悪役令嬢がヒロインのために、攻略対象に文句を言うお話。
「貴方悪役令嬢ですよね!?ヒロインを助けて!!」
「は?いや、悪役はヒロインを邪魔する側では!?」
「なんでもいいからっ!助けてぇええええ」
私、とある低位貴族の令嬢であるフェディナは、ぽろぽろ涙を流したピンクブロンドの美少女に抱きつかれてます、なう。
あ、なうって古い?古いって言うか、これ前世の言葉だったわ。混ざった混ざった。
よくある展開ですよアレですよ。私、昔プレイした乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました的なあれでですね。
もうその手の話は飽きたって?
いやいやわかる分かる。
それでもスカッと系とかさ、才能ある女の子が頑張るとかさ、やっぱりこう、憧れちゃうわけですよ。
ま、私の場合はライバル悪役令嬢!というよりも、残念なモブ寄り当て馬令嬢というのが正しい感じでした。
別に攻略対象の婚約者っていうわけでもないし。みんなの憧れの高位貴族令嬢ってわけでもないし。
とあるキャラのルートの時だけ登場する、そのキャラに恋愛感情を抱いていたライバル令嬢でですね、ヒロインあれやこれや地味な嫌がらせをするキャラなんですよ。
といっても、前世の記憶を15歳で取り戻してからは悪役にならないように気をつけて暮らしてたし、なんなら色々慈善事業とかに積極的だったし、ヒロインが入学してきてからもほぼ関わりはなかったし、ゲームのフェディナが惚れたはずのキャラにはびっくりするほどときめかなかった。
ので、いま抱きつかれている状況が謎すぎて。
しかし、ヒロインちゃん。
改めて近くで見ると、ああこりゃモテるわって感じの可愛らしさ。
前世今世共に女性性で恋愛対象は男性な私でもちょっとときめいて、うっかり新しい扉を開いてしまいそうなレベルだ。
「ええと…、とりあえず、人の目が少ない場所でゆっくり喋ります??」
「ぐすん。ええ、急にわけわかんないこと言ってごめんなさい…」
ヒロイン、ジェシカさんは、小動物のようにシューンと俯いている。先ほどまでの勢いはなんだったのと首を傾げるが、だんだん遠巻きに人も増えてきたし、このままここにいると、フェディナがジェシカをいじめていると思われてしまうのではないかしら。
というわけで、とりあえず、いつもお昼ご飯をとっている、学園の裏庭のおくにある東屋に案内した。
案内してから、泣かせたヒロインを人気のない場所に誘導するって余計に悪手だったのでは?と思ったけれどもそれはもう後の祭だ。
なら、とりあえずジェシカさんに事情を聞いておくことにする。
ちなみに、私はぼっちなわけではないです。ただ、お昼ご飯くらい「ガイ様かっこういいーっ」「ユン様と目があっちゃったー!」という会話から逃げたいだけです。
ガイ様も、ユン様も攻略対象キャラ。
「で、ジェシカさんですよね。なぜ私が悪役令嬢だとおっしゃったんです?それに、たすけて、とは」
「あの、…信じて貰えないとは思うのですが」
ジェシカさんの話はこうだった。
①自分は転生者であること。
②この世界は自分の前世でプレイしてたゲームとそっくりで、自分はヒロインであること。
③はじめは面白がっていたけれど、正直、攻略対象に迫られるのがこわいこと。
④このゲームには悪役令嬢と言われるキャラがいて、それが私フェディナであること。
⑤でも虐めてこないし、とにかく攻略対象が怖いし、助けて貰えないかとなぜか強く思ってしまったこと。
「ほんとうに、ほんっっっとうに怖いんです。教えてもないのに私の好みのプレゼント用意してくるし、帰り道待ち伏せされるし、ナチュラルに腰抱かれるし、顎クイとか壁ドンとか、堂々としたセクハラ受けてる気分にしかならなくて!!!!」
ジェシカさんは自分の両肩を抱いてガタガタと震え、またぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
言われてみれば、確かにそれは怖いな。
ジェシカさんが転生者だとしたら、現代日本人としての感覚も持っていることになる。
複数人にストーカーっぽいこととセクハラをされているということだ。
落ち着いて喋っていると、ジェシカさんは冒頭の偉そうな口調では全くない。
よほど切羽詰まっていたということだろうか。
ふむ。
「ねえ、ジェシカさん」
「は、はい」
私はジェシカさんにハンカチを渡しながら、とあることを口にする。
「“ドキ胸きゅんきゅんストーリーズ”」
「!!!」
阿呆みたいなタイトルでしょ?
でも、良作だったんですよこのゲーム。
タイトル詐欺、とよくレビューに書かれていた。
「まさか…、フェディナさんも…」
「そのまさかです。転生者だし、ゲームもしていました。ゴウ様(全キャラ攻略後に出てくる隠しキャラ)まで攻略済みです」
「ああ、神よ…!!」
ジェシカさんは胸の前で手を組んで、祈りのポーズを捧げた。
あ、そうか、ジェシカさん聖女だもんね。似合うわぁ。
この後、私たちは懐かしの日本の話や、転生者あるあるでもりあがり、すっかり仲良くなっていた。
ジェシカさんは可愛くて、思っていたより芯もあって、助けてと言ったことは恥ずかしいから忘れて欲しいといわれたものの、私はできる範囲で彼女の力になろうと心に決めた。
しかし、私の思っていた通り、周りの人には、「フェディナがジェシカを泣かせた」と思われていたらしく、放課後、私は攻略対象の皆々様に囲まれることとなった。
***
「貴様がフェディナ=ガルディールか」
イケメン高身長な5人の男に教室を出たところで囲まれた私に、最初に声をかけたのはガイ様(金髪碧眼イケメン高位貴族で俺様担当。プレゼントをしたヒトだ)
相手は自分よりも位が上なので、きちんと礼をしてから返事をする。
「ええ。わたくしがフェディナ=ガルディールでございます」
肯定した瞬間、5人の怒気が強くなった。
正直めちゃくちゃ怖いけれど、それを相手に悟られるのはよろしくない気がする。
だって用事の見当はついているし、それは全く事実無根なのだから。
「貴様か!ジェシカを泣かしたのは!!!」
ほらやっぱり。
声を荒げたのはユン様(騎士団長の息子さんで熱血担当。緑髪と赤い瞳。帰り道待ち伏せした人ですね)
そのとなりで黙ったまま私を睨んでいるのはズーマ様(ピンクの髪とピンクの瞳。神官長の息子の軟派担当。腰抱いた人)
「ジェシカが聖女として平民なのに重宝されていることへ嫉妬しているということで間違い無いですね?」
これはジルベール様(水色の髪にオッドアイ、宰相の義弟知的担当。顎クイのひと)
「なんて情けないんだ…。下位とはいえ貴族ともあろうものが…」
わざとらしくため息をついたのはゴウ様(黒髪碧眼、学園長の息子で隠しキャラのはずですが壁ドンした人)
ていうか、この人たち勝手に暴走してるだけで、多分誰1人ちゃんとジェシカの話に聞いていないと見た。妄想と想像と暴走でここまできたな。だって、「私がジェシカさんに嫉妬している」なんて話、今の今まで噂にでもなったことあった?
あれー。この人達こんなに阿呆だったっけ、ゲームの中で。
そんなふうに考えていたら、ガイ様が「おい聞いているのか!?」とまた怒鳴った。
「可哀想に、ジェシカは目を真っ赤に腫らして教室にきたんだぞ!?」
ぷつん、と頭の中でなにかがきれた。
あんなに可愛いジェシカさんを泣かせたのは、どこのどいつだと思ってるんだコイツらは。
下位貴族である私がガイ様他に楯突くのは、宜しいことではない。
が、幸いにしてここは学園だ。こちらに非さえなければ、ある程度はお目溢しされるはず。
「それは、本当に私のせいだとお思いですか、ガイ様。ユン様、ズーマ様、ジルベール様、ゴウ様」
冷えた低音で返事をした私に一瞬気圧された5人だったけれど、すぐに当たり前だろう!という返事が返ってきた。
「貴様が泣いているジェシカを連れ去ったという目撃者が多数いる。言い逃れはできんぞ!」
「その会話の内容はご存知ですか?」
「む」
「私が彼女を泣かせたという事実は、ジェシカさんに確認されましたか?」
「辛いことを思い出させるような真似ができるか!」
ユン様が言うが、お前が言うな、だ。
お前らの姿を見るだけで、ジェシカさんはセクハラとストーカー被害の記憶を呼び起こされるし何なら日々加害更新してんだろーがよ。
「では、嫉妬云々というのも、ジェシカさんがおっしゃったことではないと?」
「ふん、そんなもの少し考えればわかることでしょう?いちいち確認するまでもありません」
ジルベール様、貴方本当に知的担当ですか?空っぽ担当ではなく???
どうでもいいけれど、私前世では若干ヤンキー気質だった。
「おやめください!」
更に相手にいろいろ確認してやろうと思った私の言葉を遮ったのは、一番の当事者であるジェシカさんだった。
「ジェシカ!」
一瞬嬉しそうにした5人はすぐに眉を寄せる。
ジェシカさんが、私の腕に抱きついたからだ。
「ジェシカさん。ここは大丈夫ですから。正直、この5人を前にするの辛いでしょう?」
「いいえ、いいえフェディナさん。私のせいで貴方が理不尽に詰め寄られているのを見ないふりする方が余程辛いです!」
「ジェシカさん…」
「フェディナさん…」
ジェシカさん。あなたなんって良い子で可愛いの…。貴方のその言葉だけでこの5人への恐怖なんてすぽんと飛んでいってしまうわ。もしかして私、あなたに攻略されてしまったのかしら、なんてね!
私たちが百合よろしく見つめあっているのを見て、周りの野次馬生徒たちは、どういうことなんだろう、と5人と私たちを交互に見ている。
「ジェシカ、いくら君が優しいからと言って、自分をいじめた相手をかばわなくてもいいんだよ?」
ズーマ様の言葉に、ジェシカさんははっきりと不愉快そうに眉を寄せた。
「フェディナさんは私を虐めてなどいません」
「というか、ジェシカさん追い詰めていたの、あなた方でしょうに」
思わずぼそっと言ってしまった言葉に、5人は一斉に私を睨みつけた。
「貴様は何を言っている!」とガイ様。
「俺たちがジェシカをおいつめただって!?」とユン様。
「わけのわからないこといわないでくれるかい?」はズーマ様。
「頭おかしくなったのですか?」はジルベール様。
「これだから女は」はゴウ様。
それらの言葉を聞いていた私。再びキレた。
「無礼を承知で言いますけれども、あなたがたはナルシストなのでしょうか?」
「「「「「は!?」」」」」
「普通は、伝えてもない好みを把握されていたら、約束もなしに帰路で待たれたら、付き合ってもいない異性に過剰なスキンシップをされたら、不快を通り越して恐怖です。行きすぎた好意を押し付けられるも恐怖です。勝手に自分の交友関係を把握され関係性を妄想で決めつけられるのも恐怖です。それらをあなた方がジェシカさんに行っていたという自覚はございますか?自分はなにをしてもサマになる。自分は何をしてもジェシカさんに避けられることはない。そんなふうに思ってらっしゃいませんか?もう一度言いますが、ナルシストなんですか?」
私の早口に、5人は固まり、ジェシカさんは若干笑いを堪えて、ギャラリーからは「た、たしかに…」という声がちらほら聞こえる。
「し、しかし」
フリーズから1番最初に立ち直ったガイ様(さすが正ヒーローというべきだろうか)が口を開きかけたのを、ジェシカさんが遮った。
「フェディナ様のいう通りです。私、ずっと怖かった。みなさん、私の話なんてまったく聞いてくれない。聖女だから?この見た目だから?“ドキ胸”みたいに私から話しかけたわけではないのになんで皆様が私にかまってきたのかは分かりませんが、ガイ様もユン様もズーマ様もジルベール様もゴウ様も、自分に好意があるはずだと信じて疑わない目で私を見るんです。1人になる瞬間なんて日によっては女子トイレに入る時ぐらい。帰路も家も把握されて、いつか襲われるんじゃないかって、正直思ってました。恐怖で泣いて助けてと縋った私を、フェディナさんが慰めてくれたんです」
そんな!?と5人が5人とも顔に書いてある。
「そのフェディナさんを、こんなふうに責めるなんて。私1人が我慢すれば良い問題ではなくなりました。これ以上私に付き纏わないでください。私があなた方に好意を持つ可能性は0です。平民上がりの聖女だから後見人が必要だと言ってくれてましたが、それも結構です!」
ああ、そうか。ドキ胸でもそういう展開あったな。後見人にそれぞれ攻略済み5人がなってくれるっていう。
「……、ジェシカさんの後見には私がつきましょうか?」
「え?」
きょとん顔のジェシカさんは非常に可愛い。
「我がガルディール家は、現在は爵位は低いですけどそこそこ財力はありますし、いわゆる慈善事業に力を入れておりまして、教会からの覚えもめでたいですし。神官長様の御子息でいらっしゃるズーマ様はご存知かと思ってましたが」
「あ」
あ、って。あ、っておま。
「私は女ではありますが、婿養子をとって家の事業は私が引き継ぐ予定です。ジェシカさんさえよろしければ」
「ぜ、ぜひっ」
即決したジェシカさんにちょっと笑ってしまう。
「あら、そんな簡単に私を信用して良いですか?」
「もちろんです!だって、フェディナさんのオーラはとても心地いいのですから悪人のはずありません!」
「オーラ?」
「はい!聖女たるもの、それくらい見えないと、です!」
よくわからないけれど、彼女が彼女なりに根拠を持って決断してくれたなら良しだ。
「では、早速、我が家にいらっしゃいませんか、ジェシカさん。お父様にも報告したいですし」
「はい、ぜひ!あ、フェディナさん、私のことはどうかジェシカ、と呼び捨てになさってください」
「あら、では私のことも、フェディナ、と。ふふ、敬語もなくしちゃおうかな」
「はいっ。では、私も!よろしく、フェディナ」
「よろしく、ジェシカ!」
私たちは、固まる5人はそのままに、仲良く馬車で我が家へと向かった。
***
その後、どうなったかというと。
ジェシカは私の家が後見人となり、聖女としてそして淑女としても立派に成長した。その後、実は故郷に好きな人がいたらしく(幼なじみですって!)色々あったもののその人と大恋愛の末結婚。2人の子宝に恵まれた。
私はジェシカのフォローをしつつ、実家を継ぎ、なんとゲームのフェディナが好きになったキャラ(あ、ゴウ様です)の弟君を婿養子に迎えることになり、これもまたいろいろあったけど、ありがたいことに恋愛結婚をすることができた。子どもも3人産まれて、ジェシカの子どもと年が近かったこともあり、幼馴染として家族ぐるみで仲良くしている。
あと、ジェシカと私で、前世の美味しいもの再現し隊を結成したりもした。
5人の攻略対象たちはというと、それぞれの親御さんたちに「相手の人格を尊重しないで、なにが愛か!!!」とお叱りを受け、性根を叩き直されたのち、それぞれ格のあった方とお見合いをして、それなりに幸せに過ごしているそうだ。
別に波乱万丈もなかったけれど、まあ、そんな悪役令嬢のお話があってもいいかな、なんて思ったりもする。
読んでくださってありがとうございました!!
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11/16 PV、ブクマ、評価本当にありがとうございます嬉しいです!!!
11/17
たくさんのPV、ブクマ、評価本当に、本当にありがとうございます!!!
こんなに評価いただけたの初めてでちょっと泣きそうなくらい感動しています。ありがとうございます!!!
誤字報告もありがとうございます、修正いたしました!
11/18
総合評価1300越えありがとうございます!!
小説家になろう様に投稿初めて、総合評価1000を越えるのが1つの目標でしたので、心の底から嬉しいです。
読んでくださる皆様、評価くださった皆様、ブックマークをしてくださった皆様、本当にありがとうございます!
11/20
あああっ総合評価2000越え本当に本当にありがとうございます!!!
誤字報告や感想も泣けるほど嬉しいです!!
素敵な作品がたくさんある中で、私の作品を読んでくださったみなさまに、心から感謝いたします。




