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ウォーカー・ウォーカー  作者: マイケル・フランクリン
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第一話 故郷は燃ゆる

初投稿させていただきます。楽しんでもらったら嬉しいです。

 チビナ村はある辺境の村だ。特徴といえば、十二神教で一番小さいとされるアルテミス教の唯一の信者達が住む村だ。

 そんなチビナ村に貴族のホーイン家から追放された元貴族の平民が移住して生活していた。追放されたのは父親一人と、娘二人の三人だ。父親のコーキンス・ホーインと長女アイナ・ホーイン、次女のウォーカー・ホーインの三人はこの田舎のチビナ村に住むことに悲観するどころか、親しみすら持つようになっていたのである。そうして三人はようやく安住の地に辿り着くいたのだ。だが、それは末っ子のウォーカー・ホーインが十三歳の時に打ち砕かれることになる。

 その始まりは春小麦を収穫する晩秋の頃であった。村の畑はすっかり小麦の小金色に染められていて、村人達はそれの収穫に励んでいた。

 その日は収穫祭の日であると同時に狩猟の女神であるアルテミスの降誕を感謝する日でもあった。

 本来は熊を収穫して祭壇に捧げるのだが、熊を狩れる男衆がいないことや、力のない老人や女子供が多いだけにそれが非常に難しいのであった。そのため、それの代用としてそれぞれの家から一束の小麦を祭壇に捧げることが慣習となっていたのである。

 収穫と同時に、降誕祭の準備も進められそれらが無事に終わった。

 そして、収穫祭兼降誕祭が開始された。その時には、村はすっかり暗くなっていた。松明を灯して、村を明るくする。

 村人達が集まって、円を作り、祈りを捧げた後に踊りを楽しむと後は隣にあるサビシ村の酒屋のグロウリコーから買い付けた酒を飲んだり、収穫した小麦を使ったパンを食べたりしながら騒いでいた。

「アイナは十七で、ウォーカーは十三か。ここに住んで三年が経つのか」

 アイナとウォーカーの父親であるコーキンスは大分酒に酔っているようで、二人の肩に手を回しながら絡んでくる。

「お父さん。飲み過ぎじゃないの」

「そうだ、父上。飲み過ぎはよくないと思うぞ」

 アイナとウォーカーの二人は酒を飲み続ける父親に説教する調子で口うるさく言った。

「いいじゃないか……あの、だね。いいんだよ」

 コーキンスはそんな二人の言葉に反論しようとするが、酒の酔いが回っているためまともに反論することが出来ない。

「いい加減にしろ、父上」

 とウォーカーが一喝するが、彼はそれを聞かない。

「ハイネ。ハイネよ。おまえの娘のアイナは可愛らしく育っているし、おまえが死んだ後に出会ったウォーカーも非常に美しい女の子になっているぞ」

 むしろ自分の世界に入り込み、二人のことをべた褒めし始める始末だ。

「もう、お父さんったらべた褒めし過ぎだよ」

 とアイナは恥ずかしくなって笑っていた。とはいえ、コーキンスが褒めるだけの容姿は確かに持っているように思えた。

 桜色の髪をポニーテールでまとめている。翡翠色の目は宝石を想起させ、なめらかな白い肌は絹を想起させるほどに柔らかく、光沢がある。そんな彼女はどこか人離れした可憐さを持つが、愛想のよい性格と可愛らしい体躯によって皆から愛されていた。

 そんな彼女とは正反対に、髪は夜空のように黒く、目鼻立ちがはっきりしている。唇は薄く桃色で四肢は長い。清らかな黒い大河という形容がしっくり来る人外の美しさを持っていた。その高身長で、女性らしい曲線美が浮き出ているというのが村の男達を惹きつけて止まなかった。

「おいおい。この村の綺麗所を独り占めにするなよ。コーキンス」

 と四十代の禿頭の男性はコーキンスにタックルをかましてくる。

「おいおい、ハロルド。酔っぱらっているにしたって酷いぞ」

 コーキンスは笑いながらじゃれてくるハロルドにろれつの回らない調子で返した。

「うるれぇ」

「ったく。あんたは行くよ」

 とハロルドの妻と思われる四十代半ばの女性が彼の首根っこを引っ張って連れていく。

 そんな光景を村人達が見て大笑いしていた。

 時間が経ち、宴も酣になっていた頃に事件が発生した。

 村から黒い装束に身を纏った歳も性別も分からない者達が黒い筒状のなにかに取っ手を付けたものを構えて現れた。そんな彼らの親玉と思しき者は白い骸骨の仮面に、フルプレートの鎧に漆黒のマントを羽織っていた。その者の身長は馬に乗っていることを加味しても人の頭一つ分は抜けている。その者は手下の従者の持っていた筒状のなにかを二つ構えた。そして、従者の人垣を割いて、村人の前で声を張り上げる。

「チビナ村の敬虔なアルテミス教信者に告ぐ。貴殿等にはアルテミス信教の信仰を棄教してもらいたい。さすれば、この村での平穏な生活も保障するし、我々が強硬手段に出ることはない。チビナ村の賢い諸君ならば身の程わきまえて、確実な選択をしてくれるだろう。時間は有限だ。早々に、決断してくれ」

「俺達はアルテミス様の教えを捨てるわけないだろうが。俺達の命はアルテミス様と共にある」

 とハロルドはすっかり酔いが覚めている様子だ。立ち上がった彼は毅然とした表情を作りながら、警告をした主の下へと歩いていく。

「これより一歩向かうと撃つぞ」

「うるせぇ。ちゃちなおもちゃなんて構えているんじゃねぇぞ」

 とハロルドは威勢よく食ってかかった。

 すると、ドンという発砲音と共に、筒状の物体から弾が放たれた。ハロルドはそれに胸を突かれて、小さく呻いた後倒れていく。

 それと同時に村人達から悲鳴が湧き上がる。

「なにをしたんだ?」

 コーキンスはハロルドの下に駆け寄り、彼が息をしているかを確認する。自分の手を口に当てて呼気があるかを確認するが、その息が彼の手に吹きかけられることはなかった。

「これは銃という。外国から仕入れたものだが良い品だ」

 蒼白するコーキンスの顔を見て、どう思ったかは分からないが白い骸骨の仮面の男は淡々とした口調で話した。

「その武器で我々を脅迫しようというのか」

「暴力を扱う者は、扱われる者より遥かに強大な力を持っていなくてはならない。だから私は、こんな辺境に訪れる時でも最新鋭の装備を整えることを欠かさないのだ」

「お前たちの気持ちは分かった。だが、我々は信仰を捨てることは出来ない。どうにかご引き取り願おう」

「それが出来ないからこうして来ているのだ。最初からそれが出来るのなら、こんな場所まで来る必要はない」

「目的はなんだ?」

 コーキンスは白い骸骨の仮面の男に問う。

「祖国のための礎になってもらうことだ」

「棄教以外で協力出来ることならなんでもする。何をして欲しいんだ?」

 とコーキンスは組織の親玉に問う。

「なら、若い女を寄越せ。そう。貴様の後ろに隠れている二人なんかが丁度いいな」

 と白い骸骨の仮面の男は、二人のことを指さした。

「他にはないのか?」

 とコーキンスの表情はとても険しかった。

「ないな。我々の要求に従えないなら、こんな時代遅れの町に価値はない」

 とコーキンスに言い返す。

「我々にとってアルテミス様は心の支えであり、生活の礎となっている。貴殿らのように、簡単に捨てられるというものではないのだ。そこはどうにか理解してほしい。それが村民の総意だ」

「成程。村民の決意はなんと固いことか。村民の死という現実がありながらもここまで強い意志を持てるとは感動物だ。だが、それが災いしたようだな」

 彼は一瞬コーキンスを認めるような調子で話していたが、一転して彼を突き放した。白い骸骨仮面の男は黒い筒状のなにかを構えて、ハロルドの傍にいるコーキンスを撃った。

 するとまたもや悲鳴が響いた。中には卒倒してしまう者もいるほどであった。

「あいつ、父上を殺した?」

 とウォーカーが怒り狂っているのを、アイナは必死に抑える。彼女は抵抗した所で、彼等に勝つ方法はないのだということを分かっていたからだろう。

 そんな二人をよそに、白い骸骨仮面の男は話を進めていく。

「さて。二人死んだところで改めて問う。アルテミス教を棄教しろ。さすれば、我等神の遣いであるゴールズは貴様等に平和な生活を提供しよう」

 白い骸骨仮面の男は村民達に向かって演説をするが、村民達にはそんな言葉は聞かなかった。

 村人達は一斉に、ゴールズの頭の男に立ち向かっていった。

「言葉の通じない野蛮人は全員、皆殺しにしろ」

 と言うと、彼は後ろに下る。黒いローブを着た従者が構えて一斉に射撃を行う。それを躱し切れずに、村民等は次々と殺された。倒れていった彼等の中には薄い血の化粧を施されたかのような者もいれば、服を血で染めてしまっている者もいた。

 それを見て、ウォーカーは自分がとてつもなく恐ろしい目に遭っているのだということをようやく自覚出来た。すると、足がすくんで動けなくなってしまう。

「ウォーカーちゃん。早く逃げるよ」

 とアイナがウォーカーの手を引いて走っていく。

「姉上。ここで仇を討たなければ」

「今は私達が生きることだけを考えて。ここで立ち止まって皆死んだら意味がない」

 とウォーカーの抗議を打ち切る。

「あの二人のガキはどうしましょう」

 と一人が白い骸骨の仮面の者に尋ねる。

「生け捕りにしろ」

「例の薬を投与するんですね」

「ああ。ゴールの検体は多ければ多いほどいい」

 という指示を下すと、その指示に従い彼等は二人を追い始めた。


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