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ウォーカー・ウォーカー  作者: マイケル・フランクリン
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第六話 ゴールズの行方

前回の続きです。2/17日以降から一話ずつの投稿になります。

 グロウリコーの酒屋の一階は凄惨な光景が空間を支配していた。ウォーカーの胴体が切断されて、下肢がすっと立ち続けている。

「なんて気持ち悪いんだ」

「ああ……ウォーカー。こんな可哀想な死に方をするだなんて」

 ハイレーンはこの光景を気持ち悪く思い、アルはウォーカーの惨たらしい状態に対して悲嘆に暮れるのであった。

「あいつは口だけか。とはいえ、下級の悪魔にしては凄いパワーだな」

 偽ヘシオドスはウォーカーに対して何の感情も持っていないのか、どこか冷めていた。

「いや。彼女はこのままでやられるような人じゃないよ。彼女にも僕等と同じくらい強大な悪魔を感じ取れたんだ」

「リタ? それはどういうことだ?」

「大罪の悪魔と契約を結んでいるのさ。僕等と同じようにね」

「とはいえ、こうなっちゃどうしようもないだろ。死んだ人間が生き返る訳でもあるまいし」

 偽ヘシオドスはリタの言葉をあまり信じられていないようで、どこか冷静だった。

 そんな風にウォーカーのことを話し始めている時のことである。

 下肢から淡い光が放たれたかと思いきや、ウォーカーの上半身が強烈に発光した。光子が下肢を描き、姿を現す。その両足を使い、平然とした調子で立ち上がるのであった。

「中々の速度と一撃だったな」

「ひゃ……ばっ、化け物」

 アルは泡を吹いてその場で気絶をしてしまう。

 ハイレーンはただ、ただ、この光景が恐ろしくなってその場から逃げ出していった。

「おお、素晴らしい能力だ。体を治してしまうだなんて」

「魔力を使って体を回復したってことか? それにしても異常だぜ。その速度はよ」

 とリタが感心する一方で、偽ヘシオドスはその能力を戦慄を覚えているようであった。

 また、厳格教育も自分が真っ二つにした人間が平然と二足で立ち上がっていることに恐ろしいと感じているのか、怯んでいる様子だ。

「怖いのか? 十三歳の女が」

 とウォーカーに言われると厳格教育は、露骨に怒りを見せる。自分の中にある自尊心が刺激されたのであろう。

 カンカンになって、その腕を振り回す。

 冷静さを失っているためか、動きは極めて単調だ。それをウォーカーは大した労力を使わずに躱し続ける。

 それにムキになって、厳格教育は攻撃を続ける。

 ウォーカーは躱すだけでは飽き足らず、厳格教育の剛腕による攻撃を片腕で容易に受け止めて見せた。

「なっ? 膂力にあんなにも差があるはずなのに、いとも簡単に受け止めてしまうだなんて」

「一瞬だが、小さい爆発が生じていた。それによって、加速し力のピーク前に打ち消したんだろう」

 偽ヘシオドスはウォーカーの戦いぶりをじっくり観察していた。そして、怖いものを面白がって見るような気分のようで、にやにやと笑っていた。

「憐れな悪魔よ、おまえの旅路を終わらせてやる」

 と言うと、ウォーカーは厳格教育をきっと見つめた。彼女の体から、淡い白い光が発せられていく。その光は、色憑きにとってはなによりも忌避するもののようである。厳格教育はブルブルと震えながら、一歩ずつ引き下がる。

「ユルシテ……クレ」

 片言で命乞いをし始めるのである。

「とっとと冥府へと旅立て。それがおまえの赦される唯一の方法だ」

 とウォーカーは厳格教育の命乞いを切り捨てる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 自棄になった厳格教育は、ウォーカーに突っ込む。

 しかし、ウォーカーの体にそれが衝突することはなかった。

「次は私の番だ」

 一足飛びに爆発の推進力を加えて、厳格教育の下に向かっていく。

 その速度は厳格教育では追えないようで、辺りを見回している。

 その間隙を狙い、ウォーカーは厳格教育のどてっぱらに小規模であるが、凝縮された白い炎を撃ち込んだ。

「その白い炎はまさかノア? あの大罪の悪魔ノアなのか?」

 リタは自分の読んだ書物通りの能力を持っているウォーカーに対して、驚きを禁じ得なかったようである。

「ノア? 創世記の大罪人とされるあの、ノアか?」

 と偽ヘシオドスはリタの仮説に驚愕したのか、素っ頓狂な声を上げる。

「ノアは、嘘の予言を吹き込まれたんだ。だから、ノアを大罪人と呼ぶな」

 とウォーカーは二人がこそこそ話しているのを聞いて、二人に強く言いつけた。

「ノア。それは知っているから安心してくれ」

 とリタは言う。

「リタ。何故、それをお前が知っているんだ?」

「それは教えられないよ」

 とリタは偽ヘシオドスの詮索から逃れるためか、努めて冷たい声で言い放った。

 二人がそう話している内に、厳格教育は淡い光の粒となって消えていった。この世から冥府のあるあの世へと旅立って行くのである。

「終わったな。これが悪魔祓いか」

 とウォーカーはどこか悪魔祓いは退屈な仕事だなと思いながら、その場に立っていた。

「凄いね、ミスウォーカー。感心したよ」

「別に大したことはしていないだろう」

「いやいや。それでもだよ。とても凄いことだよ。これは」

「ああ。一人で悪魔を冥府に導くことはそこらのエクソシストでも、俺達ウォーカーでも中々出来ることじゃない」

 と偽ヘシオドスはウォーカーの実力を認めて見せた。

「アルと、ハイレーンを呼び戻すとしよう」

「いや。そこら辺はいいと思うよ」

 リタはウォーカーが呼び出そうと店の外に出ないように声を掛けた。

「何故だ。教えてやらなければいつまでも戻ってこないだろう」

「アルとハイレーンは君のことを恐れていたんだ。君は戦いの途中だから気付いていないだろうけどね」

 リタに言われて、ウォーカーは初めて気付いた。

「私はもう、普通の人間ではないんだな」

「悪魔と契約した時点でとっくのとうに人間なんて辞めているのさ」

 と偽ヘシオドスは肩を竦める。

「でもね、ウォーカー。その能力できっと沢山の人間を救うことは出来る。君は人との関わりを完全に断たなくてもいいんだ」

 とリタはウォーカーが落ち込んでいると思ってか、フォローの言葉を掛ける。

「人と関わるのはどうでもいい。だが、私が強いということを知れたのは良い経験だ」

 とウォーカーは不敵に笑っている。

「いやいや、こちらも助かったよ。君のお陰で非常に早く仕事を終わらせることが出来たよ」

「なら、茶でもしていくか? そこの嬢ちゃんも混ぜて」

「なら、聞きたいことがある。いいか?」

 とウォーカーは二人に問う。

「長くならなければきいてやる」

「それは二人次第だ」

 とウォーカーは偽ヘシオドスに対して冷静に切り返した。

「なら、ここに我等ウォーカー御用達の喫茶店があるからそこでお話をしよう」

 とリタが切り出した。三人はこの場を後にして、リタの言う喫茶店の奥側のボックス席に三人で据わった。

「二人はゴールズという奴らを知っているか? 私達の村はそいつらに襲撃されてしまったんだ」

「知ってるよ。実はゴールズは僕達も追っているんだ」

「本当か? なら、ゴールズのことについて教えてくれ」

「ゴールズは東洋医科学団の後進国特務部隊。つまり、後進国の人間を使って医学的な実験をするために送られる武力グループさ」

「東洋の人間が何故わざわざそんなことを」

 ウォーカーは疑問を口にする。

「このアースは従属国と以外交易をしない鎖国国家なんだ。そしてその期間はなんと千年にも及ぶ。何故、そんなにも長期間鎖国が出来たかというと……」

「このアースはいくつもの島が国として成立している群島国家だ。それに、ここら一帯の気候は非常に荒い上に変わりやすい。そういう天然の自衛装置が働いていたことが原因だ」

「そっ、そうだ。で、そんなにも長い間鎖国していると、他の国の状勢を知らない状態になる。アースと、東洋の技術では五百年以上ものの隔たりがあるんだ」

「ここではない医療概念が、東洋ではあるということか」

 とウォーカーは頷く。

「で、一見するとゴールズは関係ないように見えるだろう?」

「そうだな。結論を言ってくれ」

「東洋の人間はこう考えるんだ。五百年以上も技術が置いて行かれているアースは未開発の部分が多い。ということは自国より自然も豊かで、様々な資源が豊富に残っているのではないかと。その資源は石炭や金等の鉱物のみじゃない」

「まさか人間?」

 ウォーカーはリタの言葉から最悪の結論を想像してしまった。

「そう。彼等はアースの中でも特に田舎を狙い、悪魔に適性のある人間を攫って行くんだ」

「そうか。それで姉上が攫われたのか」

 とウォーカーは悔しさのあまり歯噛みする。

「そう。彼等ゴールズは、その名前の通り、人を食らう悪魔ゴールを投与する薬を完成させた。その薬を投与して、最強の悪魔戦士を作っているんだ」

 とリタは言う。

 ウォーカーはただ、黙ってそれを受け入れた。自分の弱さが招いた事態が、それなのだ。屈辱と、どうしようもない理不尽に対する怒りと、姉を守れないことによる悲しみとが混ざり、自分の体の中の血流を速くさせた。

「不快にさせたかい?」

「いや、事実を聞けたからいい」

「そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ」

 とリタは慇懃に振舞う。

「ゴールズは私が皆殺しにしてやる」

 ウォーカーは小さい声で呟いた。

「そこで提案したいことがあるんだ」

「提案したいこと?」

「僕達ウォーカーに協力してくれないか?」

「それで、何のメリットがある?」

「君はゴールズの情報を集めることが出来て、かつ僕達は僕達で戦力を増強することが出来る。お互いに価値があることだと僕は思っているよ」

 とリタは返す。

「本当だろうな」

「ああ。情報を集めるということに関しては君一人で旅をするのと比べて数倍程度の情報を集められるはずだ」

「分かった。ウォーカーに協力しよう」

「ありがとう、ミスウォーカー。君には運命を感じていたんだ」

 とリタは頭を下げて、彼女の手を掴んだ。


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