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保健室

 今は六月半ば。そこまで暑くないのに僕は背中にじんわりと汗をかいているのが分かった。

 僕を見下ろしている彼女はただ僕をじっと見ているだけだ。 

 心の内を見透かそうとするその目が怖くて逃げだしたくなった。


(どうしてここにいるんだっけ)


 確か今日の体育で柔道をして、クラスメイトと練習試合をして、お腹を殴られて。それから痛みが増して。


(あっ、保健の先生に診てもらってたんだ)


 絶対今考えることじゃないのに怖さから今日のことを振り返ってしまっていた。


「まただんまり?」


 昨日、ちょうど今の時間位に聞いたセリフだった。また汗が流れてくる。ここから動けない。相手が何を考えているのか全く読み取れない。

 彼女は僕のネクタイを横にずらしてワイシャツの一番上のボタンを取った。


「ねぇ、これ。誰に付けられたの?」


 親指の腹で撫でられたそこがくすぐったい。

 昨日のことを知っているならこれが誰によってつけられたのか知っているはずなのに、ずるい質問だと思う。ずっと黙っている僕を見て彼女がニッコリ笑った。そして、耳元で小さく呟いた。


「____」


 それだけ言うと彼女は友達を待たせているから、とすぐに部屋を出た。しばらくして保健の先生が担任と一緒に戻ってきた。いつもだったら嫌なその人も今は違うことで頭がいっぱいで幾分か平気だった。



 ・・・



 私は愛華の靴下をもって玄関に向かった。私の方が先に到着したが愛華もすぐ来た。持っていたものを渡して私たちは帰路に就いた。

 学校から駅までは徒歩十分。その間テストのことやスイーツのことなど女子高生らしいことを話していた。


「じゃあね。足、気を付けて」


「うん、ありがとう。また明日ね」


 私は帰りの電車を待っている間、考え事をしていた。


(あの人にとって一番嫌なことは何だろう)


「美人ってどんな風に泣くのかな」



 ・・・


「ただいま」


 今日は母さんが夜勤の日で家には僕一人だった。その方が都合が良かった。怪我のことを母さんに知られては困る。せっかくあの時、病院に行こうと言う先生らを止めたのにバレてしまっては意味がない。

 テーブルにはご飯とお味噌汁と焼き鮭がラップされていたのでそれらをレンジで温めて食べた。お腹も満たされて眠くなってきたので早くお風呂に入り布団に入った。だけど、彼女が言った一言が忘れられなくて熟睡出来なかった。

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