勝てなかったよ……
※ゴーレム
自立行動する泥人形を指し、その名は「胎児」を意味する。
基本的に作った主人に忠実だが、事故や暴走により主人を死なせる逸話も多い。
元は土をこねて作るものだが、石や金属を材料にしたものなどもある。
「そんで……なんか書かれてる文字の一部を消せば止まるんだったか」
確か文字の一部を消すと「死」という意味になりゴーレムが止まるとか神父様が言ってたような。
肝心の文字を覚えてないわけだが、実物を見れば思いだす可能性も……。
「ああ。Emethのことならこのゴーレムにはついていないよ」
「何で!?」
「何でと言われても、そんなあからさまな弱点、余程古典的で古いタイプのゴーレムにしかついていないよ。そもそもさっきのガーゴイルだってゴーレムだったのに、何も書かれていなかっただろう」
「……確かに」
説明されて素直に納得してしまった。
納得してしまったが、それ弱点ないってことじゃん。
「うおぉ!?」
不意に体に影がかかり、ゴーレムがこちらへ攻撃してきたことに気付き咄嗟に避ける。
すると今まで居た場所に巨大な石槍が刺さり、ズンと地面が軽く揺れる。
……ちょっと待て。
これくらったらどう足掻いても死ぬだろ!?
「というか遅いように見えて速えぇ!?」
ゴーレムの動きは緩慢に見えるのに、いざこちらに攻撃が届きそうになると加速してるみたいに速く感じる。
というか確実に速い。
巨大イノシシの突進といい勝負かもしれない。
「それはそうだろう。例えばゴーレムが君の十倍の大きさだとしよう。君とゴーレムが同じ時間で一歩踏み出せるなら、それは同じ時間でゴーレムは君の十倍の距離を動けるという事になる。一歩に二倍の時間がかかっていても五倍だ。つまり遅く見えるのは相手が大きいからこその錯覚だね」
「そりゃどうも!?」
呑気に解説してくださる教皇に向かって叫びながら、ひたすら槍でついてくるゴーレムの攻撃から逃げ回る。
というか攻撃に間断がねえ。
水車に取り付けられた杵みたいに、休むことなく一定のリズムでこちら目がけて槍が降ってくる。
いやそれはそれで攻撃のタイミングは読みやすいけど、狙いが結構正確なので動き回ってないとやられる。
というか俺まだ体力回復しきってないんだが。
マジで吐きそう。なんか口の中の血の味が強くなってきたんだけど、マジで胃に血とか混じってないだろうなこれ。
「げほっ、でもここなら!」
降り注ぐ槍を避けて、一気にゴーレムの足元に走る。
こういうでかぶつは足元はお留守だと相場が決まってるもんだ。
そう思っていたら、頭スレスレを何かが高速で通り過ぎた。
「……は?」
「そのゴーレムは私と感覚を共有しているのでね。足元もちゃんと見えるし、次は当てるよ?」
そう言われて振り返れば、そこにあったのは振り抜かれたゴーレムの足。
え、こいつ蹴るの?
うんむしろなんで蹴らないと思った俺。
というか足元がお留守じゃないだと!?
「それなら!」
「おや?」
殺す気がないのは本当らしいので、もう玉砕覚悟で嫌がらせに出る。
教皇目がけて全力疾走。教皇を盾にしてゴーレムに殴らせる作戦だ。
いやそんな上手くいくとは思えないが、なにもやらないよりはマシだ。
しかしそんな企みはあっさりと阻止された。
「うを!?」
再び頭上から影に覆われたと思ったら体に衝撃。次いで今まで感じたことのない浮遊感。
何事かと周囲を見渡すが地面は遥か下。そして俺の体を包み込む石の感触。
ものの見事に、ゴーレムの手で体を握られていた。
「うーむ。何をやらかすか分からないね君は。遊びはやめて同行してもらおうか」
「ええ……」
そうあごを擦りながら言う教皇。
焦った様子もないという事は、すぐに捕まえることはできたのにマジで今まで遊んでたのかこの爺。
どうやら俺はとっくの昔につんでたらしい。
体を動かしてもビクともしないゴーレムの手の中でそれを思い知らされた。




