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ウォーカー・ウォーカー  作者: マイケル・フランクリン
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第五話 ミスウォーカーの初悪魔祓い

前回の続きです。

「僕は毎度おかしい夢を見るんだ。夢の内容はばらばらだけど、二重に夢を見るんだよ」

「それは恐らくですが、二重夢といって体や心が疲れている時や失敗してしまった時によく見る夢です。ハイレーン君は何か心当たりはありませんか?」

 リタはハイレーンの症状に対して一つの答えを出す。

「疲れている? そういえば仕事で酷く疲れているかもしれない。それに、仕事もよく失敗していて、親父から無能が死んでしまえと言われたりしている」

「そういう心の負担から、二重に夢を見るという奇妙なことが発生してしまっているんですよ」

 とリタは返す。

「じゃあ、手が震えるのはなんでだ?」

「いつ頃から手の震えが始まりましたか?」

「三カ月前からかな」

「手の震えの原因の大半は本能性振戦やパーキンソン病かと思われます。とはいえ、それだけの情報で決めつけることは出来ないので、もっと聞いていこうと思います。あなたは酒屋のご子息ですが、隠れて飲酒をしたりしていませんか」

「飲んで……ない」

 とハイレーンはなにか濁そうとしてか語尾が弱々しくなる。

「ハイレーン。正直に答えろ」

「はい。飲んでます」

「どの種類をどのくらい飲んでいますか?」

「親父の作るビールをこっそり飲んでいる。飲める奴が酒蔵のどこにあるか分かるし。親父に怒られ始めてからは毎日酒蔵に忍び込んで飲んでいる」

「で、直近でもビールは飲んでいますか?」

「いや。親父に飲酒がばれてからはこってり絞られたし、飲めるビールは隠されたから飲めていない」

「成程。だとしたらですが、あなたはアルコール依存症に陥っています。その手の震えはアルコールが抜けたことによる症状でしょう。また、睡眠の質が低下してしまっていることが原因で、二重夢を起こしているのです」

 リタは今度は、ハイレーンにも分かりやすいということを心掛けて丁寧に説明する。

「なら、すごいイライラして」

「典型的な寝不足でしょう。寝不足と二日酔いが酷い不快感をもたらしているのです」

 リタはふふと笑って、突っ込みを入れる。

「気持ち悪いんだよ」

「ただの二日酔いだろ。この酒ダルマが」

 ウォーカーはかっとなって突っ込みを入れた。

「もう、ネタ切れです」

「結局酒が飲めないから発狂していたのか? 馬鹿かおまえは」

「ごめんなさい」

 とハイレーンはうな垂れていた。

「これで事件は終了か? 意外にしょうもない結末だったな」

 とウォーカーが締め括る。

「いや、親父には悪魔が憑いているかもしれない。昔は全然怒らなかったのに、いきなり怒るようになっていったんだ」

「君に対して厳しく指導していただけなのでは?」

「いや、なんというか別人になってしまったという感じがするんだ」

 ハイレーンは自分の父親のことを思い出してか、体を震わせる。

「リタ。調べるか?」

 偽ヘシオドスが問う。

「念のため調べておきましょう」

 とリタが答える。

「私はこの馬鹿に苛立っているだけだと思うんだがなぁ」 

 とウォーカーはハイレーンの事件を見てから、悪魔と呼ばれるものの大半が実は、こういう下らない結末なのではないかと思えて来てならなかった。

「いえ、念のためです。この現代社会は非常にストレスが溜まりやすいので、悪魔が憑りつきやすいんですよ」

「なのに悪魔を使役出来る人間が少ないというのは変な話だな」

「それは悪魔が自分の心の動きに影響するからですよ。それが、ウォーカーのメンバーがたった二人という理由です」

「悪魔に憑かれることは出来ても、悪魔と共生することは出来ないということか」

「うん。僕等は思ったよりも心の動きをコントロール出来ていないっていうことになるね」

 とリタは話を総括した。

 二人の話を聞いているハイレーンと偽ヘシオドスは茫然と二人のことを眺めていた。

「この医学馬鹿も大抵だが、ミスウォーカーも大概だな」

 とひきつった顔で呟いていた。

「さっきから無駄にでかい音をたてているが、なにをしているんだ?」

 ローエンは苛立ち気味に三人と、部屋から出てきた倅のハイレーンのことを見つめていた。

「息子さんに悪魔がいないということを証明し終わりました」

「なに? じゃあ、何故息子は部屋に閉じこもっていたんだ?」

 とローエンは要領を得ていないようである。

「僕、その、アルコール依存症とかっていうやつらしくて、それで手がブルブル震えてしまうんだ。だから、悪魔が憑りついているからおかしくなったっていうわけじゃないんだよ」

「つまり、お酒に依存してしまって、そのお酒が切れてしまっている時に出る症状の一つとして手の痙攣や幻覚、睡眠障害が起きてしまっているということなんです。だから、ハイレーン君には断酒を徹底して、依存心を無くしていけば元通りになると思いますよ」

 リタはハイレーンの言葉に付け加えて説明する。

「成程。うちの息子はまともに酒を飲めなくなってしまう程、酒におぼれたと? しかも、俺に隠れて酒を飲んだのが原因で? 酒屋の息子が飲酒の法律を守らないだなんてどういうことだ? ふざけるんじゃねぇ」

 とローエンの額に青筋がたつほど力が入る。拳もぎりりりりという音が聞こえるほどに強く握られていた。

「お父さん……」

「ローエン……」

 ハイレーンとアルは狂暴そうな姿になったローエンのことを見つめている。

 その一方でリタは慣れた光景とでも言わんばかりの調子で、彼のことを見つめていた。

「これは、黒ロザリオで見るまでもありませんね」

「ああ。完全に悪魔化デビルチェンジしているな」

 ウォーカーもリタに同調する。

「さながら名前は厳格教育スパルタって所か?」

 偽ヘシオドスは皮肉気にこの光景を見ながら言う。

「息子さんに完璧を求める心に悪魔が付け込んだか」

 とリタは様変わりしているローエンを見つめながら呟く。

「悪魔に憑かれたとはいえ……ローエンを殺すだなんて出来ないぞ」

「憑いて時間は経っていない。所詮下級悪魔です。私達が日ごろから相手にしている奴とは比べ物にならないくらい弱い」

 とリタは悪魔のことを冷静に分析している様子である。

「つまりどういうことだ」

 ウォーカーは悪魔と対したことがないので、リタに聞き返す。

「つまりはですね。剥離リヴュアリングが起こりやすくなるということですよ」

「主の魔力を使って、悪魔が姿を現すのか」

「はい。もう少し待ちましょう」

 とリタはウォーカーの動きを制するように彼女の前で腕を伸ばした。

 ローエンの体から力が抜けてきたようで、彼自身は前のめりに倒れている。

 その代わり、彼の微小な魔力を奪った厳格教育が新たな姿を持っていた。頭頂部に二つの角、浅黒い肌に棘と思わせる固い毛に全身が覆われている。体格はローエンより一回り大きかった。そのため、この店では一番巨大で、狂暴な存在となっていた。

「ようやく剥離しましたか」

「これで、悪魔をぶちのめせるわけか」

「ええ。思い切りのしてしまっても構いませんよ」

「リタ。ここは私に任せてくれ」

「ええ、ミスウォーカー。あなたの能力を見せてください」

「ああ」

 とウォーカーは答える。やる気を漲らせて、厳格教育に拳を構えるのであった。

 厳格教育は、そんなウォーカーを剛腕の一薙ぎで振り払う。胴の所に直撃して、胴が下肢と離れていく。上半身は、店の床に着いてしまい、下肢は動かないままであった。

「おいおい。なんてことだよ。ウォーカーがこんなにもむごたらしい姿で……」

 ハイレーンは凄惨な光景を見て、眩暈を覚えたのであった。


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