教師
霜月香が準備室を出て行ったあと、私はトラ君と二人きりになった。
「何話したの?」
「いえ、何も…」
「でしょうね、霜月さんを選んだのは正解だったね。あの子あなたに興味なさそうだし。トラ君とられたらイヤだもん」
私は頬を膨らませて言った。
「誰も僕のことなんて見てませんよ」
「あら、私が見てるよ。それにあなたの幼馴染ちゃんもそういう目でトラ君を見てる。」
座っている彼に近づいた。
「高校を卒業したらやっと結婚できるね。周りの目におびえることもなく、堂々とイチャイチャできる」
私は彼の唇に人差し指を当てて言った。
「…」
彼が息を吞むのが分かった。
(あ~なんて可愛らしい生き物なのか。早く自分のものにしたい)
そんな感情が自分の中で日に日に膨らんでいた。
・・・
教師とはなんとつまらない職業なのだろうか。働き始めた頃はやりがいというものがあったのかもしれない。美人だからと女子生徒からは嫌われ、男子生徒からはイヤな目で見られた。男性職員からはセクハラを受けたこともあった。どうして私がこんな目に遭わないといけないの。
もっと違う自分にならなければ。
でも去年の春、冬理虎という生徒に出会って私は変われた。入学式、少し大きいブレザーを着て、緊張しているのが何とも可愛らしい。神様が私に天使を与えたのだと思った。今まで我慢してきたことがすべて報われた気がした。あなた以外には触れたくない。触れられたくない。誰にも触れさせない。
いつしか私は生徒の間でドライな性格で好感が持てる、と人気になっていた。
どれもこれも全部あなたのおかげよ。
それなのにどうして邪魔をするの?薄来朱里、私はあなたが大嫌い。
ある放課後、冬理虎を呼び出した。
「冬理君、何か困ったことがあったら先生に何でも言ってね」
彼を手に入れるためなら私は何だってしよう。
どうして自分に声をかけたのかよく分からない、という顔をした彼に心底惹かれていた。
登場人物
➀霜月香 ②冬理虎 ③上西汐 ④森愛華