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衝突、和解。そして新天地へ

 あれから一体どれほどの時間をこうして歩いているのだろう…。

 確かリーティアは、もう少し、と言ったはずだ。だが、既に森は闇に包まれ始め、自分の爪先ですら見えない。少し前にリーティアがランプを灯さなければ、とっくに見失っていただろう。

 辺り一面に広がった漆黒の中で、灯りに照らされ浮かび上がるリーティアの姿が幻想的で、つい見入ってしまいそうになる。





 『それ、やめてくれない?』




 リーティアの声が聞こえた気がして、思わず体がびくり、と震えた。


 

 落ち着け…。まだバレてない…。



 何も悪い事はしていないはず。そもそも、俺がリーティアに怯える必要なんてないんだ…。ただちょっと、気が動転して余計な事言ったかな?て感じはするけど、多分リーティアだって本気で怒ってるわけじゃないだろう。実際こうして案内してくれているわけだし。今はただ、お互い何となく気まずくなっているだけさ。




 実際…、リーティアがいなければもっと前に死んでるんだよな…これ。



 俺一人じゃ、でここまで歩いてくる事は出来なかった。そもそも、あの化け物に受けた傷もリーティアの治療がなければ多分あのまま死んでただろう。その命の恩人に対して、誤解はあったものの怒らせてしまい、あれ以来本当に何一つ言葉を交わしていない。




 リーティアに至っては一度もこっち見ないし…。





 それにしても、リーティアもちょっと言い過ぎじゃない?

 さっきから何度も頭の中で思い返してるけど…。つまりは何気に結構ショック大きかったんだよな…。



 『あんたのような人間は嫌われるよ』




 アイタタタ…



 思い出しただけでなんかお腹痛くなるわ…。そもそも、俺は自分がどんな人間だったかなんて知らないっての。なのにそこまで言い切るか、普通…。




 …あいつに俺の何がわかるだってーの!




 考え事ばかりしていたらリーティアの姿を見失いかけてしまった。幸い、小走りで数歩進んだだけで暗闇にぼんやりと光が浮かんだ。




 よし…!とにかく謝ってしまおう。でも…何に?




 自分でもよく分からないけど、とにかくこの気まずい空気だけでもどうにかしたい…。いや!しなければならない!





 命の恩人を怒らせたのは俺だもんな!



 そうと決めて前を向くと、ついさっきまで小さかった灯がやや大きくなっている。



 お?リーティアが待ってくれてるのか…?



 やっぱりリーティアも俺の事気に掛けてくれてたんだな。正直、もう足を動かすのもしんどいけど、ちょっと急ごうかね。

 近づいてみれば、思った通りリーティアは足を止めて俺の方を見ていた。

 俺は妙に嬉しくなって、思わず駆け寄る。心臓が跳ね、勢いに押されるように浅い呼吸を繰り返す。



 何だよ…。やっぱり、リーティアも俺のこと気にしてくれてるんじゃん!



 そんな俺を見たリーティアの態度は、俺が思っていたのとは違った…。

 俺が嬉々として近づくの見ると、小さく溜息を吐くだけで何も言おうとせず踵を返そうとした。




「ちょっ…!」



 俺は咄嗟にリーティアの持つ灯り目掛けて、腕を伸ばした。ただちょっと引き留めようと、腕の辺りを軽くつかもうとしただけだったのに…。



 ガッ…!!!



「痛ぅ…!」



 伸ばしかけた指先に突然走った鈍い痛みに、咄嗟に手を抱え込んだ。




「…大丈夫か…?」



 一際大きな溜息の後、リーティアが俺を灯りで照らしながらそう言った。




 大丈夫じゃねぇわ!めちゃくちゃ痛いっつの!何で?何で溜息?!



「いきなり掴みかかろうとするからだぞ?」






 どうやら俺が掴もうとした腕を警戒して、思わずランプを持った方の腕を振り回して警戒したらしい…。




 はぁ!?お前は猛獣か何かなの!?何で何もしてない人相手に怪我させてそんな平然としてんの!?



 さっきから言ってやりたい事は山程あるのにあまりの痛さに呻き声しか出ない…。

 じんじんと痛みを増していく指先を、反対の手で強く握る。痛ぅ…!これ、暗くてよく見えないけど結構な大怪我だよね…。

 様子を見守っていたリーティアが近くに来てしゃがみ込んだ。




 ん…?なんかいい匂いする…。いや!言ってる場合か!何!?これ以上何する気!?




 警戒する俺を他所に、負傷した手を掴む。俺は不安になって反射的に手を引いたが、ピクリとも動かない。




 え…。俺より手、ちっちゃいのに力強い…。




「ほら、動くなって。癒しをかけるから」




「え、あ、あぁ…。ありがとう…」




 咄嗟に言っちゃったけど、お前がさせた怪我だからね…?





 思ってはいてもそうは言わない辺り、我ながら割といいやつなんじゃないかと思う。何であっちの世界から追放されたんだろ…。




「はい、終わり」




 肩の傷の時と同じ作業に見えたが、その時間は格段に短かった。何だか釈然としないまま、自分の右手を見つめる。




「まったく…。何がしたかったんだか…」





 リーティアの口調はまるで俺を責めているようだ。怪我させられたのは俺なのに…。

 まあ、言ってても仕方ない。まずはこの気まずい雰囲気を解消するのが先決だ。




「その、さっきの事を謝りたくて…」





 リーティアの一段と大きな溜息が聞こえた。え…何で溜息…?



 


「なら、口で言えよな…。いきなり掴まれそうになったら、誰だって警戒するぞ…?」




 あ、ふーん…?警戒してたら怪我させてもいいんだ。へー…。そんな言われ方するなら謝んなきゃよかったかな…。




「で?」




 ん…?『で?』とは…?




「謝りたいんだろう?」


 

 えー!また??さっき謝ったじゃーん…面倒臭いなぁ…。まぁ、いいけど…。




「さっきはその、悪かったよ…。すまなかった」




「何に対して?」




 えー!?そんなのこっちが聞きたいよ!何で俺が謝ってんのか知りたいわ!怪我までしてんのに!




「わからない…けど…」



 やべ、今のちょっと感じ悪かったかな?まあもういいか。どうにでもなれ。




「……」



 何だよ…。そんな目で見るなよ…。照れるだろ…笑




「お前…本当に反省してるのか?」



 ドキっ…!鋭いな…



「し、してるよ!」 




「ふん、どうだか…」




 背を向けてそのまま行こうとするリーティアを見て、目頭が熱くなるのを感じた。




 あれ?待って何で何で何で泣きそう…?。




 自分でも訳が分からなくなった。確かに謝りたいとは思ったけど、それはこの気まずさを解消する目的だったわけで…。俺は怪我までして謝ったのに信じてもらえないとか…。そもそも何で俺が謝ってんだろ?いや、それは俺がリーティアの機嫌を損ねたからで…いや、にしても…




「あー!もう!」




 思ったより大きな声、出た…。勢いよく頭掻いたせいで毛も何本か抜けてるし。あ、やっぱりリーティアも警戒してる…。でもこっち向いてくれたしまあいっか。




「俺にも分からないけど…!」




 一度ゆっくりと息を吐いて気分を落ち着ける。




「リーティアに何度も助けてもらって…!それなのに、怒らせてしまった事が…情けなくて…」




 そうだ…。恩を仇で返してしまった…。



「だから…その、申し訳なくて…。だから…」



 何でリーティアが怒ったのかは分からないけど…



「ごめん…」



「……」



 我ながら、要領を得ないな…。これじゃ、また怒らせちゃったかもな。



「ふぅー…」



 今日初めて出会ったのに、もうこれでリーティアの溜息を聞くのは何度目だろうな。




「まぁ…わかったよ。よくわかんないけど、分かった」



 短い言葉の中に、さっきまで感じられた刺々しさが無くなっていた。

 少しぎこちない笑顔のリーティアが目の前に立っている。




「俺も、少し大人気なかったかもな。」




 え…。そんな顔でそんな事言われたら…




 いつの間にか臨界に達していた目頭の熱が頬を伝った。



 …やっべ…。はずかし…。




「まあ、今後はお互い気をつけよう」




 はい。





 言葉が出なかった。その代わりに、首を縦に何度も振って頷いた。






「それと…、あまり気軽に体に触れようとするなよ?」



 怪我するぞ、と強い調子でリーティアに再び釘を刺されると、治ったはずの指先がピリリと痛んだ気がした。





「よし…。じゃ、いくぞ」




 気づけば俺達が立っていたのは、草木に囲まれた森の真っ只中では珍しく、土の地面が露出した開けた空間だった。

 リーティアがその場で、右手を宙に翳して何事かを小さな声で呟く。

 何をしているのか気になりはしたが、集中しているリーティアに声をかけるのは憚られ、静かにその様子を観察する。

 瞬間、目の前一面が碧に瞬き、空中には魔法陣の様な紋様が浮かび上がった。




 うぉっ!ファンタジー…!!




 リーティアは更に言葉を紡ぐ。それに併せて魔法陣はその形を変えて、大きな碧色のゲートが出現した。





「ほれ。この先が村だぞ」




 一部始終を目撃してすっかり興奮気味の俺に、リーティアは至って平常な調子で言って、光の中を指差す。




 やっぱりこの光の中をくぐれってことだよね…?



 憧れはしたけど、やっぱ実際自分が体験するってなると、尻込みしちゃうよね…。



「早く行けって」




 リーティアに背中を押され、踏みとどまる事も出来ず、光の中へと飛び込んだ俺は、言葉にならない声を上げながらも無駄な抵抗諦めない。せめてもう少し心の準備をさせてくれ!




「ちょ!真!ばオボじゃぼぼの!」



 ダメでした。



 そのままの形で俺は光の中へと飲み込まれた。




とりあえず一話追加です。

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