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追い掛けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と、始まり
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ある冒険者たちの覚醒③

「ノア様!ご無事ですか!?」


 これはいかん。

 カール団長は精霊なんて見たことがないはずだ。

 パーティメンバーは俺の契約精霊は何度も見たことがあるが今ここにいる2体は初見だ。俺もなんだけど。

 アメリア、剣は手を添えるだけにしておいてね、抜かなくていいからね。


「みんな、問題ない!

 彼らは精霊だ。ちょっと見た目コワいけど…俺達に害をなす存在ではない!」


 俺の発言を聞いてカール団長は安心したのか脱力するようにその場にしゃがみ込んだ。

 アメリアも剣から手を離した。

 良かった、信じてくれて。


 見た目コワいけど本当に大丈夫だから。


 1体は人型だがかなり長身で少しばかり強面であり、下半身が煙のように掻き消えている。

 もう1体はとてつもなく巨大な頭足類つまりタコやイカのような風貌だ。

 うん、何も予備知識がなければ異様に感じてむしろ当然だ。



 魔力ウェーブ照射が50秒に達するかというタイミングで現れた精霊たち。

 通常は喚び出した術者だけでなく辺りの空間を占める魔力も共に充実していないと顕現しないものだが、この神殿の、或いはこの魔法陣の力なのだろうか。



 やがて魔力ウェーブ照射が終わった。

 精霊騒ぎで途中カウント連絡が漏れていたが、65秒だったそうだ。


「ちょっと、そのまま、みんな待っててくれ」


 俺はそう言って精霊たちを見上げた。



 アーチから光の筒が消えても精霊たちは変わらずそこに居た。

 とは言え、実体化しているわけではない。

 彼らはエーテルのみで構成された存在だ。もし実体化していたら神殿がとっくに崩壊している。


 精霊に向かって語りかけた。


「精霊よ、仲間に状況を説明したいから、それまで待って頂きたい」


 精霊魔術師の言葉は彼らに伝わる。声帯を震わせる言語を扱わないだけで意思疎通は問題なく出来るのだ。

 ただ時間の概念が無いので、『待ってくれ』と頼むときは明確な期間を示したほうが無難…俺流に言い換えれば礼儀だ。


 精霊が応えてくれた。

 他の者には微動たりともしていないように見えるだろうが、俺には感じ取ることが出来た。

 しかも待つことの了解だけでなく先ほどの俺の疑問、顕現した理由についても話して…正確にはテレパシーのような手段で教えてくれた。



「すまん、みんな。待たせた」


「もういいの?」


「精霊たちには待って貰っている。先にみんなに説明しておきたい」


「ノア様、そうして下さると助かります。ちょっと私の理解が追い付かなくて…」


「カール団長。私達もノアが精霊を喚び出すのは見てきましたが、この2体はなんと言いますか、格が明らかに違います」


 しゃがみ込んでいたカール団長がアンドレスの手を借りて立ち上がったのを確認して、俺はその場で彼らと精霊たちと交互に見やりながら説明を始めた。



「彼らは…まあ性別はないんだけど便宜上『彼ら』と呼ぶね。

 オレが現時点で契約している精霊は、風のシルフィードと、水のウンディーネ。

 そして今ここに現れたのは、その上位にあたる精霊。

 風のジン、水のクラーケンだ」


 そういって精霊を見上げると彼らが会釈したように見えた。いや、した。

 ジンは明確に胸に手を当てて人間の貴族風のお辞儀をしてくれた。

 クラーケンは、その幾つもある触手をクネっと、やはり胸?に当ててお辞儀をしてくれたのだが、少々面妖だな…。



「ノア様、ひとつお訊きしても?」


 その前にカール団長から何やらご質問のようだ。


「どうぞ、私が判ることであれば」


「クラーケン…様?は、海で船を襲うと言われる魔獣と関係があるのでしょうか?」


「ああ、そう考えますよね。でも結論から言うと、少々違います」



 クラーケンという海の幻獣が船を襲うという逸話は、恐怖と想像力の組み合わせから生まれたと考えられている。

 説明のつかない出来事を説明するためであったり、あるいは船乗りへの警告として危険な海域を避けさせるためであったりする。

 船乗りの話が元で、いつの頃からか巨大な頭足類の姿が生み出されたものに精霊と同じ名が付けられ、語り継がれてきたものとされている。



「つまり、人間の想像力の産物が我々の認識するところのクラーケン像を作り出しただけということですか」


「そういうことです。今の彼らの姿は我々が持つイメージが影響して反映されているに過ぎないと、彼らも言っています」


「じゃあ、本当の姿ってどんなの!?」


 おっと相変わらず無遠慮の塊だな、アメリア。


「うーん、それは俺も知らないから彼らに訊いてみよう。

 …はい、はい。

 シルフィードとウンディーネは姿が変わらないけど、クラーケンは他の姿があるそうだ。

 あとジンは、他の姿どころか動物、植物、無機物まで変幻自在らしい」


 何となくジンが得意そうな顔をしている。

 やっと自分の話になったものだから喜んでもいるようだ。



「皆さん、お話しのところ申し訳ないのですが」


 カミーユが割って入ってきた。


「精霊様たちにはどのようにして頂くのですか。臨床試験もまだ終わっていないですし」


 カール団長もハッとした顔になった。


「アンドレス、たいへん申し訳ない。こともあろうに私が余計な質問を挟んでしまったばかりに進行を止めてしまった」


「いや、気にするな。

 ではノア、精霊たちとは今から契約する流れか?」


「ああ、アンドレス。

 俺も失念してしまっていた、すまない」



 状況説明を再開した。


「改めて、彼らは上位精霊である風のジンと水のクラーケンだ」


 …と話し始めると、二体の精霊はそれぞれ煙と渦に巻かれたかと思うとその姿を妖艶な美女?美男?…に変化させた。

 共に異国情緒のある民族衣装だ。

 ジンは褐色の肌で、足先までの長い裾の真っ白な装束を纏い、頭には白い布を被っている。

 クラーケンは白い肌で、海のように蒼いローブを纏い、頭には何も被っていない。

 とは言っても服装も身体同様エーテルで出来ていて実体はないはずだ。

 透き通っているわけではないのだが。


「綺麗…」


 カミーユが溜息まじりにそう言うと精霊たちは胸に手を当てて会釈を返した。

 自覚があるんかい。



 精霊の変身に出端をくじかれたが気を取り直して説明を続ける。


「俺に発現した能力は、エルフである俺にとっては特殊なものではない。

 マナ、自然界から取り込める魔力の容量が大幅にアップしたようだ。

 これによって俺の魔力とこの魔法陣を含む一帯の魔力が共に充実したことで、俺の元々の契約精霊である風のシルフィードと水のウンディーネが媒介者となって彼らを喚び出してくれたんだ」


 いつの間にやら精霊たちは調査団の学者たちが用意した椅子に腰かけていた。

 立ちっぱなしにさせるのが忍びなかたらしいけど、彼らも座ったりするんだね。


「そして先ほどアンドレスが言っていたように、これから俺は彼らと契約を結ぶ」


「ノア。前から気になっていたのだが、精霊との契約には何か対価を支払うのか?」


「対価はないよ。昔は寿命とか身体の一部とか言われていた時期があったけど、それは迷信。

 強いて言うなら顕現するときに俺の魔力が必要とすることと、あとは俺の信用度?」


 ふふんと今度は俺が得意げに。

 クラーケン、横目でジトッと見てるくらいなら何か言って。他意はないとは思いますが。



 コホンと咳を一つついて精霊たちに向きなおった。

 意図を察してくれたらしく、二体の精霊は椅子から立ち上がり、共にぼんやり光りだした。


「では風の精霊ジンと水の精霊クラーケン。俺と契約してくれ」


 コクリと二体とも頷き、先ほどより強く光り出した。

 二体から溢れ出す魔力のウェーブと言えばいいのか、ジンには煙状の魔力が、クラーケンには渦状の魔力が彼らを纏っている。

 これらの魔力が強く光って大きく膨らんだかと思った矢先、その一部が矢のように俺に飛び込んできた。

 昔、シルフィードとウンディーネ、当時は同時ではなく別々のタイミングだったが、彼らと契約したときと同じだ。


「これで契約は成立した」


「いつでも我らを喚ぶといい」


 今のは精霊たちの声だ。

 正確には耳に聞こえた訳ではないがパーティメンバーや調査団まで全員に声が届いたようだ。

 大きな教会の中で反響しているような荘厳さを感じさせる声に、改めて全員が畏怖の念を抱くにはじゅうぶんだった。

 風の精霊ジンと水の精霊クラーケン、二体の精霊はその声の余韻が消えきる前に、纏っていた魔力の霧散と共に一瞬で姿を消し去った。



「ノア、精霊様たちはどちらに還ったのですか?」


「エーテルが存在する世界、宇宙に還ったと表現できるかな。まぁ喚べば来てくれるからね」


「そっか!ノアもパワーアップしたってことだね!

 さぁ、次はアンドレスだよ!」


「アンドレス、宜しくお願い致します」


「あぁ、判った」



 アンドレスはアメリアよりも重厚なアーマーを装備しているため脱ぐのが比較的大変なのだが、俺が臨床試験を受けている間に既にあらかた準備をしてくれていたようだ。

 先ほどはアンドレスが俺の武器を預かってくれていたが、彼が使う重量級の武器は、まぁ頑張れば持てなくはないが… あ、アイテムボックスに収納した。

 そりゃそうだよね。

 つまり俺は役に立てなかったわけだ。



「ではアンドレス、準備を始めますね」


「うむ、頼む」


 学者たちが何度目かの同じ作業を繰り返している。

 直方体オブジェの表面を触っていると思っていたが、どうも触れるか触れないかくらいの位置で両手を動かしており、見えないピアノの鍵盤を宙で叩いているかのようだ。

 アーチの魔法回路が明滅のスピードを早めだす光景も目に馴染み始めた。


 アンドレスは既にアーチの下中央であぐらをかいて座っており、ほどなく天井から床まで渦巻く光の筒が彼の周りを包み込んだ。



「アンドレス、」


「…ポカポカするな」


「でしょ!」


「あのアンドレスが『ポカポカ』なんて言うんだ…」


 アメリアの呼び掛けに即座に返したアンドレスにもツッコミを入れかけたが、彼には聞こえない小声でそう呟いたカール団長に俺は思わず賛同の握手を求めてしまった。



「20秒です」


 経過時間のカウントが始まった。


 30秒、40秒と経過するが、今のところアンドレスは体調に変化は無さそうだ。

 というか黙っているからよく判らん。


「50秒です」


「アンドレス、何か変化を感じたりはないですか。

 貴方にも何かしらの能力が発現する可能性が高い」


「ふむ…おそらくだが身体能力が上がっている。

 いや正確には、身体能力強化…フィジカルブーストの効果が上がったようだ」


 アンドレスは攻撃や治癒のような周囲に効果を及ぼす魔法は使えないが、自身に付与効果を与える魔法は使える。

 その一つである自己身体能力を強化する魔法がパワーアップしたらしい。


 やがて、60秒を過ぎたところで魔力ウェーブが終わった。

 俺と同じ65秒だった。



 微かに魔法を発動させているのかアンドレスの全身がフィジカルブースト特有の光を纏っている。

 あぐらをかいたまま、交互に手や腕に力を込めながら確認をしているようだ。


 ちなみに今の彼を纏っている魔力はマナではなくオド、自身の体内に有る魔力の事を指している。

 殆どの魔法がこのオドを行使して発動させている。

 自然界の魔力であるマナを取り込めるのはエルフ族、精霊、一部の魔獣に限られるというのが通説である。



 そんな解説じみたことを考えていた俺の横でも同じように考え事をしていたらしいカール団長が話しだした。


「アメリア様たち、私の仮説をお聞き頂いても宜しいでしょうか」


 パーティメンバーの輪にアンドレスが戻って来るのを待って、カール団長の話を聞くことになった。

 アンドレスは装備を着込むのは後回しにした。


「ありがとう皆さん。では…」



 今回の臨床試験において、被験者である我々に発現した能力には1つの傾向が見られたことが、カール団長から語られた。


 アンドレスは身体能力。

 俺ことノアはマナと新しい精霊との契約。

 カミーユは魂の認識的なこと。

 そしてアメリアは情報処理能力と…?

 それぞれの特長を伸ばすような能力が発現している。


「アメリア様には先程もお話ししたように他にも発現している可能性がありますが、それが何かは追々のことと致しまして。

 過去の被験者の実績も加味しますと…」



『覚醒の神殿』におけるこの魔法陣において、新たな力が発現するというわけではない。

 気付いていなかった力、或いは出し切れていなかった力、それらが引き出されるという考え方が正しそうである。


 魔法の素養があった者。

 研究職に素養があった者。

 彼らはその力が引き出され、新天地に転属した。


 そして我々。

 それぞれが得意とするジャンルで本来もつ力、鍛える余地があった部分が引き出されて強化された。



「皆様は、ご自身の素養、特長をしっかり見極めて且つ鍛えてこられたのでしょう。

 転属した者たちは、自分の素養に気付かなかった或いは鍛える機会に恵まれなかったところへ、発現という形で素養が明確に能力として開花したのでしょう」


「私の素養って何だろう…」


 ポツリとアメリアが呟いた。


「姉さん?」


「カミーユ。私ね、情報処理能力?どうしてそんな能力が発現したのか解らないよ。

 だからこっちがカール団長が話してた、転属した人たちのパターンの方かな。

 二つ発現したのが本当なら、もう一つの判っていないものが皆と同じパターンの方だと思うのだけど」


「アメリアの特長についてだな」


 アンドレスの言葉に、彼女は静かに「そう」と言って自信なさげに頷いた。

 ちょっと弱々しく見える。


「私ね、前からずっと思ってた。

 カミーユは回復魔法、ノアは精霊魔術、アンドレスは数々の武器を使いこなす戦闘術があるのに、私には何があるんだろうって」


「アメリアは二本の剣を使うじゃないか。脚だって速い」


「それだってアンドレスから習ったもの。

 努力はしたよ?でも三人みたいにキラキラしてない」


 キラキラとかポカポカとか。

 こういうところがアメリアの特長なんだけどそれは言わないでおこう。



 いつになく心細そうな表情をするアメリアに返す言葉に困りかけていたが。


「アメリア、お前は頑張っている。

 それが皆に勇気を与え、奮い立たせてくれている。

 それで足りないと言うのなら、これからでも見つければいい」


 俯いていたアメリアが少し視線を上げたようだった。


「その話は明日にしよう。

 もう日も暮れる頃合いだ。

 カール、魔法陣の撤収はそろそろか?」


「あぁ、既にあらかた済んでいるから、そう待たせないと思う」



 さすが、アンドレス。

 アメリアの双剣術の師匠。

 そして心の父。


 しんみりしかけたところをV字回復とまではいかないが少し立て直した。



 ほどなくして機材を片付け終えた学者たちと共に魔法陣のある部屋を後にし、元いた宿営ポイントに帰着した。

 道中は魔獣に遭遇することもなかった。

 ここで一晩を明かしてから、朝から帰還する予定だ。


 アメリアのことが気になってはいたがカミーユが大丈夫ですと言うのでアンドレスと二人で彼女に任せることにした。


 見張り?

 ここは強い魔獣もいないことが判ったし、魔除けの魔道具を出すことにした。

 カール団長たちが恐縮していたが、そんなに高価なものではないよ?


 かくして我々は天幕の中でそれぞれ眠りについた。

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