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夜の灯火  作者: 隠居 彼方
第8楽章
88/135

春涙 5



「ディルクも、別邸ですか?」

既にブランシュ領である。

駅から外へ足を踏み出したテアは、隣に立つディルクを仰いだ。

彼女が確認したのは、ディルクがブランシュ家の本邸へ向かうのか別邸へ向かうのか、ということである。

当主のモーリッツやその弟子たちが普段使用しているのが本邸、ローゼやテアが使っているのが別邸だ。

ここ数年ローゼはモーリッツの仕事を手伝う機会を増やしていて、本邸で寝泊まりする回数も増えてきているが、基本彼女は別邸の主で、その客であるライナルトも別邸にいるはずである。

「ああ、別邸にと聞いているが……。お前は?」

「はい、私も別邸の方に。では今度は、私が案内しますね」

微笑むテアに、よろしく頼む、とディルクは頷いた。

過去に二、三度本邸を訪れたことのあるディルクだったが、それも遠い記憶の中だ。

別邸に至っては向かうのはこれが初めてで、歩き出したテアに従った。

本来なら先に本邸に赴いてモーリッツに挨拶するところなのだろうが、ローゼからは別邸にと聞いているし、聞いた話の通りなら、モーリッツも別邸の方へ来ているはずだ。

「少し歩きますが、馬車を使うほどではないので……」

天気も良く、散歩日和である。

心地良い風に吹かれながら歩くのは気持ちの良いもので、徒歩で行くことに異存はないディルクだったが、少しだけ不思議に思って問いかけていた。

「ローゼのことだから、迎えでも寄こしそうだと思っていたが……」

「……はい」

困ったように、テアは頷く。

「馬車を、と言われました。自分はいらないと言い張るのに、私が一人で帰るとなると過保護なんですから……。帰るのはこんな昼間ですし、ブランシュ領で滅多なことは起こらないから、と引き下がってもらいました」

「モーリッツ卿のお膝元ではな……」

問答の様子が想像できてしまって、ディルクは苦笑した。

だが、ディルクもこうして今テアの隣にいるからこそ落ち着いていられるが、もしテアが一人きりで帰っていたらローゼと同じようにしたのではないかと思い、その過保護をあまり笑えない。

そんな会話をしながら、二人は人の少ない場所を歩いた。

人の多い場所が苦手であり、あまり他人に姿を見られたくないテアは、店の集まる大通りを避けて、緑が美しい横道を選んでいる。

二十分足らず歩いたところで、ブランシュ家の別邸は見えてきた。

別邸は、小高い丘と小さな森に囲まれるような位置にあって、賑やかな商店街や住宅街とも少し離れている。

見慣れた、けれど数ヶ月ぶりに見る邸の姿に、テアの胸中にいくつかの感情が湧き合がった。

だがそれを表に出さず、門扉に近付いた彼女に、邸の中から駆けよってくる影が一つ。

「テア!」

「ローゼ?」

扉を開けてもらう前から、わざわざ邸の主が出てくる。

普通なら他の使用人が出てくるところなのだがと、それに不審を覚えながら、テアは律儀に言った。

「ただいま帰りました……、?」

「はい、お帰りなさい。何事もなかったみたいで、良かったです。ディルクも、お疲れ様です」

含みのありすぎる笑顔に、ディルクはとりあえず頷いておいた。

「それで、なんですけど、今ちょっと大掃除中なんです」

「え?」

二人を中に入れまいとするように立ちはだかったローゼに、テアは目をぱちくりとさせる。

「もう少しで終わるところですから、テア、先にカティアさんのところに挨拶してきたらどうでしょう?」

「え……、ですが、その、お手伝いしますよ?」

「いいんです、テアは疲れているでしょう? あとちょっとで済みますから。それに、テアに手伝ってもらったらディルクを相手する人がいなくなりますからね」

「俺は子ども扱いか?」

「いいえ、大切なお客様ですよ」

しゃあしゃあとローゼは言った。

「お客様を退屈させるのも掃除を手伝わせるのも本意ではありませんから。この辺りを散策するなりなんなりして、時間を潰して来てください。その間にお迎えする準備を万全にしておきます」

にっこりと言ったローゼに、了解だと、ディルクは目で示す。

ディルクを客扱いしているようでいて、その実ローゼが本日のゲストと考えているのはテアの方だ。

もう少しでサプライズパーティの準備ができるから、それまでテアと一緒に待て、という指令らしい。

「では、荷物は預かっておきますから。行ってらっしゃい」

見事な手腕で、ローゼはテアとディルクを邸に入れることなく送り出す。

背中を押して手を振るローゼに逆らえないまま、しばらく二人は歩を進め、少し離れて一度立ち止まった。

振り向けば、いつの間にかローゼは邸の中に姿を消している。

「……一体どうしたんでしょう、こんな時期に大掃除なんて……」

大掃除という言い訳を本気で真に受けているわけではないのだろうが、誕生日のことは本当に分かっていないらしく、テアは腑に落ちない表情だ。

「もしかして、ライナルトまで巻き込んでいるんでしょうか……」

「あいつのことは気にしなくてもいいさ。こき使われているなら身内も同然と考えてくれているということだろう。むしろ喜んでいるんじゃないか?」

「はあ……」

それならいいのだが、とテアは曖昧に頷いた。

「ですが、ディルクも用があるんですよね。後でも大丈夫なのですか?」

「ああ、大丈夫だ。……だが、どう時間を潰そうか」

「そうですね。ディルクはどこか行っておきたいところとか、あります?」

「そうだな……」

ディルクは少し考えるそぶりを見せた。

あまり街には行きたくないのだが、とテアは思いながらその返答を待つ。

長年ブランシュ領で匿われてきたテアだが、その間ほとんど外には出なかった。

外出と言って行くのは人が近付かない小さな森の中や丘の方で、稀に商店街の方へ行く時は顔を見せないように気をつけていたものである。

今はその時とはまた状況が違うし、学院では顔をさらしているが、それでもまだ警戒を解く気になれないのだった。

「……ローゼの言うとおりにしようか」

「え?」

「カティアさんに――と俺も呼んでいいのかな――、挨拶をしに行くのだろう? お前が嫌でなければ、同行したいのだが」

その申し出に、ぎしりと固まってしまったテアである。

嫌なわけではない。むしろテアも母にディルクを紹介したいと思っていた。だが、心の準備ができていたかというと、そうでもないのだ。

どうしてと思うくらいに緊張を覚えるが、断る理由も浮かばず、テアは何とか頷いた。

「……はい、では、行きましょう、か」

ぎこちなく先導を務め始めたテアに、ディルクが続く。

別に恋人や結婚相手を紹介するわけでもないのに、と動機を抑えるように胸に手を当てて、テアは自身を叩きたくなった。

そんな風に考えてしまえば、ますます墓穴を掘るようなもので、意図せず顔が熱くなる。

――余計なことは考えまい……。

テアは努めて平静を装うことにして、丘の方へ足を向けたのだった。




「美しいところだな」

「ええ、」

なだらかな丘の上、ほっそりとした木々が立ち並ぶ中に、白い墓標は立っていた。

「母はここからの眺めが好きで……、モーリッツさんの厚意で、この場所に」

目を細め、見下せる景色を一望したテアは、そっと墓の前にしゃがんだ。

「――ただいま帰りました。お母さん」

その穏やかで優しい表情に、ディルクはどきりとする。

テアはそれ以上何も言わず、けれど心の中で彼女が母に語りかけているのは分かりすぎるほどに分かって、ディルクも口には出さずに、ただ深く頭を下げる。

緊張をしているのはディルクも同じで、テアの母親を前に、背筋が常よりもぴんと伸びている。

挨拶をしたいと口にした時、テアの態度がぎこちなくて、やはり水入らずが良かったのだろうかと思ったが、それでも来ておきたかったのだ。

自己満足だと分かってはいるが、それでも。

伝えておきたかった。

テアがとても大切なのだと。

きっと守ってみせると。

心の中で自己紹介をして、ディルクはテアを見つめる。

彼女は一体ディルクをどんな風に紹介してくれているのかと思って、苦笑した。

ディルクとテアは、学院でのパートナーであり、先輩後輩の関係だ。それ以上でもそれ以下でもないものを、それ以外の、それ以上の言葉で説明して欲しいと思うのは、欲張りだろうか。

――少なくとも今は望むべくもない、か……。

自嘲しそうになるが、ここでそういう顔はすまい、とディルクは居住まいを正す。

さわさわと、風に揺れる木々が立てる音は優しく、何となく受け入れられた気がして、ディルクは少し肩の力を抜いた。

改めて周囲を見渡せば、付近は綺麗に整えられている。おそらく、邸の者が定期的に手入れをしているのだろう。

モーリッツや使用人たちは、テアを、テアの母親を大事にしているのだということがそれだけで伝わってきたような気がして、ディルクはふと微笑んだ。

見下ろす景色も、青空の下で清々しい。

いつまでもここにいられそうな雰囲気だと思う。

「今度はここで、ヴァイオリンを演奏してみたいものだな……」

ふと漏れた呟きに、テアが反応して立ち上がる。

「ヴァイオリン! ああ、持ってきてもらえば良かったです……」

がっかりと肩を落とすテアに、ディルクは少しばかり目を丸くした。

先ほど荷物と一緒にヴァイオリンもローゼに預けてしまっていたのだが、こんなにも残念がられるとは思わなかったのだ。

「……カティアさんは、そんなに音楽が好きだったのか?」

「はい。自分で歌うのも、他の人の演奏を聞くのも、どちらも大好きでしたよ。多分今ディルクがヴァイオリンを持っていたら、これでもかというくらいはしゃいで聞かせて欲しいと言っていたと思います」

普段のテアの様子から、カティアについてどちらかと言えば大人しそうな女性を想像していたのだが、テアの口ぶりからするとそうでもないようだ。

――音楽に過剰反応するところは似たもの親子なのかな……。

などと思いつつ、それなら、とディルクは告げる。

「明日、出発前にもまた来ていいか? この機会を逃すと次いつ来られるか分からないし、俺もここで演奏してみたいと思うのだが……」

「それは、すごく、私も嬉しいですけど……」

そう、テアはディルクに気遣うような視線をくれる。

遠慮と労わりの眼差しに、心配を払拭するようにディルクは笑って、「では明日」と約束した。

「……ありがとうございます」

きっと母も喜んでいる、とテアは微笑んで礼を言う。

「でも、ただ、できることなら……」

一瞬、気が緩んだ、のだろうか。

テアの口から、彼女が口に出すつもりのなかった一言が漏れた。

「直接、会って聴いてもらいたかったです……」

それは、当然の願いだっただろう。

けれどテアははっとして、自分の口を押さえた。

「……っ」

「テア?」

動揺を見せたテアに、ディルクは彼女の名を呼ぶ。

まずい、とテアは思い、まるで隠すように顔を逸らすと早口に告げた。

「あの、ディルク、少しだけここで待っていていただけますか。すぐに戻ってきますから……」

「テア……!?」

突然に、テアは踵を返して走り出した。

待っていて欲しいと言われたものの、彼女の態度の変化が気掛かりで、ディルクは躊躇う。

そんなディルクを後押しするように、風が背中から吹き付けて、次の瞬間には、ディルクはテアを追って走り出していた。






失敗した、とテアは思った。

先ほどの場所から少し下ったところで、木々の中、身を隠すように立ち止まったテアは、片手の甲で目元を覆う。

その手の下から、堪え切れなくなった涙が、頬を伝い流れ落ちた。

――こんなこと、くらいで……。

自嘲気味に、思う。

思い知っていたはずではないのか。

母がもういない、ということは。

それなのに、その存在の不在を自分自身で口にするだけで、こんなにも揺らいでしまうなんて。

叶わない願いを口にするだけのことが、こんなにもつらいなんて。

いや、とテアは嗚咽を堪えながら、思う。

現実として分かっているからこそ、つらいのだ。

それでも、普段であればまだ、抑え込める。

けれどこの季節は、駄目なのだ。

喪失を、鮮明に思い出させるから。

失われていく手のひらの温度を。

何度呼んでも瞳の開かれない、白い顔を。

最期の言葉を。

『――愛してるわ……』

最期の微笑みを。

『――テアが生まれてきてくれて、本当に良かった』

思い出す。

『こんな風に柔らかくて温かい陽ざしの日だった……。春の匂いが、まるで祝福するみたいで。そう、まるでこんな日だった。本当に嬉しかったわ……だって、そんなに長く生きられないって言われてきて、子どもなんて望むべくもなかったから……。だけど、テアは、ここに生まれてきてくれた。そして、私に笑いかけてくれた。だから私、こんなに生きられたの。きっと、テアがいなかったら、こんなに生きられなかった。本当にね、あの時のあのちっちゃなテアがもう十六だなんて、信じられない。こんなに幸せな人生、信じられないわ。ねえ、テア。本当にありがとう。愛してるわ』

毎年、母はテアにその言葉をくれた。

二年前のあの年も、そうだった。

『今日が人生で最高の日よ』

そう言って、くれていたのに……。

まるで安心したように、満足したように、穏やかに母はそう言って、冷たくなって。

あの日が来なければと、呪った。

生まれた日、そんな日が来なければ、今でも母は笑ってくれた?

楽しそうにピアノを聴いてくれた?

――お母さん、お母さん、お母さん、

まるで時が戻ったように、生々しく当時の感情がよみがえって、幼子のように呼んでしまう。

もう、返事は返ってこないのに。

泣いても、それをぬぐってくれる手はもうないのに。

そう、思って。

テアは何とか、涙を封じようとする。

――早く、ディルクのところに戻らなくては。

また心配をかけてしまう……。

だから、早く、止まれ、と。

命じるように思った、その時だった。

不意に。

テアは、知っているぬくもりに、包まれていた。

「……っ」

「――すまない。俺が、放っておけなくて、」

「ディ、ル、」

その腕は、とても温かいもので満ちているようで。

だから、振りほどけなかった。

「無理をするな。……こうしていれば、見えないから。だから、」

ひとりで、泣くな、と囁かれて。

あまりにも優しすぎるそれに、テアの堰は決壊した。
















「――もうそろそろ、掃除も終わりましたよね」

照れくさそうに笑って、テアはディルクの前を歩いていく。

その足取りがまるで急ぐように早足なのは、恥ずかしいとかいたたまれないとか、そういう心情の表れなのだろう。

真っ赤になっている彼女の耳に、その心がありありと読み取れるようで、ディルクは少し、笑う。

けれど、少しはすっきりしたのだろうか。

テアの、どこか張り詰めていたような空気が和らいでいるのを感じて、ディルクは安堵を覚える。

先刻まで、ディルクの腕の中で涙を流していた彼女は、少しでもその滴を、嗚咽を抑えようとしていて、それがひどく、痛々しかった。

ひとりの時でさえそうして泣いているのだろう、彼女が寂しくも悲しくも、感じて。

けれど同時に、そんな不器用な彼女を、とても、愛しくも思うのだ。

『二年前のこの季節、だったんです。母が亡くなったのは。だから、でしょうか、駄目みたいです……、思い出してしまって、不安定に、なってしまうみたいで。すみません、みっともないところをお見せしてしまいました』

もう大丈夫です、と微笑んでみせたテアは、先程、ディルクに向かってそう言った。

だからか、とディルクは腑に落ちたような気持ちになったものである。

テアが誕生日のことを意識しない――したくないように見えるのは。

彼女が誕生日を好きではないと、ローゼがそう評したのは。

母親の死が、あるからなのではないか、と。

ここ最近のテアが、顔を曇らせることが多かったのも、母親のことを思いわずらっていたからなのだろう。

それは、それだけ、テアにとって母親の存在が大きかったということの証だ。

それをおかしいと、ディルクは思わなかった。

普段から落ち着いた態度で、大人びた様子の彼女であるが、誕生日を迎えて十八になるという若さなのだ。

何よりも、ずっと母一人子一人で苦労してきたのならば、その絆はどれほどのものだったのか。

その絆を、ディルクは羨ましいと感じる。

彼には最早持つことは叶わない、それを。

そして、テアの心を大きく占めるカティアを羨ましいと思う。

いつかは、自分も彼女にとってこれほどまでに切り離せない存在になりたいと……。

「……?」

邸に近付いてきたところで、ふとテアの足が止まる。

怪訝そうな顔で彼女が首を傾げたのは、門扉が開かれているからだ。

しかし、近くには誰もいない。

「どうしたんでしょうか、一体……」

「用意は整った、ということなんだろうな」

「え?」

「行こう」

不思議そうなテアの背にそっと手のひらを添えて、ディルクは彼女を促した。

「あの、ディルク……?」

「大丈夫だよ、中で皆待っているから」

「皆……、って、何かご存じなんですか?」

「行けば分かるよ」

意味深に笑うディルクは、門扉に先ほどはなかった飾りつけがされているのを見た。

さらにそこから、まるで道を示すように色とりどりの花が置かれている。

「綺麗……です、けど……」

戸惑うテアは、ここまで来てまだ気付かないようで、ディルクの笑いを誘う。

思わず笑ってしまうと、責めるように上目遣いで睨まれてしまった。

ディルクは笑いながらも謝り、テアと共に花で彩られた廊下を進む。

ディルクにとって初めての邸であったが、そのおかげで迷わずに目的の場所へ辿りついた。

大きな扉の前で、花が途切れているのだ。

「ここに、ということですよね?」

「そうだな」

頷いて、ディルクは扉を念のため、ノックする。

この扉を開けた時、テアが笑顔になればいいと、それを願ってディルクは微笑んだ。

「テア」

「はい」

「誕生日、おめでとう」

「……!」

息をのんだテアの前で、ディルクは扉を開け放つ。

次の瞬間、祝福の花が、二人に降り注いだ。

「テア、誕生日おめでとうございます!」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

そして次々とかけられる言葉に、茫然とテアは立ち尽くした。

この部屋が普段食堂として使用されていることを、彼女は知っている。

その場所に今集まっているのは、ローゼにライナルト、モーリッツ、別邸の使用人たち、それに、ロベルトやアロイスの顔まで揃っていて、驚きのあまり言葉も出ない。

部屋の中も誕生日祝いにふさわしい飾り付けで、テーブルには数々の馳走が並ぶ。

ようやく事の次第を呑み込めてきたテアは、目を丸くして皆の顔を見渡し、最後にディルクを見上げた。

その瞳は先ほどの余韻を残してか、それとも違う理由からか、ほんのわずか潤んでいて。

けれどどこか躊躇う様子なのを察して、ディルクはテアの肩に手を回した。

それに勇気づけられるようにして、テアは、温かい人たちの輪に入っていく。

「――ありがとう、ございます」

そう告げた彼女は確かに、誰もが望んでいた笑顔を浮かべていた――。




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