらったのよ」


「そうでしたか。

 俺も数や大きさが包有魔力に影響すること程度は理解していましたが、魔石の配置にも意味があるんですね」


「たぶんさ、魔法陣に通ずるものがあるんじゃないかな」


「きっとそうですよ、姉さん」


「確かにサラさんもそんなこと言ってたよ。

 それでさ、貴方達から要望のあった付与を伝えたらさ、配置とかサイズとかその場で図に描いてくれたのよ。

 で、気になっちゃって魔法陣とは別料金だよねって訊いたんだけど、それはサービスでいいってんだよ」


「えっ」


「無料って言ってたんですか」


「そうなんだよ」


「あと儂も、剣の方も付与魔法陣は全て無償提供することになっているってその時に聞かされたが、そうなのか?」


「そんな話は聞いていない、マズいな」


「何かマズいの?」


「アメリア、『ただより高いものはない』ということだよ」



『ただより高いものはない』

 無料や非常に安価で手に入れたものは後々お礼や代償の支払いで却って高くつくという意味の戒めだ。

 魔法陣を無償提供することで国は我々パーティに何かしら要求を通しやすくする狙いがあるののかも知れない。



「固辞しましょう。

 こういうことを嫌って、相互協調するパートナーシップを私達は締結したはずですので」


「そうだね、カミーユ。

 せっかく豪邸やら使用人やら調整したのに、これを受け入れちゃうと国の言うこと何でも聞かないといけなくなっちゃうよね」


「アンドレス?」


 アンドレスが天井を仰いで渋い顔をしている。

 我がパーティの金庫番であるアンドレスが。

 いや、俺もちょっと気になっていたよ?


「どうした、アンドレスよ」


 俺が訊くより早くマスターがアンドレスに問いかけた。

 天井からマスターに視線を移したアンドレス。


「マスターの見積はエンチャントの費用も含まれていたな?」


「勿論…と言っても概算だけどな。

 丸ごとパープルアイアンウッドから鍛える剣はほぼ付与し放題で、杖もお前たちから要望された付与を想定した上で、それぞれ余裕も含んで試算した。

 魔法陣の費用は店頭でオーダーしたときの相場でやっている」


「全く問題ないな。

 その額面でも、俺とノアが騎士団の指南役で得る給金をいくらかアテにしているところがあったんだ」


「カミーユたちが固辞しようと言っていたが、そうするにはカネが足りないということなのか」


「到底というわけじゃないが概ねそんなところで合ってますよ、マスター。

 杖に増やすパープルアイアンウッドは、我々は一つのつもりだったんだ。

 それが三つになった。

 ということは魔法研究所から提供される付与の数も三つ。

 当初の想定よりそれだけ高額になってしまうのがなぁと思ったわけなんだ」


「マスターと奥さん。

 サラさんから何かそのへん聞かされていませんか?」


「そういや、図面を描いてくれてるときにさ、今すでに付いている魔石の脇に『この付与にはこの付与があるといい』みたいなことを言いながら説明してくれたよ」


「その付与が何を詳しく知りたいですね」


「ごめんよ、カミーユちゃん。

 そこまで覚えてなくて。

 貴女達に話が通ってるものと思っていたものだから」


「いえいえ、すみません。

 そんなつもりじゃないんです」


「直接サラさんに詳しく訊いたほうが良さそうだな。

 断るのは簡単だけど、有用なら少々無理をしても採用したいしな」


「あとな」


「マスター何かあるのか」


「サラ所長と一緒に来ていた騎士が一人いたんだが」


「アクセル副団長が同行してたって言ってたね!」


「そうだ、その副団長。

 サラ博士が後日その副団長殿をまた遣いに寄越しますって言ってたな」


「その人に魔法陣を持たせるって言ってたよ」


「そうなんですか」



 コンコンコン。


『CLOSED』を出しているのに、ドアをノックする人がいる。

 いや、『CLOSED』を見たけど急ぎの用事があるからノックしているのか。


「すまないねえ、今日はもう店じまい…」


 奥さんが早足で駆けつけてドアを開けてそう言いかけたが、来客者の顔を見た途端、これはこれはという様子で彼を店内に通した。


 銀色の甲冑に青いマントを羽織った騎士がガチャガチャと音をたてながら入口をくぐってきた。

 兜は外して左の小脇に抱えているため誰かはすぐに判った。

 アクセル副団長だ。



 店内に我々の姿を認めるなりパアッと明るい顔をしながら室内に…

 いや、思い直したかのごとく、騎士団の副団長らしく敬礼をビシッと決めながら「失礼致します」と発してから、我々のテーブルに近付いてきた。


 さらに彼の後ろからも同じような甲冑に身を包んだ騎士が二名入ってきた。

 異なる点は彼らはマントを羽織っていないところか。

 両名ともその右手には頑丈そうな金属製の四角いバッグを提げている。


「皆様お揃いでちょうど良かったです」


「アクセルさん、魔法陣を持ってきてくれたの?」


「そうです、アメリア様。

 ご存知だったようで、話が早くて助かります」


 アクセルはそう言って、後方に控えさせて騎士の一人から金属製のバッグを受け取り、テーブルの上に置いた。


「どうやら杖のお話しをされていたようですから、先ずは杖の魔法陣からお検め下さい」


 そう言ってアクセルはバッグを開き、中に収められていた筒状の厚紙を取り出してテーブル中央に並べ始めた。

 バッグは彼の足元へ置かれた。


 紙筒の長さは彼の指先から肘までくらい。

 筒の中央付近には何か植物の撚り紐が括られていて、筒の長さは同じだが太さが異なるものが計三本だ。

 更に何か硬そうなものが幾つか入った拳二個分くらいのサイズの麻袋も置かれ、これも撚り紐で口元が結われている。



「三本あるということは魔法陣も三つあるということでしょうか」


「そのとおりです、カミーユ様」


 アクセルはその一番細い紙筒の紐を解いきコロコロと転がして広げてみせた。

 あとの二本のうち片方はかなり太いため相当に長さがあるのだろう。

 かなり複雑な魔法陣であることが予想される。


「アクセルさん、本来ならサラさん…サラ所長に訊くべきなのでしょうが、魔石の配置や付与魔法について、まだ我々は詳しく聞かされていないのです」


「多分こちらに記されていると思います」


「これは?」


「サラ所長から皆様に宛てられた手紙を預かってまいりました。

 ええと、こちらが杖の分ですね」


「拝見します」


 アクセルから手渡された封筒には図説入りの便箋が数枚入っていた。

 ノアがそれを取り出して素早く目を通した後アンドレスに手渡した。

 アンドレスと横から覗き込んでいるアメリアとカミーユが読んでいる間に、マスターや奥さんと話を進めよう。



「これらの魔法陣について書かれてあるのかい、ノアさん」


「そうです、奥さん。

 サラさんが勧める三つの付与について、それぞれの効果について、かなり興味深いことが書かれていました」


「しかし魔法陣の大きさが気になるな。

 魔法の構築は魔法陣があるからいいとして、その太いやつは俺や嫁さんだけで対処できるのか?」


「それは大丈夫だと思います。

 サラさんの手紙には魔石も一緒に入れてあると書いています。

 そこの麻袋でしょうね。

 それらを魔法回路の所定の場所に置いて一定量の魔力を注ぐだけで必要な魔力が供給されるそうです。

 それでも難しそうなら俺も手伝います」


 アンドレスが読み終えた手紙を受け取ったカミーユはそれをアメリアと一緒に読み直している。


「至れり尽くせりだね、サラ所長」


「手紙に書かれているとおり未知数なところがあるが、覚醒した今のカミーユには有効な付与だと、俺は思う。」


「当のカミーユはどう?

 どんな効果や反動があるかはっきりしているわけじゃないから、不安があるなら付与しても魔法を使わなければいいし、付与そのものを断ってもいい」


「イメージが追いついていないですが、ぜひお願いします。

 不安がないわけじゃないですが、きっと私達の助けになると思いますから」


「決まりだね。

 無償提供を受け入れるしかないかも知れないけど、それはよしとしよう!」


「話は纏まったんだな。

 じゃあ俺たちにも詳しく教えてくれ」


「解った、マスター」



 そのあと魔法陣を一つずつ広げ、麻袋から取り出した魔石も一つずつ確認しながら、マスター夫婦と俺達は魔法付与の手順を擦り合わせた。


 その間アクセル副団長は目をキラキラしながら見守っていたが彼は剣だけじゃなく付与や鍛冶にも興味があるようだ。

 可哀想なのは荷物持ちに帯同した彼の部下たちだろうが任務だから仕方ない。



「次に剣に付与される魔法陣をお検めください。

 こちらはそれについて記された手紙です」


 引き続いてアメリアの剣に付与する予定の魔法陣だ。

 アクセルは待機していたもう一人の騎士から別の金属製バッグを受け取り、中からやはり筒状の厚紙を取り出し始めた。

 彼から受け取った手紙を読むのを中断して、いち、に、さん、し…と魔法陣の筒が何本あるんだろうかと俺が目で数えていたら。


「剣は流石にサラ所長も専門外だったようでな、その付与については俺達に任せますと言ってたな」


「そうですか」


 そう応えながら俺は再び手紙に視線を戻していたが、サラさんの本音は試したい付与…付与と言っていいのかどうか、と気にしていることがある旨について触れられていた。

 一通目の手紙と同様に素早く読み終わり、アンドレスに手渡す際には軽く目配せをしてみたところ彼は俺の意図に気付いてくれたようだ。

 両脇から覗き込むアメリアとカミーユに指でその部分を指し示している。


「なにか問題か?」


「大丈夫だ、マスター。

 サラさんが用意してくれた付与魔法は的確かつ潤沢といったところだな。

 これはマスターのオーダーかな」


 俺はアンドレスから手紙の一枚を受け取りそれをマスターに手渡した。

 魔法陣の一覧が記されたものだ。


「ああ、これに書かれている通りだ。

 しかし、これだけの数の付与魔法を無償とは恐れ入った」


「マスター、それは固辞することにしているん…、ああっ!」


 バッ、とアクセル副団長の顔を見る俺。

 …とその他全員。


「皆さん、如何なされましたか」


 そう応えるアクセルの目は心なしか泳いでいるように見える。

 …見えるだけか。

 そうだな、彼は騎士団の副団長であって、本件に関しては遣いで来ただけであって、関係はないはずだ。

 訊ねるのを躊躇していると。


「アクセルさんは魔法陣が国からの無償提供って、なんでそうなったか、聞かされていたの?」


 アメリアさん、いつも通りというか、自然体というか、流石です。


「はい、聞いておりました」


 そうなのかよ?

 それも当然と言わんばかりに。


「何故そんなことに…いや、理由はいい。

 我々は固辞するので近いうちに宰相殿に申し入れに伺うつもりだ。

 宰相殿か、団長でもいいが、その旨を伝えておいてくれないか」


「なんだか皆さん、いや、解りました。

 確かに承りました、アンドレス殿」


「よろしく頼む」


 我々の意図を察したようで、勘ぐらずに納得してくれたようだ。

 いや、宰相も団長も想定していたのではないか。

 これだから国というやつは油断ならん。

 まぁ今はそれはさておき。



「マスター、こいつの付与は任せても大丈夫かな」


「ああ、こいつは数が多いが順番を間違えずに一つずつやれば大丈夫だ。

 その付与を受け止める性能をきっちり鍛えてやるさ」


「えっ、剣身ブレードもう出来上がったと思ってた」


「まだ振ってもいないだろう?

 きっちり馴染むように調整せんといかんからな。

 いや…まだ振れる状態じゃあないが、バランスくらいは見れるだろう。

 ガード握り(グリップ)を仮で組んでくるからちょっと待っとけ」


「解ったよ!」



 マスターは剣身ブレードをまた布に包んで抱えて工房へ消えていき、その後姿を見送った奥さんが我々に向き直った。


「先に組んどけばいいのにさって思うところだけど、あの状態には今朝方ようやく出来上がったんだよ」


「え、ということは、手紙を出した時点では…」


「そうだよ、気がはやっちゃってね、もう少しで剣身ブレードがあらかた出来上がるって段階で連絡したのよ。

 もう少し余裕を見てもいいのにさ、ギリギリになっちまって、うちの旦那さ昨夜は寝てないんだよ」


「そうだったんですね」


「あ、忘れとくれ。

 余計なこと言っちまった」


「もう聞いちゃったよー」



 カーン、カーン、カーン


 やがて工房からマスターが作業する音が聞こえてきた。

 慌てたためかドアが閉まりきっていないのだろう、けたたましい音が漏れて店内に響き渡る。


「ちょっと閉めてくるよ。

 あっ、カミーユちゃん、すまないけどそこにお茶を用意してるから勝手に飲んどいておくれよ」


「はい、頂きますね」


「すまないね、使っちゃって。

 あんたー、ドアが開いてるよー!」



 カーン、カーン、カーン


 けたたましい音に奥さんの声は簡単に掻き消されてしまう。

 マスターの耳には奥さんの声はまるで届いていないだろう。



「今のうちに、この付与魔法についてお浚いしておこう」


「そうだな、アンドレス。

 特にカミーユの杖のほうは魔法陣を少し読み解く必要もあるな」


「カミーユ、運ぶの手伝うよ。

 トレーはいいよ、手で持っていく」


「ありがとう、姉さん」



 俺は最初の金属製バッグにしまわれた魔法陣のうち一番太い紙筒を取り出し、テーブルの端に置いてコロコロと転がして反対側の端まで広げてみた。

 俺の身長ほどあるテーブルだが、2倍どころか3〜4倍はまだ巻かれているのではなかろうか。

 付与魔法の魔法陣としてはかなり大型と思われる。


 アンドレスに手伝ってもらいながら魔法回路の観察を進める。

 こいつは難解だ。

 未知数というのはここのことか?


 うーん、よく解らんかも。

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