聖夜 12
それから度々、ディルクはライナルトのもとを訪れるようになった。
毎度のことながら、下男の格好で、である。
ライナルトもその内に、ディルクがここの手伝いに来た場合は自分のところへ寄こせと言いつけたくらいである。
離宮を監督する女官は、ライナルトの命令に驚きながらも喜んで頷いた。身分のこともあってなかなか友人のできない彼が誰かを気に入る、というのは良いことであると思ったのだ。ディルクは年頃もライナルトと近しく見えたし、年齢の割に落ち着いた雰囲気があったので、それが彼女の目に適った、というのもあるだろう。
何より、下男の格好をしていても、滲み出る気品のようなものがディルクにはあった。それでも、格好だけでなく振る舞いもそれらしいもので、ディルクは特に怪しまれることなく下働きの者たちに混ざっていたのだ。
しかし、怪しまれない格好と振る舞いであっても、下働きの人間が第二皇子という身分の相手まで近付くのは簡単なことではない。
どうやってディルクはここに来られたのかという疑問を、ライナルトは率直に尋ねたことがあった。
「以前からこの格好で宮殿の下働きをしていたからな。少しくらいならと任せる気になってもらえたのだろう。ここにも時々手伝いに来ていたし……。さすがにお前の近くにはなかなか行けなかったが、最初の時は、『一度でいいから殿下のご尊顔を近くで拝見してみたい』としおらしくお願いして任せてもらったんだ」
ライナルトの疑問にディルクはけろりとして答えたが、ライナルトは更に良く分からなくなった。
「……何故下働きなど? 大体、いくらもともと宮殿で生活していると言っても、勤めるのであればそれなりの手続きがいるだろう。変装しただけでどうなるものでもない。一体どうやってもぐりこんだ?」
「働き始めるのは簡単だった。陛下に許可を頂いたんだ。そうしようと思ったのは、同じような毎日から脱却したいと思ったのと……、色々なことが知りたかったから、かな」
「父上に?」
ライナルトは訝しく呟いた。皇帝は軽々しく秩序を乱すことを好むような人間ではない。いくら息子が請うてきたからと言って、相当の理由でなければ許可など出さなかっただろう。ディルクは身分違いの行動の理由を簡単に告げたが、もっと他にも理由があるはずだとライナルトは思った。
「それで、知りたかったことというのは、知れたのか」
「そうだな……、少しは。だが、知る度に俺はこんな閉じられた宮殿ではなく、もっと外の世界を見てみたいと、そう思うんだ」
外の世界。
ライナルトはこれまで、そこに大きな興味を抱いたことはなかった。
外に広がる世界に関しての知識はもちろんあったけれども、基本的に彼は宮殿から出ることがなかったし、自らの未来への期待も失いつつあったライナルトにとってみれば、それはその他多くのどうでもいいことの中に埋没していたのだ。
だが、ディルクの憧れるような言葉に、ライナルトも外の世界に関して少しではあるが、興味を持った。
母親が悲嘆にくれる毎日を過ごすこの小さな離宮から出ていくことができたなら、自分も違った人生を送れるかもしれない。皇子として、国や政治の道具になるだけではなく、もっと他のことができるのかもしれない。
けれど、皇族に生まれた以上、その義務を放棄することはできないだろう……。
そうしてだんだんと、ライナルトはディルクに打ち解けるようになった。
二人の距離を縮めた最初のきっかけは二人で演奏をしてみたいというディルクの思いだったが、会う度に演奏をしていたわけではない。
同時期に同じような本を読んだことが分かればそれに関して議論を深めたりして共に過ごす時間を終えることもあったし、他愛もない話であっと言う間に時間が過ぎてしまうことも多かった。稽古で剣を交えることも少なからずあった。
その内、ディルクに引っ張られてライナルトも隠し通路へ冒険に行ったり、部屋から出て会うことも増えてきた。
この時からライナルトはディルクの行動力に舌を巻き、そして憧れていたものである。
ほとんどディルクのことを知らなかった頃のライナルトは、むしろディルクのことを嫌っていたというのに。
不思議なものだと思いながら、その憧憬の念はライナルトにとって不快なものではなかった。
そして、そんな日々を過ごしていた、ある夏の日のことだ。
「ライナルト、明日、城下で祭があるんだ。お前が良ければ、だが、ここを抜け出して、二人で出掛けてみないか」
それは、供も連れずに、こっそりと、という意味だった。
皇族が大っぴらに祭に参加するということになれば、護衛やら何やらの手配が必要となるし、自由に動くこともままならない。それではつまらないから、身分を隠して楽しもうというのがディルクの思いだ。
ライナルトも、ディルクから今までに街の暮らしについて多々聞いていて、一度くらい自分の目で外を見てみたいと思っていた。皇族としての義務とは関係なく、ただ純粋に、市井の人々の中に入ってみたかった。
けれど同時に、ライナルトは抵抗を覚える。
フォン・シーレという姓を持つ彼にとって、ディルクの誘いに乗ることはあまりにも軽はずみなことだ。
それは本来、ディルクも同じはずなのだが、どうして彼はこうもライナルトの目の前にある壁を軽々と越えていこうとするのだろうか。
「あまり遅くならなければ、問題ないだろう。俺も一人で行くばかりではつまらないからな。お前が来てくれればいつもより楽しめるんじゃないかと思ったんだ。どうだ?」
魅力的なディルクの言葉に心を揺らしていたライナルトは、ディルクが付け加えた言葉に頷いてしまっていた。
「……全く、お前は唆すのが上手い」
その日の午後、ライナルトは宮殿の隣に広がる湖の辺りを散策すると言って馬に乗り離宮を出た。
供として、既に離宮の人々から認められていたディルク――使用人の姿をしている際はその名前をもじって「ルーク」と名乗っていたが――を連れて。
使用人としては下っ端の彼のみを連れていくことに対して反対する人間もいたが、過去にも何度かライナルトは同様のことをしていたので、比較的すんなりと出かけることができた。
宮殿から出、二人はこっそりと笑みを交わし合ったものである。
しばらくして二人はディルクの下町での知り合いのところに馬を預けて、祭の会場へ足を踏み入れた。その際に二人とも着替えを済ませ、一見したところでは貴族には見えない、簡素な服装となっている。
その扮装だけでもライナルトにとっては新鮮だったが、人が集い多くの店が並ぶ、賑やかで活気ある市井の様子は、公式行事等の時に経験したことのあるものとまた異なっていて、表情にはあまり出ないものの興奮は高まった。ディルクに話を聞いていたとはいえ、やはり実際に見るというのは違う。
ディルクは不慣れそうなライナルトを人込みから上手く庇いながら、並ぶ露店を指さして色々と説明してやり、ソーセージやじゃがバターが売られているのを見て、持ち金でそれを買ってやった。
「その金は……?」
さすがに皇子とは言え、大金が与えられているということはなく――国家予算上は割り当てられている分があるが、まだ十二、三の少年にそれを委ねることはされていない――、ライナルトはそもそも金を贅沢に使うような生活をしていなかったので、ディルクが当然のように金を使っているのに何となく違和感があった。
「下働きの給金と、それに下町に出た時に稼いだものだ。貯めるばかりじゃなく、こういう時に使わないとな。経済が潤わない」
下働きと言っても多少は趣味のようなものかと思っていたライナルトは、ディルクの言葉に若干衝撃を受けた。
「下町に出た時に稼いだというのは……」
「ああ、それは話していなかったか。時折道端でヴァイオリンを演奏したり、売り子を手伝ったりしていたんだ」
ディルクは平然とそう答えたが、ライナルトは驚かずにはいられなかった。ディルクが外でもそんなことをしていたとは、全く想像もしていなかったのだ。
「……お前は、本当に……」
「どうした?」
「いや……」
どこからそんな行動力が湧き出てくるのだろうか。
いつでもライナルトは疑問に思っていた。
眩しすぎる、存在だ。
それなのに、彼はライナルトと同じような孤独を持っているという……。
この時のライナルトは、それを全てディルクから打ち明けられたわけではなかったが、おおよそのところを察してはいた。
「良いのか、私がもらってしまって」
熱々のソーセージを受け取りながらライナルトが問うと、ディルクは笑った。
「ついてきてもらった礼だよ。遠慮なく食べてくれ」
「……それでは、遠慮なく」
ライナルトが気にしないようにというディルクの気遣いを無用にせず、ライナルトはディルクの手からそれを受け取って、早速齧ってみた。
「うまい、な……」
それもまた、驚きだった。
あっと言う間にライナルトが食べ終えてしまったので、ディルクは少しおかしそうに笑った。
途中で酔っぱらった大人に絡まれてそれを撃退するというようなハプニングにも遭遇したが、そういったこともありつつ、楽しい時間はあっと言う間だった。
「しまったな……、少し遅くなったか……」
急いで馬を走らせて帰りながら、ディルクはそう呟く。
「仕方がない。大事になっていたとしても謝るしかないな。……それよりも、今日はありがとう。お前がいなければ、こんな経験はできなかっただろう」
「礼を言われることじゃない。というより、俺の方が礼を言う立場だな。やはりなかなか、こうしてつるめるやつはお前以外にいないし、楽しかった。それに、俺はどちらかと言うと……、お前にとって悪い虫、だろうからな」
「そうかな」
確かにこれまでの慣習を破るという点において、ディルクの右に出る者はそういないだろう。
しかし、ディルクは閉じこもるばかりだったライナルトを外へ連れ出してくれた。
母に顧みられることがなくとも、この広い世界、他の希望の可能性もある。それを、ディルクは教えてくれたのだと、ライナルトは感じていた。
誰もがいつかは自分を裏切ると思っていた。自分を産んだ母親がそうしたのだ。他の誰が裏切らないと言えるだろうか、そう思っていた。信じてしまえば、裏切られて傷つく。それが怖かった。
けれど、同じ孤独を見せてくれたディルクなら。
同じ傷を持っているディルクなら。
おそらく、ライナルトに同じ傷をつけることはないだろう。
そして、きっと、信じられる人間はディルクだけではない。
その新しい可能性を、ライナルトは信じてもいいと思い始めていた。
「……まずいな、少々騒ぎになっているようだ」
「……普段優等生ぶっていたのがここに来て災いしたか……」
宮殿に戻ってきた二人は、その中が騒がしくなっているのに気付いて、揃って顔を顰めた。
「俺だったら放蕩王子で一晩程度の留守なら誤魔化せるんだがな」
ディルクは言ったが、実のところ彼には信頼できる侍従がいて、いつも上手いこと誤魔化してくれているのだ。
一方のライナルトはいまだにディルク以外の人間はそうそう信用できず、誰にもディルクとのことは打ち明けていなかったし、また本人が言った通り今まで周りに心配をかけたことなどほとんど皆無だったので、今の状況に周囲は余計に心配を募らせているのだろう。つれて出た供がディルク一人だったというのも、それに拍車をかけたのかもしれない。
潔く遅くなったことを謝ろうと、ライナルトが指揮をとっている者のもとへ足早に向かっていくと、すぐに気付いた女官や官吏、侍従たちが近づいてきた。
ざわめきの中から、あわや捜索隊が出されるところだったと分かって、ライナルトはひやりとする。
「ライナルト様、ご無事でしたか!」
「ああ、心配をかけてすまない。少しはしゃぎすぎて遅くなってしまった」
「いいえそんな……、ああでも、怪我も何もなかったようで安心いたしました。本当に、良うございました」
女官たちに心配され安心されるライナルトがいる一方で、下男に再び扮装したディルクはきつい叱責を受けていた。
「ルーク、お前がついていながら、どういうことだ!?」
「申し訳ございません」
言い訳もせず、ディルクは深く謝る。
「やはりお前ひとりに任せたのが間違いだったな。連絡もせずに――」
叱責の言葉はその後も長く続くはずだったのだろうが、それは主であるライナルトに止められた。
「ディ……、いや、ルークは悪くない。それ以上は言わないでやってくれ。私がわがままを言ったのを、彼が聞いてくれたのだ」
一年前のライナルトであれば、そんな風に誰かを弁護することもなかっただろう。
その変化を与えたのがこの下男であるということは、離宮で働く者たちにとっては明白であった。
「しかし、殿下……」
その時だ。
「殿下、ご無事に戻られたようで何よりでございました」
低い声がその場にいた者の耳に響く。
静かにライナルトたちのもとへ歩み寄ってくるのは、初老で痩身の、侍従長だった。
ライナルトの侍従は口を噤んで、一歩引く。
「陛下と第二皇妃殿下もご心配なさっておいでです。お疲れとは存じますが、離宮へお戻りになられる前に、足をお運び頂けますか」
第二皇妃の名に、ライナルトはぴくりと眉を動かしたが、神妙に分かったと頷いた。
「皆には心配と迷惑をかけてすまないことをした。通常の持ち場へ戻ってくれ」
ライナルトのその言葉の後、侍従長も頷いてみせたので、その場にいた使用人は速やかに散らばっていく。
その場に残ったのは、侍従長とライナルト、そしてディルクの三人だ。
「……ルーク、お前も付いてくるように」
「はい」
ディルクはかしこまって頷いた。
それは侍従長と下男にふさわしいやりとりであったが、ライナルトにはぴんときた。
――侍従長はやはり、知っているのだな。ルーク=ディルクであると……。
侍従長を先導に、ライナルト、ディルクの順に続いて、三人は皇帝と第二皇妃が待つ部屋へ足を運ぶ。
皇帝アウグスト・フォン・シーレは、ゆったりとした姿勢で、滑らかな光沢の見るからに豪華なソファに腰を下ろし、彼らを待っていた。
その横に、ひっそりと第二皇妃は控えている。彼女は大変美しい女性だったが、表情は抜け落ち、まるで生気の感じられない様子だった。余りにも堂々とした、威圧感のある皇帝が隣にいるので、余計にその存在感は淡く儚いものに感じられる。
その前で、ライナルトとディルクは礼儀にかなうよう膝を折った。
「お前にしては随分と珍しい真似をしたな、ライナルト」
深みのある、良く通る低い声だ。皇帝は臣下の前では厳格に礼儀を重んじる方であったが、無駄な言葉を費やして時間を浪費することの方が罪悪だと考えているらしい。まがりなりにも家族間でのことということもあるのだろう、前置きもなくそう告げる。
「……は。お騒がせいたしましたこと、心からお詫び申し上げます」
「何事もなかったのならば良い。だが、またこのようなことがないよう自らの立場をわきまえよ」
「……はい」
ライナルトは神妙に頷いた。
もっと色々と尋ねられるかと思っていたのだが、何も追究されないことにほんのわずか違和感を覚える。
「お前からは、何か言うことはないか」
皇帝は無造作に第二皇妃に話を振った。
ライナルトの背中が緊張に強張る。
しかし第二皇妃は小さく口を開いて、ただこう言った。
「……何もございません、陛下」
その言葉にはあまりにも力がなく、ライナルトへの無関心がそのまま表れたようだった。
諦めの吐息を、音にしないようにライナルトは吐き出す。
――やはり、この人は……。
既に諦めてしまっていたので、さほど落胆も感じなかった。
本当に、息子であるライナルトが消えようがどうなろうが、彼女は取り乱しはしないのだろうと思う。
「――何もない、ということはないだろう」
ライナルトが小さく肩を落としたその後ろで声がして、はっとライナルトは視線をそちらに向けた。
ディルクが立ち上がり、第二皇妃を強く見据えているのが目に映る。
「あなたは自分の腹を痛めて産んだライナルトのことを、少しの心配もしなかったというのか? 母親ならば……、もっと何かかけられる言葉があるだろう!」
ディルクは――、真っ直ぐに、怒りの瞳を向けていた。
その拳は、強く強く握られている。
ディルクの怒りを込めた視線に、第二皇妃は息を呑み、恐れるように目を伏せた。
「……そなた、無礼でしょう。……使用人風情が、分かったような口を……」
「使用人でなければいいのか」
ディルクは荒々しく鬘をむしり取る。
はっと第二皇妃は目を見開いた。
「そなた――、三の皇子……?」
「そんなに自分が可哀相だと思い込むのが心地いいのか」
ディルクは強く切り込んだ。
「自分の不幸だけではなく、あなたはもっとちゃんと周りを見るべきだ!」
「私は――」
第二皇妃はその剣幕に蒼白になり、言葉を失った。
その頃合いを見計らって、アウグスト・フォン・シーレは口を挟む。
「――侍従長、第二皇妃は大分疲れている。休ませてやれ」
「は……」
侍従長は頷き、そっと第二皇妃をその場から連れ出した。
「ディルク……」
第二皇妃が去るまで、茫然と成り行きを見守るしかなかったライナルトは、無意識に立ち上がり、そっとディルクの腕に触れる。
「……すまなかった、つい……」
第二皇妃がいなくなった部屋で、ディルクは先ほどまでの怒りを消し去り、項垂れた。
「……実を言うと、俺は少しだけ期待していたんだ。彼女が少しはうろたえでもしてくれたらと……」
ディルクが夏の祭にライナルトを誘ったのは、共に楽しみたいと思ったからだ。
けれど、それだけではなく、ディルクは一度だけ、試してみたいとも、思っていた。
第二皇妃を。ライナルトの母を。息子に愛情がないと言われる彼女の本心を、確かめたいと。
この日、ディルクは単純に楽しかったということもあるが、帰りの時間を「わざと」遅らせたのは、そのことで、彼女が少しでもライナルトのことを心配してくれるのではないか……、そう思ったからだった。
ディルクはこの賭けが成功することを望んでいた。
この賭けが成功すれば、ライナルトは少しでも報われる。ディルク自身も……、少しでも救われただろう。
けれど。
「だが、駄目だったな……。結局、またお前を傷つけただけで……」
今度は、先ほどとは違う、自分への怒りで、ディルクは拳を固めた。
「すまなかった」
「いや、お前が謝る理由はない」
しかしライナルトは真っ直ぐにディルクを見つめて、きっぱりとそう言った。
「お前以外に……、あんな風に私のために怒ってくれた人間はいない。私には、それだけで十分だ」
ディルクはその言葉に顔を上げてライナルトを見返した。その瞳に、嘘はなく。
「――賭けには負けたようだな、ディルク」
はっと、ライナルトは父親の存在を忘却していたことに気付いて慌てた。
だが、ディルクは平静な口調に戻って、皇帝の言葉に応える。
「……残念ながらそのようです、陛下」
「だが、その代わりに、なかなか得られぬものを得られたらしい」
「……ええ」
ディルクは深く頷き、一瞬ライナルトに視線をやった。
「これでお前への借りは無しだ、ディルク。今後はこのような茶番は許さぬ」
「分かっています。……ですが、陛下も多少は、鬱憤を晴らせたでしょう?」
ディルクのその言葉に、皇帝は笑った。
ライナルトはこの時二人の会話の全てを理解したわけではなく、親子というより共犯関係にでもあるような二人の雰囲気を、ただ感じていた。
「……これからも、またお前を誘ってもいいか?」
一週間の謹慎を命じられてから退出を許された二人は、離宮へ戻りながら言葉を交わした。
「もちろん。……というより、今日の外出で私もますます興味がかきたてられたよ。お前がいてくれれば……、心強いし、楽しい」
「それは、何よりだ」
ライナルトの言葉に、ディルクは輝かしく笑った。
――私は、もうただの道具ではない。
いてもいなくても同じというような存在でも、かわりがきくような存在でもない。
ディルクの笑顔に、ライナルトはそう思うことができた。