中世から来た魔女は、テストを受ける。――4
「ただいまー」
「おかえりなさい!」
帰宅して玄関でスニーカーを脱いでいると、リビングダイニングのほうから返事が聞こえ、パタパタとスリッパを鳴らしてエリーがやってきた。
ニコニコと満面の笑顔を浮かべるエリーは、白いエプロンをつけている。
「お疲れ様、養一! ご飯できてるよ」
スニーカーを脱いで玄関に上がった俺の手から、エリーがビジネスバッグをとる。
新妻感たっぷりの様子に、俺は笑みを漏らした。
「どうしたの?」
「いや、新婚夫婦みたいなやり取りだって思ってな」
「ほわぁっ!?」
エリーの顔が一瞬で真っ赤になる。
ボヒュッという擬音と、湯気が上がるエフェクトが見えるようだった。
「今日もおいしいな。エリーは本当に料理上手だ」
「えへへへー」
生姜焼きを口にした俺が褒めると、エリーがはにかむ。そんなエリーが愛おしくて穏やかな気持ちになった。
エリーが作ってくれた生姜焼きは甘めの味付けだ。かといってくどくはない。砂糖をひかえ、タマネギで甘みを出しているからだろう。
自然な甘みと醤油のコク、ショウガとニンニクの香りが、付け合わせの千切りキャベツと相性抜群だ。もちろん、白米も進みに進む。
「俺がいないあいだ、さみしくなかったか?」
「うん、大丈夫! ちゃんと勉強もしてたよ! ……ま、まあ、養一が側にいてくれたほうが幸せだけど」
「ん? 最後のほう、聞こえなかったんだが」
「な、なんでもない!」
慌てた様子でエリーがブンブン手を振る。顔が赤らんでいるけど、どうしたのだろうか?
「え、えっと! ご飯のあとに、どれだけできてるか確認してほしいな!」
「ああ、もちろんだ」
答えて、俺は食事に戻った。
エリーがなぜかホッと胸を撫で下ろした。
「――完璧だ」
「ホント!?」
ひととおりエリーのノートに目を通し、俺は感嘆の息をつく。
「ああ。ひとりでここまで進めてしまうなんて、エリーは本当に天才だな」
「えへへへー」
頭を撫でると、隣に座るエリーが飼い主に愛でられる猫みたいに目を細めた。
ノートを確認する限り、エリーは中学で習う範囲を習得している。たったひとりで達成してしまうのだから、エリーの学習力には舌を巻くばかりだ。
「俺のほうでも、エリーを編入させてほしいって校長に頼んできた」
「……どうだった?」
不安そうに指先と指先を合わせるエリーに、俺は伝える。
「許してくれたよ。試験に受かれば、エリーは月ヶ丘に通える」
「よ、よかったあ……」
ほぅ、とエリーが安堵の息をつき、背もたれに身を預けた。
背中を優しくトントンしてエリーを労り、俺は続ける。
「試験は九日後、月ヶ丘で行う。それまでに、エリーには高校一年生の学習内容を修めてもらう。できるか?」
「やってみる! ううん、やってみせる! 試験に受かって、わたし、学校に通う!」
「よし! 一緒に頑張ろうな」
「うん!」
ギュッと両手を握りしめるエリーに、俺も拳を作ってみせた。
「じゃあ、食器を洗ったら早速はじめるか。悠莉も手伝いにきてくれるぞ」
「わあっ! 心強いよ!」
エリーが瞳を輝かせ、「えいえい、おー!」と拳を突き上げる。
若干幼い仕草が、大変可愛らしかった。