木曜日
「あっ、お弁当忘れた。」
私は家を出て五分くらいの所でお弁当を持っていないことに気が付いた。電車を一本遅らせようと思い、愛華に先に行くように連絡をして、今来た道を戻った。
いつもと違う時間の電車は人が多くて少し気分が悪くなった。
(一本遅いだけでここまで違うのか)
次からは気を付けようと思いながら門を通った。すると駐輪場で何やら揉めているのが目に見えた。電車通学の私にはあまりなじみのない場所であったが、少し気になったのでそこへ向かった。
「ごめんなさい。今日はこれだけしかないです」
そこには男子生徒に囲まれる冬理虎の姿があった。
(こんなところでいじめられてたんだ。どうりで今まで気づかなかったわけだ)
どうやらお金を要求されている様子だった。胸ぐらをつかまれて殴られても、彼はただ謝るばかりで言い返さない。
(可哀想な人)
私は他人事だと思ってその場を離れた。なぜか分からないが可哀想な彼を見て、なんだか懐かしく思った。
・・・
二時間目の休み時間に私は今朝見たことを愛華に話してみた。愛華が言うには駐輪場は教師がいることはほとんどないし、いじめっ子にとっては良いスポットだろう、と。そんなスポットが学校にあってはダメなのでは、と心の中でついツッコんでしまった。
「ていうか、来週の校外学習の班決め今日じゃない?」
「あ~そういえばそうだったかな。五時間目だっけ?」
「うん。同じ班だといいけど。班決めってどうやってやるんだろうね」
「さあ?」
愛華はどの班でも上手く馴染めるだろう。私も上手くやってはいけるだろうが、ただひたすら行きたくない。半日以上も気の知れない誰かに気を遣わなければならないのが凄く大変である。
「行くところってお寺でしょ?」
「うん」
「はあ、あんまり楽しくなさそう」
愛華がため息をついて言った。愛華は私よりも積極的に学校行事に参加するのだが今回はあまり気乗りしないらしい。気持ちは凄く分かるが、悩んでいてもどうせ私たちは参加するだろう。
「あ、校外学習って全クラス一緒の日だよね?」
私は愛華に確認するように聞いた。
「そうだよ。それがどうかした?」
「いや、聞いただけだよ」
そう言うと愛華は不思議そうにした。
(これは薄来さんのことを調べるチャンス!上手くいくかどうかはわかんないけど)
私はほんの少し期待をした。