第九話 嘘つきと嘘つき
昨日、投稿する時間を取れなかったので、二話連続で投稿します。
「ウォーカーのウォーカーさんの話は合っているとは思いますが、そう考えてしまっていると疲れてしまいますよ。人を疑い続けるだなんて不幸なことですから」
「そういう仕事なんだ」
とウォーカーは冷静に言う。
「そうかもしれませんが、信じられる仲間を作ってみたらどうですか?」
『もしかしたら、この子が君の運命を変えるかもしれない。試しに、仲間に誘ってみたらどう?』
とノアは、ウォーカーの脳に話しかけてくる。
が、ウォーカーは首を横に振って拒絶の意志を示す。
それを見て、レイは不思議だと感じたらしく彼女の仕草をじっと見つめている。
「生憎だが、私の所には嘘つきと腹黒しかいないんでな。そういうことは諦めることにしている」
と少し間が空いてから返す。
「そうですか、残念です」
「で、なんでお前はついてきている?」
「お前って……あっ、名前を言うのを忘れていました。私はレイ・ナナノフ、エクソシストです」
「名前は聞いていないんだがな」
「名前を名乗らないことは無礼に当たるのかなと思いまして」
とレイは恥ずかしそうに頭をかゆく。
「で、レイとやら。何故、私についてきている?」
「ええと、お仕事だからです」
「全く関係ないだろう」
「いや、関係ありますよ」
とレイは引き下がれない様子だ。
「邪魔だ、消えろ」
「いえ、消えません。仕事ですので」
「だから、その仕事は私と一緒じゃなくても出来るだろう?」
とウォーカーはレイを突き放すような調子で言う。
「その、ごめんなさい。私の仕事はウォーカーさんについていくことなんです。大司祭様にそう命じられておりまして」
「私達の監視ということか。なら、確かにお前と私が接触してもおかしくはないな」
とウォーカーはレイに疑惑の目を向けた。
「いえ、あれは偶然です。ウォーカーさんがどこにいるか分からないんで、神父様に挨拶をして、無事に見つかりますようにとお祈りしようかなと思いまして」
とレイは恥ずかしくなってか、あははと小さな声で笑う。
「最初から思っていたが、素直で、馬鹿なんだな。お前」
「素直はともかく、馬鹿とはなんですか。私はこう見えてもエクソシスト試験を首席で突破したんですか?」
とウォーカーはレイを威圧した。
「いえ、実技でも……」
「筆記だろう?」
「はい、筆記だけです」
ウォーカーの圧力に負けたレイは、渋々認める。
「お前は余されているということになるな」
「そっ、それを言わないでくださいよ」
とレイは自分でも自覚していることなのか、相手に改めて言われると心が堪えるものがあったようである。
「だから言いたくなかったんですよ。そういうじと目とかしてくるからぁ」
「なら猶更、付いてくることは止めた方がいい」
「邪魔になるからですか?」
「いや、死ぬかもしれないからだ」
とウォーカーは静かに言い放つ。
「そんなのは承知の上ですよ」
「エクソシストに必要な天使すら使えないのに、か」
「ガッツはありますから」
と言うレイの、無理やりすぎる言い訳に、彼女は苦笑した。
レイは、そんな話から強引に話題を切り替える。
「一つ質問なんですけれど、ウォーカーさんは二人の言い分の内、どちらのことを信じているんですか?」
「私は二人とも信じてはいない」
「なら、ナナ・リタリーの方が嘘を付いているという可能性の方が濃いと思います」
「何故、そこまで神父を盲目的に信じられる? おまえはその現場に居合わせていたのか?」
「いえ。そういうわけじゃありませんよ。けど、分かるんです。神父が女性に対して、無理やりしないってことくらいは」
とレイは相当の自信を持っているらしかった。
「なら、その根拠を話してもらおうか?」
「まず、神父は非常に人柄が良く、清潔でさわやかです。女の子が見失ってしまった子猫を町中を駆けずり回って探したり、町の掃除を率先的に行ったり、沢山の人の悩みを嫌な顔一つせずに聞き続けたりもします。クローリー神父は非常に徳のある方なんですよ」
とレイは熱心に神父のことを語る。
「そして一方でナナ・リタリーは悪者だと」
「そうです。彼女は元々奴隷の出らしいのですが、この町の権力者のフランクルに買われてからは媚びを売り、体を売り、とうとう正妻の座にまでこぎ着けたんです」
「媚びを売る、体を売る、だとかは自分を切り売りしたというだけだ。それだけで彼女が嘘を付くというのは、あまりにも根拠が薄弱だ」
「でも、神父様は良い人ですよ」
「話は平行線のようだ。どちらにしても白黒つけるための情報が必要そうだな」
ウォーカーは早速町の人達にナナ・リタリーと神父のことの聞き込みを開始していた。
このナナ・リタリーとクローリー神父が通じていた事件はかなり有名な事件らしく、沢山の人が知っていた。そのため、色々な情報を得ることが出来た。
そこで分かったことはナナは結婚する何日か前から夫フランクルの浮気を知り、マリッジブルーを加速させていたそうであり、一度は結婚を取り止めようと訴えたものの世間の目というものがあるという理由でいとも簡単に断られてしまったという。
それが原因で不貞行為を働いてしまったのではないかと言われているのである。
また、それとは逆説的な話で、夫のフランクルの浮気はデマであり、そのデマを流すように指示したのはクローリー神父であった。彼は奴隷となる前の彼女と付き合いがあり、そこで好意があったと言うのである。神父になった理由もナナを忘れようとしたということが理由なのではないかという説の二つが大きな勢力であった。
「神父がデマを流したのかどうか、というのが重要な情報ですよね。神父がデマを流していないとすれば、ナナさんが一方的に不倫したということになりますし」
「まぁ、私は二人が教義を使って通じていたのかどうかが分かればいいんだがなぁ」
とウォーカーは思ったよりも大事になって来たなと溜息を吐いた。
「ここはとことん真実を追及するべきです。じゃないと禍根が残ると思います」
「残ろうが知ったことではない」
「そういうなら私、報告書にあることないこと書いてしまいますよ」
「なに? おまえは嘘を付くつもりか?」
「ウォーカーさんがきちんと捜査するならしません」
「はぁ……最悪だ」
とウォーカーは肩を竦める。
「いえ、そんな。でも、よろしくお願いします。ウォーカーさん」
「ああ」
と返事した一方で心の中ではとっとと仕事を終わらせて別れてしまおうと考えていた。
「と言っても、これ以上は調べようがないぞ」
「この町には情報屋がいるんです。裏道に行けば会えますよ」
「なら、そいつらに頼るとするか」
レイの話によって、捜査を再開したウォーカー達は裏道へと向かった。町民から引き出せない情報を持っている情報通の話を聞くためだ。
裏道は、陰になっていて日の光の当たらない暗い場所だった。そこで、民家に腰掛けて二人のことを見つめている人物がいた。
その人物は毛髪が乏しく、残りの毛髪もまばらに散っている。小太りの中年男性であった。二人を見つけて立ち上がる時も、その動作は非常に緩慢であった。
「よう、お嬢さん方」
その男性は二人に向けて気楽な口調で挨拶をしてくる。
「おまえは何者だ?」
「俺かい? 俺はデグナ・ラクーン。情報屋だ。あんたらのことも当然聞いているぜ」
「なら、有名な例の事件のことも知っているな?」
「ああ、当然知っている。そのために俺はここであんたらを待っていたと言っても過言じゃないぜ」
とデグナはにやりと二人の方を見て、シニカルな笑みを浮かべたのであった。