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追い駆けて転生 出逢いとDIY  作者: 樹カズマ
第一章 (仮)平穏と始まり
10/23

ある神殿への遠征③

 我々パーティは、護衛および魔法陣の臨床試験の被験者として、第三次神殿調査団に帯同している。

 調査対象の「覚醒の神殿」の一階で予定していた活動を終えて、二階へ続く階段を上っているところだ。


 階段にも燭台の類いはおろか採光できる小窓すら見当たらない。


 こうなると換気が気になる。火系統の魔法は避けておいたほうがいいだろう。

 いや、我々が避けたところで火の息吹を吐く魔獣がいるかもしれない。もし吐かれようものなら優先的に倒す必要があるな、これについてはパーティでも共有しておくことにしよう。


 階段も廊下とほぼ変わらない幅しかない。

 横に二人並べるが、2列で並んでしまうと万一の事態への対応が窮屈になるので1列で約1mずつ間隔をあけて隊列を組んでいる。

 1階から引き続き俺とアメリアが先頭で、アンドレスとカミーユが殿だ。


 尚、この周辺にも植物の蔓が見られるため俺の感覚共有魔法が有効であり、この階段移動中に魔獣と遭遇する可能性が低いことは確認している。カール団長とも情報共有済だ。

 そのうえで周囲に警戒を怠らずに進み、さほど広くない踊り場を通過して二階に辿り着き、そのまま予め決めていたルートに従って進んでいった。



 そろそろマッピングの補完が必要な区域に足を踏み入れる。そのため進行が少々ゆっくりになるだろう。

 更に、同区域内で感覚共有魔法が及ぶ範囲が狭くなってきたことから植物の蔓がそろそろ途切れると思われる。もっとも、本来は感覚共有魔法など無しで冒険することが普通なので問題は少ない。


 魔法陣までの主要通路については前回の調査団がマッピングを完了してくれている。

 我々は少しずつ虫食いになっている区域の補完をすれば良いのだ。


「ノア、このまま行くぞ、いいか」


 アンドレスが後ろから問いかけてきた。

 植物の蔓が減ってきたことに気付き、感覚共有魔法の有効範囲がそろそろ途切れることを見越したのだろう。

 だが我々もそれなりにレベルの高いパーティだ。周囲に残された痕跡や気配だけでもこの神殿には大きな脅威がないことは解っている。

 感覚共有魔法は補助に過ぎない。


「問題ない。アメリアもいいね」


「こちらは問題ないよ。調査団のマッピング、カミーユもお手伝いお願いしていいかな」


「大丈夫です。そのつもりでいてますよ、姉さん」


 カール団長とも隊列維持の確認が出来たところでアメリアがやや先行しだした。

 脚が速く俊敏な彼女は、リーダーでありながら斥候的な役回りを普段から引き受けてくれる。

 人工建築物の中ならアメリア、森など自然の中なら俺、また滅多にないが全周囲警戒しながら強行突破するようなときはアンドレスを先頭にカミーユを守りながら突き進む陣形を組むこともある。


 かくして通常運転で我々は先へ進む。

 次の調査ポイントへ進む途中で分岐して未調査区域である通路へ足を踏み入れた。


 相変わらず採光窓も燭台もないが不思議と明るい。

 しかし気付いたことが一つ。天井が全発光しているのかと思いきや、まばらというか何か法則のある間隔で発光しているようだ。そして光量も均一でなく等間隔でもない。

 そのためか、こちらは等間隔に建てられた石柱の装飾に複雑な陰影を落としている。

 なんというか。

 そう、木洩れ日のような感じを受ける。

 人工的に作られているのに優しく心地よい光だ。


 そんなことを考えていると、先行していたアメリアが左手を拡げて後続を制止してきた。

 静かに引き返してきた彼女が前方右手の曲がり角を指し示し、身振りでメッセージを伝えてきた。


『曲がり角にいる』

『私が行く』

『ノアはサポートしてくれ』


 俺もメッセージを返した。


『解った』

『アメリアが走ったら俺が矢を放つ』

『アメリアは通路の左側を走ってくれ』


 アメリアが頷く。

 傍まで近寄っていたカミーユとカール団長も了解したと頷いて他の者に伝えに戻って行った。


 団員たちは落ち着いている。

 ここまでの我々の対応をみて信頼してくれているようだ。

 浮足立たずに済んでいるのは非常に有り難い。団長の指揮のお陰もあるだろう。


 アメリアと俺も配置についた。


 俺が矢をつがえると同時に、幅4m程度の通路左端に沿ってアメリアが駆け出して行った。


 ちなみに彼女は足音も振動も最小限に抑える魔法を自分にかけてはいるが、標的がこちらに気付いていれば意味はない。


 そこで俺の援護射撃が活きる。

 彼女の右脇およそ2mくらい、所々にある石柱をよければ1mほどの空間をぬって、彼女が標的との遭遇地点に辿り着く直前に曲がり角の天井に着弾させる。

 標的がそちらに気をとられている隙にアメリアが初撃を放つといった流れだ。


 アメリアが中間地点を過ぎた。


 矢をつがえた俺の左右の両手首から先がぼんやり光り、それに呼応して弓の紋様も青白く光り始める。

 その紋様の光が弓の両端まで拡がり、弦も青白い光を蓄え。

 やじりも同じように光を蓄えると共に纏った冷気が白い霧を生み落とし、さらに辺りの空間もキラキラと瞬きだした。

 空気中の水分が凍って微細な氷の粒に変わり宙を漂っているのだ。


 矢を放った。


 鋭い風きり音と共に青白い光の軌跡がアメリアに迫る。

 彼女が一瞬だけ視線をやった右上約30cmの位置をすり抜け、鈍く甲高い音と共に狙い通り曲り角の天井に着弾。

 誰もが天井の石材を突き崩すかと思っていた矢は、着弾の瞬間にその冷気によって瞬く間もなく天井を凍てつかせ、崩落させることなく氷の天井を創り上げた。


 狙い通り標的がそちらに気を取られている間にアメリアが襲撃をかけて浮足立たせ、素早い彼女の2撃目と追い付いた俺とアンドレスによって難なく初手を取ることが出来た。


 アンドレスは大剣は封印し「手甲鉤てっこうかぎ」という武器を使っている。

 4本の刃物が爪のように並んでおり、東洋の国で忍者と呼ばれる者が暗器として使っているそうだ。

 これを両手の手首から甲にかけて装着して使用するので武器というよりは格闘術による肉弾戦に近いのだが、アンドレスは巨躯をものともせず軽やかに駆け回りながら敵を斬り刻む。

 そう、斬り刻んでいる。

 4本の爪を左右で2回振るうと計8本の爪痕を残すわけで、魔獣相手といえど何とも痛々しい。


 俺はそんなアンドレスを横目に片手剣を振るう。

 彼やアメリアには敵わないが俺も剣術は少しばかり鍛えている。魔法が効かない或いは使えない場面で接近戦を強いられることもあるからだ。

 今は狭い建物の中のため広範囲に影響を及ぼす魔法は控えているのだが、仕留めきれずにアンドレスやアメリアのフォローが入るのは許してほしい。



 さて、今回もまた別段の苦労もなかったためこれ以上の描写は割愛させて頂きます。これでも比較的に書いたほうではなかろうかと思っています。



 討伐した標的は中型サイズの鼠といったところか。チュー型魔獣だ。


「皆さん流石ですね、安心感しかありませんね」


 殿をカミーユに守られながら追い付いた学者たちの先頭にいたカール団長から、笑顔と共に労いの言葉を掛けられた。


 えへんと言わんばかりに澄まし顔のアメリア。

 そんな姉の様子を見てマッピングの手を止めて肘で小突く妹のカミーユ。それを微笑ましく眺める父?アンドレス。もう鉄板の光景だ。


 この後はまた暫く戦闘もなく次の調査ポイントに到着。

 前回の第二次神殿調査団が僅かながら宿営資材を残していってくれているため、ここで休憩をしっかりとることになっている。


 神殿に入ってから6時間いや7時間は経ったか。

 屋外の光が入らないので時間の感覚が判りづらいがお腹のすき具合で昼はとっくに過ぎているのは間違いなく、下手したらお茶の時間すら過ぎているかも知れない。


 かくして昼食の準備を始めた。

 王城からこの森まで来る道中で我々の携行装備やカミーユの腕前は披露済だ。

 もちろん見せられる範囲に留まるが、それでも彼らにはすこぶる好評で今回も期待の視線が注がれている。

 カミーユも嫌な顔せずテキパキと仕事をこなしている。

 そんな彼女に気があるのかないのか学者たち特に若手は率先して手伝いを買って出ている。

 おおぅ、アンドレスの視線が彼らに注がれているぞ。

 というか手伝いはいいから君達は調査をしてくれたまえよ。

 ほら団長に注意されてやんの。

 はいはい、散った散った。


 ここを立てば残すは例の魔法陣が祀られた広間を残すのみとなる。

 危険はないようだが今のうちに英気を養っておくに越したことはない。


「ノア、手伝って貰っていいですか?」


「こっちは俺がやっておくからノアはカミーユを手伝ってやってくれ」


「わかった。あとは頼む、アンドレス」


「私もお手伝いさせて下さい」


 アメリアは周囲警戒、アンドレスは食卓準備、俺とカミーユそしてカール団長が食事の準備だ。


 ちょっと大人数でワイワイした感じだ。遊びではないことは解っているが、危険が少ないのであればリラックスしながら従事できることは仕事の精度にも好影響が出るというものだ。



 戦闘シーンに続いて調理シーンも割愛させて頂き、やがて食事の準備が整った。

 これは野営の食事のレベルではないですよと団員たちからお褒めの言葉を頂戴して恐縮しまくるカミーユ。

 そんな彼女にまた若い団員が話しかけているのを睨み付けているのかな、アンドレス。睨まないであげて?


「お腹すいたー」


「アメリア、俺が見張りを代わるから先に食べておけ」


「ありがとー、アンドレス!」


 アンドレスは元より見張りを代わるつもりだったのだろう。

 先ほどの手甲鉤てっこうかぎは既になく、肩で支えながら手に握っているのは彼にしか持てないような2m半ほどの長さの金属製の棍だ。

 さすが武器コレクター。



 そんな1コマもありながら。

 やがて調査も食事も終えて、神殿の奥へ移動することになった。


 また戦闘を1回経て、例によって描写は割愛して、いよいよ魔法陣が祀られた広間へと辿り着いた。




 広間は、この神殿の造りに似つかわしくない荘厳かつ重厚な左右開き扉を抜けた先に存在した。

 扉にはかんぬき錠がついているが前回の調査団が解錠に成功しているため魔道具の合鍵で問題なく開けることが出来た。

 流石に開けっぱなしにはしていないのな。


 扉から足を踏み入れた先は、これまで調査してきた部屋や空間よりは幾分か広く、壁面は他の箇所と同様に鈍い光沢を放つ石板で全面が覆われている。

 また、燭台が広間の壁際に等間隔に設置されており灯も灯っている。

 ここにきて初めての燭台だ。

 しかし光こそ蓄えているが炎ではない。ロウソクの形をした魔道具の先端から僅かに隙間をあけて白い発光体が浮かんでいる。

 魔力の供給源が気になるところだがこの好奇心は暫く封印しておく。


 カール団長の指揮のもと学者たちが予め決められた持ち場に素早く散らばっていった。


 広間は幅と奥行が同寸の正方形状と思われた。というのも広間の中央に円状の段が設けられているからだ。

 直径で7mから8mくらいで他と同じく艶の少ない白い石材製だ。

 段上がりになっているのは15cm程度でここにくるまでにあった階段とそう変わりはない。


 これまでと違うのは、幾何学模様と古代文字がビッシリと描きこまれ、その中に石材とは異なる材質の鉱石が見た感じ5種から6種あしらわれていることだ。


 これは俺は見たことがある。

 魔法陣開発チームで携わった魔法回路そのものである。

 但し規模と精密さでは、こいつは俺の知るそれとはまるっきり比べ物にならないくらい格上だ。ぶっちゃけ理解不能。

 当時あの場に混じって共に開発に携われたのは、魔力が大きいことが主な理由だったのだろうが、それでも今更ながら恥ずかしく思えてくる。


 やがて、団員たちと話して回っていたカール団長が我々に近付いてきた。


「皆さん、我々をここまで安全に導いて下さってありがとうございます」


 そう言うと左胸に右掌を当てて頭を数秒下げて、続けてあとの予定について話しだした。


「私ども第三次神殿調査団の主目的である臨床試験を始めたいのですが、皆さんのご準備は如何でしょうか」


 ついにこのときが来たか。

 被害の類いは発生していないと聞かされてはいるが不安がないわけでない。

 4人みなが互いの顔を見て頷きアメリアが応えた。


「いつでも問題ないよ」


「ありがとうございます。ではザッと説明させて頂きます」


 カール団長から、被験者は一人ずつ祭壇に上がること、試験に要する大よその時間、試験中に受ける多少の負荷などの説明を受けた。


「では準備が整い次第また声を掛けさせて頂きます」


 団員たちの中に戻るカール団長の背中を見送った後、また俺達は周辺警戒に付いたのだった。

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