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待って、これはわたしの黒歴史!

作者: 柚みつ
掲載日:2021/03/31

 目を開けたら、トラックに轢かれたら、足元に魔法陣が現れたら。


「そんな事ないって分かってるけどねー」

「凛、口じゃなくて手を動かす!」

「分かってるよ、さすがに会社連泊三日は無理」


 当野(あての) (りん)。現在、絶賛社畜まっしぐら。ああこれもフラグだわなんて思うけど手は止めない。だってこのバグ直さないと帰れない。心の支えになっているソシャゲにもログイン出来てないし、家で帰りを待っているサボテンのジャンにもお水をあげないと。


「このデモプレイ終わったら帰るー!」


 エンターを押したと同時にモニターから眩い光が溢れ出す。え、こんな仕様にしたっけ。

 記憶があるのは、そこまで。面白いようにぶつっと途切れた記憶。二徹の目にあの光量は耐えられないわ。


 *


 ふ、と浮上した意識。頬をやさしく撫でる感触に、耳をくすぐるのは木々が揺れる音と鳥の鳴き声。

 いや、ちょっと待て。間違ってもそんな自然あふれるところにいるなんておかしい。ほら、目を開けたら残業禁止と名ばかりに消灯を余儀なくされたなかでも眩いモニターが目の前に……


「おや、お気づきになられたのですね」


 なかった。目の前には、何を使えばそんなモデル顔負けのサラサラヘアーになるんですかと問い詰めたくなるほど綺麗な金髪を風に遊ばせて、宝石のような緑の瞳でこちらを見つめている男性の顔。

 起き抜けにそんな国宝みたいなものを直視してしまい、二の句が継げないでいると男性が僅かに眉をひそめてから、軽く手を叩く。

 直後に開いた扉から、失礼しますなんて鈴を転がしたような澄んだ声がして、茶色の髪の毛をお団子に結った女性が顔を出した。伏し目にしていても分かる整っている顔立ち、それよりも着ているの、メイド服だよメイド服。足首まで隠れる長さのクラシカルな衣装が、ぱっちりとした目鼻立ちの彼女にはとても良く似合う。


「聖女様がお目覚めになりました。わたしは殿下に報告に行きますので、お側についていてください」

「畏まりました」

「それでは、何かあればそこの彼女にお声かけくださいね」


 畏まらなくていいよ、なんて言うより早く男性がふわりと笑顔を向けてから部屋を出て行ってしまう。戸惑いながらも、隣に立つメイド服の彼女に視線を送ると、こてんと首を傾げられた。わあ可愛い、美少女の小首傾げる姿なんて眼福よねってそうじゃなくて。


「あ、あの……」

「はい、何かご入用でしょうか。聖女様」

「それ! その、聖女様って何の事……?」


 聖女、何回も聞いた覚えはあるけど、実際に自分がそう呼ばれるかといえば否だ。二徹なんてしたから自分に都合のいい夢でも見ているんだろうか。いやそうに違いない。

 こんなふわふわして花の香りがする布団も、きらきらと光が透ける天蓋が付いたベッドも、繊細な模様で飾られた部屋も。どれもこれも今までお目にかかったことのない物なのに自分の想像力に感心してしまう。うんうん、と納得したように頷いていたら、メイド服の美少女から恐る恐る声をかけられた。


「覚えていらっしゃらないですか?」


 この状態で、何を? なんて聞けなかった。だって目の前で美少女がさっきまでの仕事に誇り持ってます、なんて表情から一瞬にして悲しそうに顔を歪めたんだもの。これは下手に口を開いたら逆効果な気がする、と気まずい中で沈黙を貫いていたら、ひとつひとつゆっくりと説明してくれた。


 わたしは聖女召喚という古い文献頼りの方法によってこの国、リトメシア王国に召喚された。さっき出て行った金髪は三つある騎士団のうち、第二部隊を纏める隊長。

 他にも魔術師団が一つあって、全部で四つの団が協力してこの国の守護に当たっているそうだ。それがどうやら最近では魔物の被害が増えてきて、戦力を増強しようにも騎士や魔術師なんてそうそうなれるもんじゃない。

 そこで手当たり次第に書物を漁っていた時に聖女召喚の陣を見つけたと。藁にも縋る、じゃないけど伝説と謳われた聖女が本当にいるのなら、魔物の侵攻を食い止められるのではないか、と実行したところ、見事成功して、わたしがここにいるわけなんだけど。


「テンプレよね……」


 一体どこの小説だと言わんばかりの展開に思わずため息が漏れる。いやね、正直考えていた時期もあったわけよ。誰だって一度は患うでしょ、あの衝動。そんな事現実に起きっこないと知ったから、無機物のモニターと日々にらめっこする生活をしていたんだけど。

 それにしても、聖女召喚に、リトメシア王国、ねえ。ちらりと横目で見れば、状況を説明して一息つけるようにとメイドがお茶の準備をしてくれている。

 茶色の髪は耳の高さで綺麗にまとめられ、長いまつげが縁取る瞳は暖かな橙色。水仕事もしているはずなのに荒れている様子なんて全く見えない指はほっそりとしていて、爪はつやつや。どうにも、その姿が記憶にないはずなのに引っかかる。


「ありがとう。……シャーリー?」

「私、名乗りましたか?」

「え!? ええっと、そんな感じの名前かなーって!

 シャーリーで合ってるの?」

「はい、どうぞそのままシャーリーとお呼びください」


 出してくれた紅茶を飲んで一息。あの姿でシャーリー、か。すごく思い当たる事が一つだけ、どころじゃなくて一つ思い当たったからか、芋づる式にどんどん出てくることがあるんだけど。それはもう一口、紅茶を飲んで一緒に喉の奥に流し込んだ。

 そう、これは自分の都合のいい夢なんだと。早く目覚めてデモプレイの続きを終わらせなければいけないのに、目覚める気配はなく。

 隊長が戻ってきて、そのまま連れていかれたのはこじんまりとしている中で質のいい調度品で整えられた部屋。そこにはすでに何人かの姿があって、誰もが日本人とは思えない色彩を持っている。

 そしてその色には、心当たりがありすぎた。いやでも偶然とか、たまたまだとか、それこそ自分に都合のいい夢だって線もまだ捨てていない。認めたくないものなのよ、過ちって。


「聖女様、どうぞこちらに」


 自分で聖女なんて一言も名乗ってはいないから、その言葉に従うのはなんだか気が引けるけど、とりあえず案内された見た目からしてふわふわなソファーに腰を下ろす。そのままもっちりと体を包み込みながらも、いい具合に支えてくれる座り心地に体の力が抜けた。


「簡単な話は先のメイドから聞いたとお伺いしましたが、改めてご説明させていただいてもよろしいでしょうか」


 最初にわたしの傍にいた金髪、第二騎士団の隊長さんが確認するようにこちらに問いかけてきた。

 正直、シャーリーの説明でもうお腹いっぱいなんだけど、頷いておく。ここで、わたしの思っている事と違いが出てくれば良いなと思っていたのに。


 結論から言おう、撃沈だ。

 ああもうこれは認めざるを得ないじゃないか。この人たち、いやこの世界の設定に至るまでが封印した昔の妄想の産物だと。


 リトメシア王国は魔物の急増によって、王国存続の危機に瀕している。それを救うために決死の思いで聖女召喚を行うのだ。

 そうして召喚されたのは、現代に生きる少女。心優しい彼女は王国の危機と聞いて自分が役立つのなら、と魔物の討伐をはじめ、現代の知識を持ってこの国に革命を起こすのだ。


「大丈夫か、顔色が悪いぞ」


 俯いたわたしを心配そうに覗くのは、赤い髪と赤い瞳の第三騎士団長。大型犬を彷彿とさせるような人懐っこい雰囲気は、相手に警戒心を持たせない。


「無理もないだろう。いきなりこんな話をしたんだ」


 アイスブルーの長い髪を緩くまとめたのは、魔術師団の師団長。片眼鏡(モノクル)が知的な雰囲気を演出し、その奥に光る瞳は月の光のような優しさを湛える金。


「本当に聖女と呼べるのか? 先ほどから黙っているが」


 深い緑の髪を短く揃え、無表情でこちらを見ているのは宰相。その紺色の瞳に映るわたしが何も言わずに座っているだけなのが気に入らないようで、さっきからずっと腕を組んだままだ。


「こちらの都合で勝手なことを言っているのは承知の上だ。だが、どうか力を貸してはくれないか」


 他の人よりも一段高いところにいるのは、この国の王様。

 肩まで伸ばした金髪はきれいに整えられ、一房だけ編み込まれている。宝石のように煌めく紫の瞳はわたしの姿を捉えても後ろめたさを読み取ることは出来なかった。まあ、この場で王様が不安にさせるような事なんてしないだろうね。それは誰にだって伝染するものだから。

 自己犠牲の精神なんて持ち合わせていないし、我が身は可愛い。だけど、ここでこの人たちと別れたところで生きていけるのか、元の世界に戻る手段があるかどうかは分からないけど、それを見つけるならここにいる方が確率高いんじゃないか。

 王様に頷いたのは打算が存分に含まれていたけれど、選択としては間違っていなかったんだと思っている。


「聖女様!」


 こう呼ばれるのにもだいぶ慣れたし、そう呼ばれるだけの力もつけた。魔力体力は申し分ない代わりにガンガン抉ってくる精神力がもうそろそろ保たなそうだから、早く世界に平和を取り戻したい。

 過去の妄想が現実となって目の前にあるっていうのは、こう、ね。くるものがあるのよいろいろと。

 そんな感じで、わたしは今日も黒歴史の中を生きています。



ノリと勢いだけで書き上げたものです。

ただ、すっごい楽しかった!笑

あまり深いこと考えずに読んでいただけたら嬉しい。

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