ゴミ捨て
先生から同じ班になった、と聞いたときはとても驚いた。今、彼女と同じ班になるのはとてもまずいんじゃないかと思った。でも何も知らない先生は言った。
「よかったね、冬理君。霜月さんの班ならあなたを任せそうね」
先生がどういう意味で言ったのかはなんとなく想像ができた。先生は自分以外の女性に対してよく嫉妬をした。今の発言からして僕に興味を持っていない人と同じ班にしたかったのだと思う。きっと班決めを自由にしたのは僕が余ってしまうことが分かっているからだ。まんまとその状況になったが正直そんなことはどうでもいい。今、霜月さんと同じ班になったら僕も先生もどうなるか分からない。僕はとてつもない不安に襲われていた。
「それじゃあ、皆さん。当日はほとんどが班行動ですから、仲良くしてくださいね」
先生がそう言うと同時にチャイムが鳴った。
・・・
「愛華、私今日ゴミ出し行かないといけないからちょっと待っててくれない?」
「うん分かった。じゃあ玄関辺りで待っとく!」
掃除を終わらせた私はクラスのごみをまとめてゴミ捨て置き場の方へ向かった。
この学校のゴミ捨て置き場は駐輪場の前にある。私は自転車通学ではないから少し遠回りで、正直面倒くさい。
(はあ、数日でこんなにも重たくなるのか)
心の中でずっと文句を言っているとちょうどゴミ捨て置き場の前に冬理虎と思わしき人物がいた。
「あれ、冬理君?こんなところで何してるの?」
彼は背後から声をかけられたからなのか、声をかけたのが私だからだったのか、体を大きく震わせた。
「いや、あの、靴がこの中にあって…」
「靴?誰かに捨てられたの?私も一緒に探してあげよっか?」
私の言葉に彼は戸惑っているようだった。明らかに私を不安そうに見つめていた。
(そんなに怯えるなよ。私が怖い人みたいになるじゃん)
彼は首を小さく横に振った。私は話題を変えようと薄来さんの名前を出した。
「そういえば今、一人?いつも薄来さんといるみたいだけど」
「あ、いや、今日掃除当番でまだ教室にいます」
「なるほど」
二人の間に暫く沈黙が流れた。最初にそれを破ったのは私だ。
「あっ、そういえば連絡先交換しよう。校外学習のライングループ招待するから」
私たちはお互いにスマホを取り出し連絡先を交換した。彼のアイコンは初期設定のままで名前はフルネームで登録されていた。思った通りの設定だ。
「これでグループに参加できるはず。一応説明しておくと…」
私は誰がどのアイコンなのかを説明をしてあげた。彼はただ黙って私の話を聞いた。
(冬理君と話せる機会なんてなかなかないからな、今言っておくか)
先生を泣かせるにはどうしても冬理君の協力が必要だった。だから一つ頼みたいことがあった。
「あのさ、ひとつお願いがあるんだけどいい?先生と二人っきりになったらばれないように録音しておいてくれない?それがあれば冬理君を自由にしてあげられるよ」
「…もし断ったら?」
「そうだなあ。私はただ先生を泣かせたいだけでぶっちゃけ冬理君がどうなろうと知ったこっちゃないんだよね。一緒に地獄行きたい?もし冬理君が行きたいなら全然断ってもいいよ?むしろそっちの方が面白そうだし!」
「…それはいやです。僕は…先生のことが好きではないから」
「よかった~!それじゃあよろしくね。じゃあね冬理君」
私はそう言いながら彼の頭についていた埃を取ってあげた。彼はなぜか少し頬を赤く染めた。
(君に拒否権なんてあるわけないでしょ)