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追い駆けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と始まり
24/24

ある女性剣士の疑問

「魔王と闘う理由って、何だっけ」

「そもそも魔王ってのも、何だっけ」


 これはアメリアの言葉だ。


 魔族の在り様は自分たちと変わらないように思える。

 その魔族を統べる魔王とは何なのか、その魔王を打倒する理由は何なのか。

 国に帰って宰相様あたりに訊けば何らか答えてくれるだろうけど、たぶん自分たちの疑問は解消されない気がする。

 ここは自分たちの中で整理を付けておきたい。



 魔王から話がそれるが、先ず魔獣について考えてみよう。


 魔獣は、魔王とも魔族とも関係ない。

 自然界の魔力の影響を受けながら何世代もかけて徐々に、中には突然変異で、変貌を遂げた動物、野獣だ。

 普通の野獣とは異なる生態、習性を持った、生命ある動物だ。

 我々や他の動物と同じように、子孫を残し我が子らを守り日々を生きている。


 しかし魔獣は討伐する対象だ。

 常に何処かで討伐を必要としている地域が存在し、我々は自分たちの生命や住処を守らないといけない。


 魔獣による被害は家畜や農作物、家屋は勿論、時に死傷者も出ることがあるが、これは人族だけではなく魔族も同じように被害が出ていることを、ヌルメスの町に来て知った。

 国の偉い人たちは知っているのかどうかは判らないが、少なくとも一般の民衆に魔族の町などの情報が伝えられることは殆どないと言っていい。


 魔獣についてはそんなところだ。



「ドラゴニュートは魔族そのものに忌避や嫌悪などの感情は抱いていない」

「魔族側そして人族側、双方の為政者が対立してきた歴史があるという話は子供の頃から聞かされてきた」


 これはアンドレスの言葉だ。

 引き続きアメリアの核心から離れた話になるが、次は魔族について考えてみよう。


 この町に来る道中、俺ことノアが魔草の吐息を喰らい、また先遣隊の他のメンバーも何人かが同様に喰らって足止めを余儀なくされたとき、運良くこの町に住む魔族の方が発見・救護してくれた。

 最初こそメンバーの中には「魔族に騙されているのでは」と警戒する者もいたが、カミーユの能力である『魂を見る能力』で信用に足ると断定した彼女の主張を、彼らはすんなり受け入れた。

 彼らが教会の敬虔な信徒だったため、聖女であるカミーユの話は彼らにとって神の言葉も同様…というのが受け入れた根拠のようだ。


 カミーユ曰く。

 魂は我々人族と何ら変わりない。

 死んでまた生まれ変わったとき、魔族が人族に、その逆もあるのだとも聞かされたときは皆んな少し驚いていたが。

 カミーユは熱心に魂の在りようを説いて、彼らを説得…いや導いたと言ったほうが適切だな。


 かくして魔族は人族と変わりないのだと。

 魔族ならではの能力のために扱える魔法が多彩かつ魔力が多かったりはする。

 人族より病気の耐性や身体能力が高かったり、寿命が約2倍ほど長かったりもする。

 そういった点から、価値観や道徳観、文化や生活習慣の違いなんかはあることだろう。

 しかしそのあたりは人族同士でも他国と感じる相違点とそう大きくは変わらないだろうと、まとめられた。

 アンドレスの言う「(人族と魔族による)為政者の対立」も人族同士であっても普通にある話だとも付け加えられた。



 さて、そうなると。

 人族が人族の国同士で手を取り合うように、人族と魔族が手を取り合うことも普通なことだと解る。

 それはこのヌメリスの町の在り様を見れば体感できることだ。

 なのに、人族は彼らと戦争をしようとしている。


 エストノール王国の騎士団から発令された第三次進軍の計画。

 魔王領には結界が張られており、我々はその結界を破ってまで侵入したうえ、魔王を打倒しようとしているわけだ。


 …一応言っておくが、遮音結界魔法でこの部屋を覆ってあるから外部にはこの会話は聞こえないようになっている。

 安心してくれ。



 改めて、魔王はなぜ倒すべき敵なのか?

 いつの間に我々は、一般民は、どのようにして「魔王倒すべし」という思想に囚われていったのか。

 さらには、我々も魔族から見れば敵なのだろうか?



「皆んなで考えても解らないね」


 アメリアがため息まじりにそう言った。


「そうだなぁ」


 やや話し疲れてきた俺が応えた。


「ノア、少し休め。

 うん?」


 外の異変に気付いたアンドレスが、部屋の窓を開けてホテルの玄関を見下ろして様子を確認している。

 少し騒がしいようだがトラブルの類いではなさそうだ。

 馬が蹄を鳴らす音やブルブルと鳴き声が聞こえる。

 幾つかゴロゴロと聞こえていた車輪の音も止んだため、馬車が何台かホテルの前に停まったのだろう。

 団体客かと考えていたら。



「町長さん、私たちが安心できるようにって、当面はこのホテルを借り切ってくれていたのではなかったっけ」


「確かそのように聞きましたね。

 治療院の方々も詰めて下さってますし、

 お部屋はあるのでしょうか」


「あいつじゃないか?」


 引き続き様子をうかがっていたアンドレスが、馬車から降りてきた人物の姿を見るなりそう言った。

 するとその人物もアンドレスに気付いて下から彼を見上げて声を上げた。


「久しぶり、アンドレス!」


 その人物はカールだった。

 我々パーティが護衛兼被験者として参加した第三次神殿調査団の団長、エストノール王国所属の学者である。

 そのカールが何故ここに?


「アメリア、お前の疑問は奴に訊いてみよう。

 大概のことは答えてくれるだろう」


「そうなの?」


 目をパチクリするアメリア。




「失礼します…」


「久しぶりです、カール団長。

 横になったままで申し訳ないです」


 ホテル1階のホールまでカールを迎えに行ったアメリアが彼を案内して部屋へ招き入れようとしたところ、彼は開いたドアに一歩踏み入れたあたりで、挨拶もそこそこに、歩を止めた。


「ノアさん、気になさらないで下さい。

 ご病床とのこと伺っています。

 我々も到着したばかりで埃まみれですから、一旦身だしなみを整えてから出直しますね。

 でも体調は宜しいのですか?」


 視線をノアから外したカールがアンドレスに問いかけた。


「まだ体力は戻りきっていないが、短時間の会話は問題ないようだ。

 ちょうど…お前を見込んで訊きたいことが出来たんだが、着いたばかりで疲れているところすまないが、後で時間を少し貰えまいか?」


「私は構いませんよ。

 そういうことでしたら今日の午後から参ることに致しましょう。

 私が何故ここに来たかについても早々にお伝えしたいですし」


「ありがとう、カール」


「なんの、アンドレス」


「ありがとー、だんちょー!」


「では後ほど。

 あ、皆さんはそのままで」




 ドアを閉めるカールを見届けたところで俺は空腹を覚えた。


「ノア、お腹が空きましたね」


「え、それも判るのか」


「いいえ、今お腹が鳴りましたよ」


「聞こえたか」


「聞こえたよー」


「復調してきたな、ノア」


「ルームサービスをお願いしましょう。

 もうブランチですね。

 ノアは何が食べられそうですか。

 スープとかですかね?」


「温かいスープとパン、サラダも少し欲しいな」


「はい」


「私はね、カツサンド!」



 いつもの光景だ。

 やがてルームサービスによって温かい食事が部屋に運び込まれ、俺は久しぶりに胃を満たすことが出来た。

 まだ本調子じゃあないが、回復してきた実感がある。

 もう一晩ゆっくりすれば今のカミーユくらいまでは回復するだろう。



 食事の後、俺は少し休むことにした。

 カミーユが離れていたこともあって、アメリアが俺の様子に気付いて、俺が手に持っていたカップを彼女が引き取ってくれた。


「ゆっくり休んで、ノア」


「あぁ、ありがとう、アメリア」


 話し疲れていたのか、俺はあっという間に眠りに落ちた。




 午後。

 既にルームサービスの食器類は回収され、来客用にお茶菓子の準備も万端だ。


 アンドレスたちはそのまま外出も可能な出で立ちだ。

 完全復調とはいかないはずのカミーユも2人に合わせている。

 俺はベッドに入ったままだが、パジャマの上から羽織れるベストを傍らに用意して貰っている。



 やがてカールが訪れた。


「改めまして皆さん、お久しぶりです」


 ドアの近くで会釈して迎えたアメリアとカミーユの奥、俺から見たら手前からだが、アンドレスが彼に部屋へ入るよう手招きした。


「やあ、カール。

 疲れているところをすまない。

 入ってくれ」


「ありがとう」


 アメリアが椅子を引いて彼を着席させた。

 なに今の流れるような所作。

 まるで貴族のお屋敷で働く使用人のようじゃないか。

 そしてお茶を淹れる仕草のなんと優雅な。

 …それは褒め過ぎかな。

 まぁそれは置いておいて。


「カミーユはまだ座っていてね」


「はい。

 ありがとう、姉さん」


「カミーユさんもノアさんと同じ症状なのですか」


「幸いにも私は軽く済んで、明日には元通り良くなると思います」


「そうですか、それは良かった」


「ありがとうございます」


「で、カール。

 ここにお前が来た理由を頼む」


「その前に、お茶が温かいうちに一口だけ飲ませて下さい」



 カールから話された概要。


 先ずはカールのこと。

 第三次神殿調査団が解散となった後は元の職場に戻ったとのこと。

 元の職場…彼は国立大学の教授、しかも学部長だそうだ。

 自国や近隣諸国の史跡が専門でありながら魔法にも精通しているというアンドレス曰く『ドラゴニュート族きっての天才』とのことだ。


「昔の話はよせよアンドレス。

 確かにそんなことを言われたことがあったが、国を出て見事に鼻をへし折られたよ」


「そうなのか」


「大学には凄い人たちが集まっていた。

 サラさんもそうだ」


「サラさんって、魔法研究所のサラ博士…サラ所長のことですか」


「ノアさんは彼女をご存知でしたね。

 彼女と古代魔法について話をしたことがありますが私にはチンプンカンプンでした。

 天才と呼ぶなら彼女のことです。

 エストノールは魔法研究に本腰を入れるようになったばかりですが彼女がすぐに他国を凌駕してくれるでしょう」



 エストノール王国は他国に比べて教育機関が充実かつ学費が比較的安めだったため若きカールは同国の大学へ進んだとのこと。

 ただ魔法だけは指導者に恵まれずに発展が遅れたそうだが彼女が現れたことで次代も明るいとの話だ。



「サラさんも大学の教授だったんてすね」


「そうです。

 同じ国立大学で、私は考古学、彼女は魔法理論を専門としていて、それぞれで国のプロジェクトに引っ張られたわけです」


「だんちょー、じゃなかった。

 カールさんはきょーじゅさんだったんですね」


「そうですね。

 団長だったのは皆さんとご一緒した調査団のときだけです。

 …さて、本題に移りますね」



 カールがここに来た理由。

 つまりこの街の現状をどうやら把握していて彼が恐らく国からここへ派遣されてきた理由だ。



「ヌルメス町長のオールマルクスさんから、ラハティ共和国を通じてエストノール王国に要請があったんです。

 先遣隊に被害が出たから救援を求む、とね」


「やはりそうでしたか。

 オールマルクス町長、我々が街に着いてすぐ連絡して下さったのですね」


「しかし神殿調査団のときは解るとして、今回は医療チームだろう。

 おまえ医学にも造詣があったのか?」


「まさか。

 人が足らなかっただけですよ」


 謙遜の姿勢を崩さないカール。


「いやいや。

 神殿調査団のときも魔法師の方々を指揮してらっしゃったじゃないですか。

 カールさんは魔法を使えませんよね?

 なのに彼らを見事に采配なさってた。

 そのご実績を踏まえての今回の起用だと思いますよ」


「あはは、そうならいいですね。

 ありがとうございます、ノアさん」



 カールが派遣されてきた理由は判った。

 しかもほんの数時間前に到着したというのに既に医療チームは調査行動と治療を始めているという。

 これも「部下が優れているから」と言うものだから、これが部下や同僚に慕われる最大の理由なのだろう。

 しかしメンバーに恵まれていたとて彼らを活かせるかどうかは彼の采配しだいなのだから、やはり彼のマネジメント能力が高いのだと思う。


 と言うか彼らが先遣隊であるべきだったのでは。俺達はただミイラになりに来たミイラ取りじゃないか。

 と少々凹んでいたのだがカールさんから

「ノアさんたちが魔草と遭遇したという情報があったからこそ私どもは適切なチーム編成が出来たのですよ」

 とフォローを受けてしまった。

 ありがとうございます。



「そういうことで、ノアさんとカミーユさんも程なく診察させて頂くべくチームの者が間もなく到着すると思いますので暫くお待ちください」


「いや、我々は後でいいですよ」


「そう仰ると思って、勝手ながらですけど、これでも後に回させて頂いているのです。

 だから大人しく診察されて下さいね?」


「カールさん、ありがとうございます。

 読まれてましたね、ノア」


「そうだな、カミーユ。

 カールさん、改めて宜しくお願い致します」


「はい、私共にお任せ下さい」




 そうこうしている間に医療チームが到着して診察を行った。

 ノアとカミーユはもちろん、発症していないアンドレスとアメリアも対象だ。


 そして医療チームの面々は流石というべきか医療に特化した魔法を会得していることも判った。

 止血のために皮膚再生を促進させる魔法は通常の回復魔法より少ない魔力で行使できるし、解毒魔法もその場限りではなく解毒草のように効果が継続するようだ。

 どれも基本的には人間本来の治癒能力を促進させる魔法陣を応用したものらしく、他にも色々あるようだが今回は割愛しておく。




「さて、アンドレス。

 私に訊きたいこととは何でしたか」


「あぁ、それはな…」


「はいはーい、私が訊きたいことなんです、カールさん」


 そうだ。

 そもそもアメリアが当エピソード冒頭で質問を投げかけたのだ。



 魔族の在り様は自分たちと変わらないように思える。

 その魔族を統べる魔王とは何なのか、その魔王を打倒する理由は何なのか。


 カールさんにこういう質問を投げ掛けていいのかと思うところだがアンドレス曰く「奴は博識で何でも知っている」とのこと。

 カールさんは星だったのか。


 それはさておき、アメリアだけでなく我々だってこの疑問というかモヤモヤを解消したい。



「まず一つ目、戦争についてです。

 人族対魔族の種族間戦争のようなものではなく、教義や宗教も関係なく、ただの国同士の戦争が主体であることです」


 人族どうしが争わないよう人族の権力者たちが自分勝手に仕立て上げた存在ではない。

 少なくとも魔族が人族の国や町で無差別に殺戮や略奪をしているという話は聞かないということだ。

 その逆も然り。

 人族どうしでも自国内で稀に発生していることで、特に種族間で目立ってそのような事件や事案が特別報告されているわけではない。



「それでは、魔族と人族が今回戦争をするに至った理由って何なのでしょう。

 まずはどちらかから宣戦布告があったのではないのでしょうか」


「そのとおりです、カミーユさん。

 二つ目、宣戦布告は魔族側からです」



 魔王による圧政が酷いそうだ。

 魔族の国にも政を担う組織があるのだが実際には魔王とその直属の部下による独裁に近いらしい。

 その独裁政権が反対意見を抑えて宣戦布告をしたとのことだ。


「三つ目、しかし魔王と言っても『悪魔』のような禍々しい存在ではなく、普通に魔族の人物です。

 家系的に比較的大きな魔力量は誇ってはいますけどね。

 あと、魔王というものは基本的に世襲制です。

 とは言え、何世代も続いたことは過去の歴史では少ないようですね」


「それは、魔王の座を巡って争うとかですか?」


「そうです。

 一部の人族とそう変わらず、魔族内で小国どうしや、あるいは一族の中でも争い諍いというものは起こります。

 で、これが四つ目です。

 そんな歴史に倣ってというべきかは判りませんが、現魔王政権を打倒したいと協力要請があったわけです。

 もちろんエストノールや連合国もそのあたりの調査はしていまして、現政権ではなくその反対勢力と話をするべきとの各国の共通見解です」


「先ほど言っていた、圧政に耐えかねてのクーデターというわけだな。

 内通者は今この国に潜んでいるわけか」


「内通者については話せませんが、クーデターはそのとおりです、アンドレス。

 そのクーデターを扇動した彼らサイドには我々との戦争の意志が無いわけですから、人族の国に被害を与えぬよう先んじて我々に攻め込ませるために、連合国側に情報を届けてくれたわけです」


 そこでクーデターを隠すために戦争を起こす大義名分、人族に仕掛ける大義名分が必要になる。

 これには先ず、クーデターの先導者たちから魔族上層部に宣戦布告が打診され、同時に双方種族国内それぞれで住民の間には意図的に次のような噂が広められた。



 魔族国側。

 人族は魔族領地を欲している。

 増えつつ人族が住める場所を、森林資源や鉱物資源に富んだ魔族の未開発の土地に求めているというもの。

 そして魔族は、人族の自分勝手な侵略行為に断固抵抗するため武力を以てこれを排除する。


 人族国側。

 魔族は、人族の魔道具、農耕器具、そのほか多様な娯楽を欲している。

 長年かけて培ってきた技術や文化を、人族を従属化させることで我が手にしようというもの。

 そして人族は、魔族の非人道的な侵略行為に断固抵抗するため武力を以てこれを排除する。


 こんな感じだ。


「カールさん、アンドレスから聞いてはいましたが、凄くお詳しいのですね」


「宰相殿から聞いた話ばかりですけどね、カミーユさん」


「そうなんですか。

 今更ですが、こういった話は国家機密レベルだったのでは」


「まぁ、そうですね。

 でも皆さんなら大丈夫と言いますか、宰相殿からも皆さんにお伝えして構わないと言われてきておりますので、全く問題ありません。

 あと付け加えますと、勇者は国政においては大臣と同等の権限がありますし『勇者令』を発動すれば国家間においても影響力を有していますからね。


「あー、それ。

 何か、それを実際に体感しちゃうと、ちょっと重いかなーって、感じちゃう」


「アメリアも重いとか感じるんだ」


「なんだとう、ノア。

 恐怖耐性があってもストレス感じることはあるんだぞ?」


「ごめん、アメリア、言い過ぎた」


「はい、そこ二人。

 カールさんの前でじゃれ合わないの」


「「じゃれ合ってないし!」」




 すっかり全快した様子のカミーユが新しいお茶を淹れ始めた。


「カールさん、お茶のおかわり如何ですか」


「ありがとうございます。

 頂きます、カミーユさん」


「カミーユ、すっかり元通りだね!」


「はい、姉さん。

 カールさんと医療チームの皆さんのお陰です」


「ノアも顔色が随分良くなったな」


「あぁ、きっと明日の朝には俺も元通りだろう。

 他の先遣隊の皆んなはどうだろうか」


「それなら心配に及びません。

 先ほどチームからも通信で報告があって、皆さん快方に向かっているとのことでした」


「よかったー」


「もっと何日もかかるものと思っていました」


「そういうこともあるそうですが、今回の毒性は運良く知見のあるものでしたので、特効性のある処方が手持ちにあったのです」


「じゃあカールの仕事もこれで終わりか」


「流石にまだそういうわけには。

 皆さんの全快を見届けることもですが、この症状の原因となった地域の植生調査と処置も我々の職務に含まれています。

 つきましてはその間の警護をアメリアさん達に依頼したいのです」



「お安い御用だよ!」


「ミイラ取りがミイラになったままで終わらなくてホッとした」


「しっかりご恩返しさせて頂きます」


「宜しくお願い致します、皆さん」


「俺達の疑問もカールさんのお陰で解消されました。

 アメリア、カールさんから聞かせて貰った話を纏めてくれるかな」


「わかった!」



 魔王率いる魔族国との戦争が始まる。

 表向きはそれぞれ相手国(連合国)からの侵略行為への抵抗を掲げているが、その実は魔族国のクーデターを偽装するために同国の依頼を請けての派兵だ。

 クーデター先導者からの内通すなわち手引きがあるため人族国連合は比較的容易に魔族国中枢まで進軍出来る寸法だ。

 我々はそれに乗じてクーデター先導者と共に魔王を打倒する。


「でもその内通情報って、そもそも確かなのですか」


「ノアさん、そこは大丈夫です。

 と言っても私が直接確認したわけではありませんが、連合各国でも信用できると判断しています」


「あとはだ、表向きは先ほどの通り魔族国の宣戦布告に抵抗するためでいいとして、裏で内戦に手を貸すことに連合国は何を見出しているかだな。

 連合国の利は何だ。

 魔族国に大きな貸しを作ることにはなるがそんな気の長いことを各国が考えてなんかいないだろう。

 そもそも戦争をしたかったわけじゃないだろうに」


「そのとおりです、アンドレス。

 魔族側は、時刻領内にある鉱山を一つ譲渡すると言ってきたのです。

 もちろんクーデターが成功して新政府が樹立した後になりますが」


「既に取り尽くした後ということは無いのですか」


「それについては既に調査チームの派遣を申し入れておりまして、魔族国からも了承を得ているとのことです、ノアさん」


「ノア、相変わらず確認というか裏取り意識にそつがないですね」


「そりゃあ、そうだよ、カミーユ。

 体を張るんだから、それくらいは解っておかないと。

 出来ることなら自分の目で見ておきたいくらいだ」


「それは心強い。

 ノアさん、お願いできますか」


「えっ!いや、それは言葉の綾で…」


「冗談ですよ。

 私も今のノアさんと同じように宰相殿に色々質問をぶつけたんです。

 その際に聞かせて頂いた内容も全部お伝えしますね」



 戦争でカモフラージュさせて魔族内でクーデターが起こされる。

 連合国がそのクーデターに協力する見返りに、魔族側は自国領内の鉱山を一つ譲渡することを提示してきた。

 連合国の各国首脳は調査チームを派遣することを条件に入れている。

 すぐ了承は得られたので既に取り尽くされたということはないだろうということで連合国は慎重姿勢を崩さないながらも鉱物資源に惹かれて概ね合意。


 しかしそこでラハティ共和国から提案があった。


 資源を得られることは大きいが、それは一時的な利益に過ぎない。

 魔族国側もクーデターが成功したところで経済的に当面は苦しいだろうし、また同じことが起こらないとも限らない。

 これを機に魔族国と国交を結んで相互に経済交流してはどうかという案が提示された。


「それについては連合国内で統一見解には至っていないようですが。

 魔族国からは鉱物資源や森林資源、人族国からはそれらを使って作った魔道具や農耕器具など。

 最初は形のあるものを売買するところからスタートです」


「形のないものもあるの?」


「そうです、アメリアさん。

 まだ想像の域ですが、その次の段階は技術や文化の相互交流です」


「それが叶ったら素敵ですね」


「本当にそうです、カミーユさん。

 しかし連合国の一部からはラハティ共和国の言うことは夢物語だという声もあります。

 ですが批判的ということはなく各国とも好意的に受け止めてくれているようです」


「そっか、わかったよ、カールさん。

 戦争の先には人族にも魔族にも未来があるということだね!

 そして、その障害になっているのが、圧政を敷いている魔王だね!」


「はい、その理解で結構です、アメリアさん」


「俺も承知した。

 ノアとカミーユもそれでいいか?」


「ああ問題ない。

 未来を見据えた意義のある戦いということが解ったからな」


「はい、少なくとも人族国の被害は最小限に抑えられるようですし、あとは魔族国内の被害もどのように抑えるかが課題ですね」


「それについては宰相殿も考慮してらっしゃいました。

 近いうちに軍議を予定しているそうなので皆さん帰国後に出席を要請されると思います」


「解った、カール。

 というか、お前。

 さっきから、宰相殿から聞いているからと言ってはいるが、それでも詳しすぎやしないか?」


「あぁ、実は宰相付きの役職に就きましてね。

 時々ですが宰相の元に出向いて議案について客観的に意見したりさせて頂いております。

 まだ正式なものでも役職名も決まっていないので、伏せていました。

 や、隠していたわけでも隠せと言われていたわけでもないですよ」


「納得しました、俺もアンドレスと同じように感じていました。

 でもそうすると非常にご多忙ですよね。

 国立大学の教授として教鞭を執りながら学部長として切り盛りしつつ、国が編成するチームを率いることもあり、ついには政治にまで」


「カールさん、忙しくて大変?」


「まぁ、忙しいは忙しいですが、どれもやり甲斐はありますので」


「くれぐれも無理なさらず、お身体はご自愛下さいね。

 お茶のおかわり如何ですか」


「あぁ、もう結構です。ありがとうございます。

 お話もこれで、少なくとも私からは洗いざらい話せたかなと思います。

 皆様からは何かございませんか?」


「大丈夫だと思います。

 俺たちは魔王領侵攻に関する情報と、そもそもの気構えと言うか大前提を再確認したかったので、今回カールさんから話を伺えたことは僥倖でした」


「あとは軍議もあるようですので、侵攻計画についてはそちらで最新情報を聞けるでしょうしね」


 カミーユがアメリアとアンドレスに視線で確認を取ると二人は頷いて返した。


「承知致しました。

 それでは私はこれで失礼することに致しますね。

 カミーユさん、お茶をご馳走様でした」


「いえいえ。

 こちらこそ、ありがとうございました」


「カールさん、ありがとー。

 これで迷わずに戦えるよ」


「お力になれて幸いです。

 私個人としてもエストノール王国としても、これくらいお安い御用です。

 ノアさんは引き続きお大事になさって下さいね」



 その後カールは席を立ち、アメリアに出口まで伴われながらホテルを後にした。

 程なくしてアメリアが部屋に戻ってきた。



「カールさんが、明日は昼から調査の同行をお願いしたいって。

 朝でなくていいのかと訊いたら明日は昼までゆっくりしてだって。

 わかりましたって返事しておいたよ」


「俺を気遣ってくれたんだな。

 わかった、アメリア」


「それまでは、買い出しとか装備の見直しとか、準備をしましょう」


「じゃあ今夜は、ノアがもっと元気になるように、力がつくものを食べようよ!

 肉がいいね、肉!」


「それは姉さんが食べたいだけでしょう?」


「ええー、違うよー」


「いいな、肉」


「そうでしょ、ノア。

 私おいしそうな店を見付けておいたんだー」


「やっぱり姉さんが食べたいんじゃない」


「えっとね、アルミラージ肉の専門店だって!」


「「「ええ?アルミラージ?」」」



 ワイワイと、いつも通りの賑やかさが帰ってきた。

 こうでなきゃな。



 その日の夕食はアメリアの思惑どおりアルミラージ肉の専門店へ。

 早めに出向いた割には店は大盛況で、三日三晩煮込んでいるという看板料理のシチューはかなり美味かった。

 四人とも心から満足した表情でホテルの部屋に帰ってきた。



 さて、医療チームのお陰で体調はかなり改善したし、風呂に入って身体を温めて、しっかり寝て明日以降に備えることにしよう。


 今回はドジを踏んでしまったが、反省は反省として、ここで切り換えだ。

 介抱してくれた町の方と、いち早く国に連絡してくれた町長と、カールさんと医療チームの皆さんにしっかりご恩返しすることに集中しよう。


 おやすみなさい。

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