表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追い駆けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と始まり
2/21

ある平和な朝

 朝から好天に恵まれた。

 お城に行くのに良い日和なんてものはないと思うが天気がいいに越したことはない。

 まだ少し肌寒いがもうすぐ暖かく過ごしやすい季節になるだろう。


 ノアは軽くひと伸びしたあとベッドから降りた。

 自宅で普通に寝起きするときは基本は日の出とともに起床する。夏は早いし冬は遅いというわけだ。そして曇天なら目覚めが悪い。人間というか生き物は本来こんなものだろう。


 顔を洗って葉を磨き、最低限の身だしなみを整え、目覚めのコーヒーを淹れる。

 後でカフェで皆と朝ご飯を食べるのは解っているが空腹に負けて何か食べることにする。

 たしかバケットがあった。いつ買ったっけ、カビてはないだろうが硬いかも知れない。水魔法で霧を吹き掛けてから焼くと良いと何処かで聞いたように思う。


「ごちそうさま」


 あっという間に食べ終わって食器も洗い、まだ時間に余裕があるので隣の書斎兼工房に移動した。


 休暇には木を切ったり削ったりして、主にスプーンやフォーク、皿等のカトラリーを作るのに凝っている。もちろん生木をこのために切り倒すなんてことはしない。枯木のほか、間引いて伐採した木材を譲り受けて使っている。

 壁には木製の摸造剣も飾られている。


「さて、何日かぶりだな」


 ノアはいつもどおり前掛けを着て、両腕にはカバー、手袋も着用する。

 手に取ったのは作りかけのスプーン。大皿料理を取り分けるサービングスプーンというやつだ。一般的な直刀と窪みを作る曲刀を使い分けてガシガシ削り出す。


「ええと、『豊穣の女主人』への納品は…次の日曜だったっけ」


 有難いことに人づてで広まって趣味が転じて副業になったわけだが、今は街で一番人気の食事処から受けた注文に対応中だ。本業のことは先に断っているので納期については問われてはいないが、今後の付き合いもあるから出来るだけ要望には応えるようにしている。


 こいつは時間を忘れて没頭できる。

 …ん?


「もうこんな時間か!」


 パーティの仲間との約束時間が迫っていた。

 削り屑は放置して、慌てて装備を整えて荷物を抱えて自宅を飛び出した。




 街のカフェ『猫の瞳』にて。


「遅ーい!今日はノア持ちだよー!」


 店に入るなりアメリアからパーティメンバー全員への驕りを要請された。

 俺が悪い、仕方がない。


「わかったよ…」


 しょぼんとしながら荷物を降ろし、身軽になったところで席に着いた。

 既に皆は食事を始めていた。俺も同じものをとウェイトレスに頼み、ほどなく運ばれてきたモーニングセットをかき込み始めた。


「ノア、そんなに急がなくてもまだ大丈夫ですよ」


 カミーユにそう言われ、ホットコーヒーをグイと一口飲んだところで一息つくことにした。

 それまで俺がまたどうせ木を削っていたのだろうとか、カフェのウェイトレスの三姉妹が美人だとかという他愛のない話で賑やかだったが、俺が落ち着いたのを見計らってか、話題が王との謁見についてに変わると緊張した空気に包まれた。


「皆、今日もいつも通り定期報告がメインなんだけど」


 アメリアが王家から受け取った便箋を片手に本題を話し始めた。

 いつもは「いぇーい」みたいなノリの彼女だが、こういうときは口調も表情もビシッと真面目モードになる。


「今回は謁見の間ではなくて会議室で王様に会うみたいなんだ、つまり…」


「国からの報告があるのか、我々に何か要請があるのか、だな」


 アンドレスが顎髭を触りながらそう応える。


「私はその両方だと思ってるよ、あの人たち報告だけで終わらないもん」


 アメリアの発言に一同が苦笑したところで、セットを食べ終わりコーヒーをぐいと飲み干した俺が口を挟む。


「魔王の居城に近付ける方法に目処がたったか、ナントカの神殿とやらの封印が解けたか、どちらかじゃないかな」


 魔王の居城は数十年前に魔王に攻め落とされた城の跡地に建てられたものだ。場所こそ周辺国に把握されているものの、隠蔽魔法か結界魔法かのせいで連合国軍あげての侵攻でも近付くことが叶わなかったのである。

 神殿は、世界各地で幾つか見つかっている旧時代の遺跡のうち、これから彼らが謁見に向かう国お抱えの学者によって研究成果が出始めているらしい。この実績によって他国からは当遺跡の調査主幹を任せて貰えているようだが、各国どこも手を出さないものか?


「前者なら軍部が侵攻作戦を切り出すか、後者なら学者の遺跡調査に動向してくれとかだろう」


「その学者さんの研究チームの中にはアンドレスさんの知り合いもいらっしゃるのでしたよね、何かお聞きなのですか?」


 俺とアンドレスの発言にカミーユがすかさず質問を返した。

 アンドレスは少し考えた顔をすると、手の仕草で俺達の顔を近付けさせた。

 他言無用だと前置きをした後でアンドレスが言った。


「その神殿は名前はおろか存在もまだ民間には伏せられている」


 俺がよほどバツの悪い顔をしたのだろう、皆がふっと微笑んで彼は続けた。


「で、その神殿の役割が解明されたらしい」


 顔を近付けて話を聞いていた三人が交互に視線を交わし合う。


「それで?」


「その神殿の名前である『覚醒の神殿』のとおり、儀式を受けた者をある存在に覚醒させるらしい」


「それでそれで??」


 名前までは以前の謁見で聞かされていた。その先がキタと喰い付いたアメリアだったが、ここで時間切れだ。続きは謁見の後ということになった。

 謁見のときに聞かされる話かも知れないし公式の情報でもないのであまり執着するなと彼に言われた。だったら話すなよ。


 装備と荷物をまとめて店を出た。

 おっと、精算は俺もちだったな。はいはい、分かってますよ。




 店を出て王城に向かう道中、前を並んで歩くアメリアとカミーユの会話。


「ところでさー、他の冒険者パーティの動向って前々回くらいから聞かされていないよね、未だ紹介も無いし」


「そうよね、この国だけでも勅命で動いているパーティってウチを入れて3つあると聞かされたけど、どうなったのかな」


「個別に指示を出して謁見してって、横の繋がりも出来ないし、この国の偉いさん達も効率悪いと思わないのかな?」


「それぞれ密命で動いているのでしょうね…って、え、どうしたの姉さん?まだ真面目モードだったの?」


「え、なにそれ、どーいう意味ぃ??」


 きゃーっと駆け出す姉妹。

 こうして見ると歳相応の女の子たちだ。国から見出されていなかったら、そして冒険者をしていなかったら、同年代の友達に囲まれてこんなふうに楽しく過ごす時間も多かったことだろう。

 まぁ俺も姉のアメリアとは三歳くらいしか変わらないが。


 俺とアンドレスも仕方なく、二人から遅れないよう小走りで追って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ