嵐の前の静けさというか台風の目
「本当に観光だけして終わった」
日も陰ってきたので教皇の屋敷に帰り、出された飯を食いながら本日の出来事を振り返る。
いや本当にただの観光だったぞ。特に何か変な人間が接触してくることもなかったし。
ちなみに美術館に行ってみたら教皇が出してきたゴーレムのモデルらしき大きな像があった。
なんでも女神の配下の戦神をイメージした像らしい。
神官が神様模したもん使役していいのか。
「美術館とか行ってもつまらなくない?」
「どっから湧いた」
俺はあてがわれた部屋で一人で飯食ってたはずなのに、いつの間にか俺の隣に座り頬杖つきながらこちらを見ているルーナ。
どうやら教皇は俺が小市民気質なのをよく分かっているらしく、使用人は見かけるし食堂らしき部屋もあるのに俺の部屋にわざわざ食事をとどけさせ一人で食べさせてくれている。
いくら食事が美味しくても背後に控えられてたら食べづらいんだよなあってそうじゃなくて。
「いやマジでどっから入って来た。というか年頃の女が男の部屋に入ってくんじゃねえ」
「大丈夫。襲われても気にしないから」
「俺が気にするからやめて?」
というかむしろ俺が襲われそうな状況ではこれ。
神子の力は俺には効かないが、例えば縄を操って縛り付けるみたいな物理現象を介した「命令」は俺にも普通に有効だろうし。
いや案外俺が縄に触った瞬間その動きが止まったりするのか?
どのあたりまで無効化できるのかの境目が分からん。
「というかおまえは教皇の言いなりでいいのかよ」
「うーんレオンのことならそれなりに気にいってるし、それ以外のことはどうでもいいかな」
「どうでもいいって」
「そうどうでもいい。こんな世界」
そう言って微笑みながらこちらを見てくるルーナだが、目が全く笑っていなかった。
何この子恐。
しかし言ってることは本気っぽいし、教皇の望みもルーナにとってはどうでもいいということだろうか。
ただ自分に害がないので好きにすればいいとかそんな感じ。
え? こいつ神子だろ?
なんでこんな一歩間違えれば世界滅ぼしそうな性格してんの?
親の顔が見てみたいってさっき見たわ。
「じゃあもし教皇が俺と結婚するのはダメだとか言い出したら」
「死ねばいいと思う」
「そっかー」
何この子恐(二回目
というか何で俺はこんなに気に入られてんだよ。
知らんところでこいつに何かしてたのか。
「こんな街を観光してないで、東大陸に行ってみない?」
「気軽に大陸移動すんなや。というか東大陸?」
「うん。大陸の中央に大きな亀裂が入っててね、そこから悪魔が湧いて出てくるんだよ」
「何その終わってる大陸」
魔物じゃなくて悪魔って、それ女神と敵対して封印された連中だろ。
なんで気軽に現世に這い出てきてんだよ。というか遊び感覚で悪魔を見に行くな。
女神の声が聞こえないのといい、実はこいつ神子じゃなくて新たな魔王では?
「そういう命がけにエキサイティングしなくていいから、比較的安全で楽しそうなとこはこの街にないのか?」
「うーん。だったら北東の方の地域とか。この街にしては退屈しない場所だよ」
「またえらい大雑把な。何があるんだよ」
「秘密。事前に言ったらレオン驚かないかもしれないし」
何らかの施設じゃなくて地域ねえ。
何かの店でも集まってるのか。
そう思いながらも翌日俺はその北東地域に赴いたわけだが、比較的安全(ルーナ基準)というのが俺にとって安全なのかどうか、よく確認すべきだったと後悔することとなった。




