おかわりが大盛りすぎる
以前稽古の中で、戦いにおいてスタミナはかなり重要な要素だと神父様に言われたことがある。
まあ言われなくても当然というか、息もたえたえで腕もあげるのも億劫なほど疲労した状態で普段の力なんて出せるわけがない。
そんな状態に追い込まれないよう、スタミナは十分につけておけという話であり、俺がなんか森の中を全力疾走させられていた理由の一つはそれらしい。
「あとは演技力ですね」
「ええー」
「そんな『また変なこと言い出したこの人』みたいな顔をしない」
いや実際変な事頻繁に言うし神父様。
あとこの人長年村人たちに剣術とか教えてるから指導には慣れてるけど、本質的に天才だから多分本来は人にもの教えるの向いてない。
「疲れていても『まだまだ余裕だぜ』という顔をしておきなさい。それだけで相手は今は攻めるべきではないと判断する可能性が高くなりますし、逆に疲れているのがバレれば好機と判断します」
「あーなるほど」
ちゃんと説明されてみれば納得。
要は相手に自分の状態を見切られるなと。
でも実際疲れてるのに余裕のフリをするなんて、さらに疲れそうだなあ。
そんなことを思った。
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「……何コレきっつ」
以前神父様に言われたことを思いだしながら、教皇には聞こえないよう小声で弱音を漏らす。
あれから数十分。いやもしかすれば数分も経ってないのか?
ともかく何度も襲い掛かってくるガーゴイルを斬っては捨て斬っては捨て、そろそろ立ち回るのに地面転がってるガーゴイルが邪魔になってくる程度には斬り捨てた。
しかし斬り捨てるたびに教皇の背後からおかわりとばかりに出てくるガーゴイル。
てめえマジで何体用意してんだよその石像。
「ぐうっ……はあ!」
そんなことを考えている間にもガーゴイルは襲ってきて、整えようとした呼吸を一端止めて重くなってきた体を無理やり動かし蹴り上げる。
相手の体勢を崩すのに有効とは言え、何度も石の塊を蹴っているのでいい加減足も痛くなってきた。
というか呼吸が辛い。
今すぐ思いっきり体を折るなり伸ばすなりして地面に投げ出して、思いっきり空気を吸い込みたい。
無意識に口を開けっぱなしにしているせいで口の中の水分が奪われているのか、何だか血の味までしてきた。
いや何で喉が渇くと血の味がするんだ。どうなってんだ俺の体。
とにかく体全体が「もう無理」と訴えてる。
「粘るね。ゴッタの報告はやはりあてにならないな。君ほど戦える子供はそういないよ」
「そりゃ……どうも!」
教皇の言葉にそう返しながら、二体同時に襲ってきたガーゴイルの片方の腕を掴み、思いっきり振り回してもう片方のガーゴイルにぶつける。
うん。今の良いかも。
これなら俺の足は痛くないし同人に二体のガーゴイルの体勢を崩せる。
しかし褒めてるように見えてあくまで子供扱いとは。
いや実際まだ一応は子供な年齢だけれども。
「ふむ。これでは数を損なうだけかな」
「お?」
不意に教皇が右手をあげると、俺を襲っていたガーゴイルが消え去り同時に地面に転がってた残骸も消えていく。
マジかよ。本当に疲れてない演技有効だったのか。
もう少し続いてたら俺多分戦いながら吐いてたぞ。
あとやはり教皇は本人の言う通り研究者肌な人間であり、相手の呼吸を見切るとか本人にその手の戦いの心得はないらしい。
クラウディアさんとかなら俺が疲れてないフリしてるのとか余裕で見抜くだろうし。
「いや本当に驚いているんだよ。まさか剣でガーゴイルを斬れるとは思っていなかったのでね。普通は打撃武器の類で殴って砕くものなのだが」
「あー」
そういや親父もメイスでボッコボコにしてたな。
もしかして相手がガーゴイルだからメイス使ってただけで、別にメイスが得意というわけではなかったのか親父。
「だが先ほどから君はガーゴイルの羽や腕の一部など細い部分を狙っている。いやガーゴイルを相手にそこを狙えるだけでも驚嘆に値するが、それが分かれば君の相手をさせるには他のものが最適だ」
「……は?」
教皇がパチンと指を鳴らすと、突然あたり一面を影で隠すほどの大きな何かが現れドスンと着地した。
「……」
見上げたそこにあったのは、なんか神殿とかに飾られてそうなほりの深いおっさんの顔。
右手に槍。左手に盾を構えた、神話の時代の英雄とかモチーフにしてそうな巨大な石像がこちらを見下ろしていた。
「これなら斬れないだろう」
「大人げねえ!?」
何故かドヤ顔で言う教皇。
もしかして実はガーゴイル斬られまくったの悔しかったのか、あるいは余程の自信作なのか。
どちらにせよどう足掻いても倒せそうにないそれから逃げ回る時間が始まった。




