観光開始
拉致されたもののどうにもならないので、開き直って飯をかっくらいあてがわれた部屋で寝た次の日。
どうやら教皇は本当に俺を観光させたいらしく、硬貨の入った小袋を渡された上で街中に放り出された。
いやマジで何がしたいんだあの爺さん。
しかも渡された硬貨の中に金貨が何枚かあったぞ。何買わせる気だ。
小さい店だとお釣りだすのにも困る価値だぞ金貨。
「しかし、聖都っつーからお堅い街かと思ったら」
とりあえす町の中心らしい、どっかで聞いたような気がする聖人の名を冠した広場に来てみたのだが、吟遊詩人や旅芸人らしき集団がちらほらといて、通りがかった人々相手に芸を見せてはおひねりをもらっている。
つーか本当に人が多いな。
必然的に客も多くなるし稼げそうだが、カムナは来たことあるのかね。
……いや、黒い人たちは異教徒なわけだし、女神教会のお膝元にわざわざ来るわけないか。
「でも内容がなあ……」
近くの吟遊詩人の青年の唄に耳を傾けてみたが、内容はどこぞの聖人が苦難の末に女神に認められ大成する的な、なんというか山も谷もない盛り上がりに欠けるものだった。
この街だとこういう方がうけるのか、それとも大衆向けの娯楽に制限が入っているのか。
ともあれ聞いておいて何もせず離れるのもアレなので、銅貨を一枚放り投げておく。
……そういえば、俺はじめてカムナと会った時に金払わずにタダ聞きしてたなあ。
いやその日食うのにも困ってたから仕方がないんだけど。
「正面のでかいのが大聖堂で、その後ろにあるのが……礼拝堂?」
その二つは何が違うんだ。
そう疑問に思って周囲を見渡してみたが、この疑問に答えてくれる人間はいないわけで。
やべえ。
俺のチーズ知識ではカムナみたいな案内人がいないと観光が楽しめねえ。
「……とりあえず行ってみるか」
見学とかはできるみたいだし、簡単な案内くらいはしてくれるだろう。
そう楽観的に考えて俺はとりあえず正面に見える大聖堂とやらに足を運んだ。
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「……すっげぇ丁寧だなここの神官」
一通り見学しての感想。
いやマジで。中に居た中年の神官に話を聞いてみたら、普通なら呆れるのであろう俺の世間知らずな質問にも笑顔で答えてくれた。
俺今まで神官って胡散臭い人間の代名詞だと思ってたんだけど、もしかしたら偏見だったかもしれない。
いや普通に考えて、神様に仕えてる人間が胡散臭いわけがないんだけども。
「というか女神様の名前って、誰も知らないんだなあ」
大聖堂には女神教会の主神である女神様の大きな像が飾られていたのだが、それを見た俺が聞くと神官は気を悪くした様子もなく「誰も知らないのです」と答えた。
何でも女神教会の始祖である神子が現れるまでは、女神は地方で信仰されていたマイナーな神様で、名前すら忘れられていたらしい。
そんなマイナーな神様が今では世界規模で信仰されてんのか。
そんだけ神子の影響力がでかかったということなのかね。
そしてだからこそ教皇は神子の再来を利用しようとしてる。
「……もしかして俺が熱心な女神教徒になるとでも思ってるのか?」
確かに神官への偏見は薄れたが、だからと言って神頼みするような性格でもないしなあ俺。
そもそも一応神官である神父様の教育方針がアレだし。
祈る暇があったら叩き切れ的な。
「で、礼拝堂に行くなら近くに美術館があるんだったか」
はたして俺に美術品を見て楽しめる審美眼があるのか疑問だが、図書館よりはまだ楽しめるか。
もしかしたらまた丁寧に説明してくれる案内の人とかいるかもしれないし。
そうまたしても楽観的に考えつつ、背中を気にしながら俺は歩き始める。
「本当に何がしたいんだろうなあ」
人が少ない方へと出て来たのでハッキリと分かってきたが見張られてる。
俺程度に気付かれるという事は、あえて気付かせているのが一つのメッセージであり余計なことは――レイン婆ちゃんとかに連絡を取ろうとするなということだろうか。
「……まあ一日目だしな」
教皇が何を考えてるのかはさっぱり分からないが、思惑通りにいってたまるか。
大人しく観光を楽しみながらも、俺はこの街でどう動くか頭を巡らせ続けた。




