第0話 プロローグ ~息子はミタ~
この世界には、様々な家庭が存在する。
一般的な父と母、そして子供が暮らす家庭。父と子供のみの家庭。母と子供のみの家庭、場合によっては、祖父・祖母と暮らしている家庭なんて所もあるのかもしれない。
そんな様々な家庭が存在する中で、僕の暮らすこの家は、世間一般的に言うごくごく一般的な父と母、そして子供の姉と僕が暮らす家庭である。
強いて、特筆する点があるとすれば、僕の父はとても優秀でわずか40歳という若さにも関わらず、大手企業の2番手を担うほどの実力者だということだ。
そんな、父親であれば当然会社に人生をささげてきたのであろう・・・とみんなは考えるであろうが、実は週休2日を勝ち取りつつ、平日は8時から17時までの勤務時間ですべてを片付けて帰還してくるほどの優秀な父なのである。
家族時間をとりつつ、仕事では成果をあげつつ、業務時間内にすべての仕事を完了させる父は、はっきり言って優秀以外の何物でもないと思う。
更に、優秀さを伝えるのであれば、なんといっても偉ぶらないところにあると思う。
普通に考えれば、その若さでそれだけの成果を出せる仕事人間であれば、多少なりとも性格に難があったとしても、おかしくないと思う。
なのに、なぜか父はそこに人間的な心までも持ち合わせているのだ・・・。
はっきり言って異常であると思う。
しかし、これだけの父であることを理解しているものの、僕は父に対して嫉妬などはしていない。むしろ、ただただ尊敬をしているのだ!
なんでもできる父を息子は持つと、誇らしくなってしまうのもしょうがないと思う。
ただ、最近になって僕が感じ始めたことがある。
果たして、父は本当に人間なのだろうかと・・・
だって、考えてみてくれ!
あの優秀な父の血を引く僕は、学校でも成績は中の下。
部活動だって何かやっているわけでもないし、スポーツも万能ではないのだ。
顔の偏差値については、そこは父と母から受けついだものがあり、ある程度高くはなっていると感じるがその程度である。
つまるところ、僕は今自分自身に自信が持てていないということである。
そんな僕は、ある日父へと相談してみることにした。
「ねぇ、父。ちょっと相談があるんだけど・・・。」
「なんだ?龍??・・・・わかった、ちょっとお茶淹れるから待ってろ。」
そういって父は席を立ち、僕と二人分のお茶を入れて客間へとリビングにいた僕を誘導した。
そして、僕が椅子に座ったのを確認してから、父はゆっくりと椅子に腰を下ろす。
父が淹れてくれたお茶は、なんだか心が落ち着くものでなんでも話せそうな気がした。
「あのね、ちょっと僕が最近感じていることなんだけど・・・」
おもむろに僕が切り出したにも関わらず、父はさりげなく聞くような感じで、かといって絶対に聞き漏らさないよう聞き耳を立てて聞いてくれているのを感じた。
「僕って、もしかしてお父さんの子じゃない??」
「んんっ!!!!」
父は、大きくうろたえたようだ・・・・。
慌てて口に含んでいたお茶を漏らさないように手で押さえていた。
やっぱり僕は、父の子ではないのだろうか?
「・・・こほん。な、悩みって龍が俺の子じゃないかって事か?」
口をハンカチで拭き取りながら父は、即座に態勢を立て直して魅せた。
やはり、こういうところは父だなぁーと感じる。
「えっとね、僕って勉強とか、スポーツとかそういうものが父みたいにあんまり上手にできないから、だから、も、もしかして――――違うのかなって・・・」
父は、真剣な目で僕を見ていた。
そして、その真剣な表情のまま父は話始める。
「龍。お前が俺のことをそれだけ特別に見てくれているのは、お前の父としてとてもうれしい。だけどな、龍が俺の息子であることは紛れもない事実だし、なんだったら確認してみてもいい。」
父は、ちょっと怒っているのかもしれない・・・。と感じた。
そんな、父の怒りはきっと僕の事を大切に想ってくれているからなのだと感じると、僕は怒られている身なのにうれしくなってしまった・・・。
そして、父はさらに続けた・・・。
「それにな、龍は自分の事をすごく否定しているけど、俺は知ってるんだぞ。クラスでの順位を上げるために、試行錯誤しながら勉強しているところとか、少しでもスポーツで活躍しようと、スポーツに活用できそうな本を読んだり、次の日の体育でやる競技をこっそり練習してたりな・・・。俺はそんな龍が頑張りな一面を知っている。むしろ、才能とかで片付ける奴なんかよりは、努力できる奴は凄い奴なんだ。・・・・龍が尊敬してくれてる父が言うんだ。なんだか信用できそうだろ?」
最期は片目でウインクをしながら、ちょっとお茶目な部分を見せながら、それでも僕の事をたくさん見てくれている父に対してうれしさを覚えるとともに、涙が少しこぼれた。
「おいおい、泣くなよ。こんなことは俺が知ってて当たり前なんだ。龍の一個一個の成長は俺の楽しみなんだからな!たとえ世界がひっくり返ったとしても――――龍、お前は俺の息子だ。だから、我慢せずに思いっきり人生を楽しめ!!」
そう言って、父は少しごつごつした手でちょっと乱暴に僕の頭をぐりぐりと撫でた。
ちょっと頭がぐわぐわしたが、その強さが逆に僕にはありがたかった。
「さーて、どうやらもう龍には悩みなんてないみたいだな!また、なんかあったら何でも言えよー」
父は、僕の瞳をみてそう判断したのか、元気で明るい軽い感じで声を掛けてくれる。
「・・・・・・うんっ!!」
僕は、涙にぬれた顔で元気いっぱい返事をした。
父が客間を去って、僕はしばらく心を落ち着かせていた。
泣き顔のままここを離れて姉にでも見つかったら、散々馬鹿にされそうだからね・・・
そんなわけで、僕は客間にて涙を乾かそうとしていた時、ふと客間に本棚が置かれていることに気がついた。
いろいろなジャンルの雑誌、小説がおいてあり、お客さんが来訪した時に退屈しないように父が取り計らって設置したものだろう・・・。
僕は、そんな本たちを眺めていた時にふと、違和感を感じた。
違和感というほどの大きなものではなかったかもしれない。
ちょっとした、勘とでもいえばいいのだろうか・・・
「運命」というタイトルの難しそうな本、そこから変な感じ?なのかよくわからないものを感じた。
僕は、そういった類は普段気に掛けないのだが、この日のこの時だけはどうしても気になってしまったのだ。
そして、僕は「運命」という本を手に取った。
そして・・・なんか違うと感じた。
すると、「運命」という本の裏に隠すようにタイトルのない厚めの日記帳のようなものが確認できた。
僕は、おもむろにそれを取り出す。
タイトルは、もちろんない。
ただ、年代ものなのか使いこまれたのか不明だがとても年期の入ったもののような気がした。
僕は、恐る恐る本を開く。
そこには「日記」と記されていて、名前には「神代 真人」と記載されていた。
この名前はもちろん父の名前である。
こんなに面白そうな・・・もとい気になる日記などこの世に存在しないだろう・・・。
僕は、さらに次のページをめくった。
注意:誰にも見られないようにすること。とても大切な記録が残っているため、見られてはいけない。特に家族・・・子供達には・・・。
こんな注意書きが書き残されていた。
こんなに面白そうなものを読まないとは、人生を損しているようなものである。
もちろん、僕はページをめくることにした。
タイトル「ディスティニー アナザー ストーリー」
僕は、おなかを抱えて大爆笑した。
間違えて公開にしてしまいました…
本編は2月より開始予定です。