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異世界転生を拒んだので現実世界に戻されました

作者: 浅賀久瑠

「ようこそ、死後の世界へ」


 真っ暗な暗闇の中、幼女はそう言い放った。コスプレのようなドレスを身にまとい、玉座の椅子にふんぞり返る小さな幼女。後ろ髪を翻し、ありもしない胸を堂々と張り上げる。


「君は?」

「わしは神じゃ。お主に生き返るチャンスをやろう」


 だいぶ頭の中がおかしいようだ。フリフリな外見だけでなく、中身までとろとろに溶けている。中二病でさえも自分を神だという人はなかなかいない。自尊心が高くて、痛いけな幼女だ。

 思わず言葉を失うと自称神はくすくすと笑い始める。


「お主、まさか見惚れておるのか。まぁ無理もないか。ふふっ」


 誰がこんな幼女に欲情すると言うのだろうか。発育前の男の子と大して変わらない姿だ。僕の妹の方がもう少し女の子っぽいぞ。それでも幼女はなかなかにご機嫌な様子だ。単純というか自意識が高い。そして、幼女はまたもや痛い言葉を発する。


「お主、勇者となって魔王を倒し、世界を救ってはみぬか」


 いよいよ、本当に頭がおかしくなってきたようだ。これはもしや俗に言う異世界転生というやつなのだろうか。


「どうじゃ?」

「嫌だけど」

「へ?」


 だが、答えはノー。素で驚かれても困る。どうして、僕が首を縦に振ると思ったのだろうか。


「な、なぜじゃ。日本男児なら誰もが憧れるシチュエーションではないか?」

「嫌だよ。僕は暴力行為とか好きじゃないし、平和主義者だからね。そもそも今の時代に暴力で解決するとかどうかと思うよ」

「確かにそれはお主の言う通りじゃの……」

「そうそう、それに痛いのは嫌だからね」

「それは問題ないぞ。ちゃんとチートスキルはつけてやるからな」


 異世界転生の定番のチートスキル。序盤から伝説の武器や魔法で無双する例のあれか。


「でもさ、それつまんなくない? ヌルゲー過ぎて、人生に飽きちゃうよ。別に僕は優越感に浸りわけじゃないし」


 加えて結局、勇者という存在は都合のいい道具扱いにしかされない気がする。何かトラブルが発生すればそれを解決して万々歳。そこに私欲は発生してはいけないし、ボランティア精神が求められる。僕はそこまでできた人間ではないし、都合のいい人間にはなりたくない。


「そ、そうかなら学園ハーレム主人公はどうじゃ? ハーレムは男のロマンじゃからな」


 学園ハーレム主人公。うん、悪くない。沢山の女の子に囲まれて青春を謳歌するのも良い気がする。ハーレム主人公には定番のラッキースケベがある。登校中に突然、可愛い女の子と出会って運命的な出会いをしたり、ふと誰もいないはずの空き教室のドアを開けたら、そこに着替え中の女の子がいることなんて日常茶飯事だ。それにベッドの上で起きてみたら知らない女の子が寝ていたり、不可抗力で女の子を押し倒して胸を触ってしまうことだって当然ある。あわよくばキスさえも。


 ツンデレ系ツインテールヒロインに「別にあんたのせいじゃないんだからね」って言われて、時にはツインテールで頬を殴ってほしい。ドエロい先輩が実はめっちゃウブで恥ずかしがる表情も見てみたい。妹系後輩にだって腕を掴まれて「先輩♡」って頼られたい。そして何より正統派の清楚系ヒロインとエッチなことがしたい!


「お主、良からぬ妄想をしておらぬか」


 どうやら自分の世界に入りすぎて周りが見えなくなっていたようだ。目の前では幼女がブタを見るような目でこちらを見ていた。


「ハーレム主人公は僕にとっても夢ではある。だが、断る」

「なぜじゃ!?」

「ハーレム主人公は例え誰か一人を選んだとしても、誰かは傷つくし、全員が幸せになるわけじゃないからな。男どもからの恨みに満ちた視線を僕は耐えられる気がしないし、それに嫉妬に溺れたヤンデレヒロインに刺されるというバットエンドが待っている」

「お主からすればヤンデレヒロインに殺されるのは本望ではないのか?」

「あたりまえだろ」

「そこは否定せぬか。真顔で言うでない」


 ヤンデレヒロインの何が悪いのか。重すぎるとか言う人間もいるけれど、裏を返せば嫉妬に溺れるほどの愛を持っているということだ。健気な女の子と何ら変わりない。例え度が過ぎて、身体を縛られ、監禁生活を送らされようとも僕にとってそこはヒロインと二人だけの空間になれる場所だ。誰にも邪魔されることなく好きな女の子と二人きりになれる、最高ではないか。好きな子に殺されることは幸福以外の何物でもない。

 だがこれ以上言うと、僕の沽券に関わりそうなので何も言わない。


「なら仕方ない。ハーレム主人公がダメなら、のんびりとした田舎でスローライフを楽しむのがお主にとってはベストなのかもしれぬな」

「それも嫌だけど。だって僕、虫触れないから」


 都会育ちの僕に農作業ができるとでも。虫だって苦手だし、畑の土いじりなんてほとんどしたことがない。それに異世界の田舎町って必ずって言っていいほど自給自足だし、隣の家が数百メートル先って話もなくはない。

 我慢できずにいたのか、幼女はついに痺れを切らした。


「貴様、さっきから文句ばかりではないか!」

「別に僕は何も悪くないでしょ。そっちが急に神とか言って転生しないか、とか言い出したんだろ」

「貴様、わしを馬鹿にしておるな! わしは崇高なる神じゃ。貴様より何倍も長生きしておるわい」


 小さな体で幼女神はぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。その態度はどうみても子供にしか見えない。


「じゃあ、ロリババァだね。そんな格好して恥ずかしくないの?」

「ロリババァ言うな! これは神聖を帯びた立派な正装じゃ! もういいわ、貴様はもう一度、元いた世界に戻ってやり直し来るがよい。数十年後に死んで、会ったとしてももう遅いからな」

「ちょっ、待っ……」


 幼女が手の平を向けると風のようなものが勢いよく吹き上げ、意識が遠のいて行った。


 それからすぐに意識は戻った。まるで夢のような出来事だったが、目の前は木のような板で覆われ暗くて何も見えない。どこかの狭い場所にでも閉じ込められている気がする。腕を動かせばすぐに壁のようなものに当たった。それに妙に周りが熱い。


「あっ、これ棺桶の中だ」


 それも絶賛焼却中。箱の外が燃え始め、枠を突き破り、炎が燃え広がる。


「死んだわ、まぁいいか」


 それから目を閉じて、再び目を開けると目の前にはコスプレのような恰好をした幼女。相変わらず玉座の椅子に座っているが、何やら幽霊を見たような驚きの顔をしている。まぁ、実際幽霊みたいなものだけど。

 一体、今どんな気持ちをしているのだろうか。


「やぁ、今ぶりだね」

「もう、最悪じゃ……」


 読んで下さったからありがとうございます。異世界転生にまつわる超短編ストーリーでした。

少しでも面白いと感じて下さった方は評価の方よろしくお願いします。

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