比較的安全なのに絡まれた(感覚麻痺
「……なんだこれ?」
街の北東の地区。
そこが面白いとルーナに言われてやってきたわけだが、一本の大きな道を境に、明らかに寂れた……というかぼろい建物が並ぶあたりに出た。
「旧市街とかいうやつか?」
単純にぼろいだけならともかく、古い街だとしたら歴史的な価値のある建物もあるのかもしれない。
そういうものが多い地区なのか?
「んー、でも人通りが極端に減ったというか」
むしろ人を見かけなくなったような。
いやちらほらとは見かけるのがだが、なんだか俺を見るなり胡散臭そうな目を向けてくるし、道端にうずくまるように座ったそれらの姿には覇気がない。
なんだか放っておいたらそのまま朽ち果てるまで身動きをとらなさそうで、言葉では上手く言い表せない不安を感じる。
もしかしなくても、ここ観光目的で来るような場所ではないのでは?
「おおっと、待ちなそこのガキ!」
「ここは通行止めだぜ!」
そんなことを考えながら歩いていたせいか、反応が遅れた。
何やら品のなさそうな声が響いたと思ったら、これまた品のなさそうな服装の三人の「ガキ」に囲まれていた。
「へっへっへ。なんだこの喧嘩もしたことのなさそうなボケたツラしたお坊ちゃんは」
「迷子にでもなったのか。ああん?」
「なんなら案内してやるからよう。分かるだろ。俺たち金に困ってるんだよねえ」
背が高いのと痩せっぽちなのとふとっちょ。
何だか個性的な、俺とそう歳の変わらなさそうな少年三人が、にやにやと人を小馬鹿にしたような顔で好き勝手な言葉を並び立ててくる。
着ている服は腹が出てたり、中途半端なたけですねが見えてたりとだらしなく、なるほどこれが不良というやつかと納得する。
いや納得してる場合じゃねえよ。
不良に絡まれてんじゃん俺。
いやでも何で子供とはいえ剣持ってる相手に絡むかね。もしかして飾りとでも思われたのか。
「金が欲しいなら働けよ。見たとこ健康そのものじゃねえか」
「何だとぉ!?」
「てめえみたいなお坊ちゃんに何が分かるってんだ!」
「苦労なんざしたことありませんってツラしといてよお!」
「えー」
誰がお坊ちゃんだ。
こちとら農家の息子だし、ここ最近苦労してばっかりだぞ。
というか代われるなら代わってくれ頼むから。
「いいから金出せつってんだよ」
「うお!?」
何が爆発のきっかけだったのか、痩せっぽちが突然こちらに殴りかかってくる。
しかしその攻撃は大きく振りかぶって見え見えな上に、体重も乗ってない素人そのもの。
半歩だけズレて飛んできた拳を避けると、防御なんぞ考えてない相手の顔面が目に入り反撃しそうになったが、街の喧嘩でどこまでやっていいもんなんだコレ。
「とりあえず、てい!」
「いってえ!?」
剣を抜くのは論外。かといって思いっきり殴って酷い怪我をさせたらさらに逆上しそうなので、平手で思いっきりビンタしてみた。
パチンと小気味良い音が古い街並みの中に鳴り響き、痩せっぽちが自分の頬をおさえて大袈裟にうずくまる。
「てめえ! やんのかこらぁ!」
「いや先に仕掛けたのおまえらじゃん」
「てめえさっきからよお! 正論は時に人の神経逆撫でするだけだって母ちゃんに言われなかったのか!」
「正論言われてる自覚あるのかよ」
なんというか、色々だめだこいつら。
ともあれ大人しく殴られる趣味はないし金を出すのも嫌なので、街の不良相手にストリートファイトすることが決定した。
来るんじゃなかったこんなとこ。