少しは成長しているらしい
「やる気なようだね。しかし私は神父のように魔術や体術など『とくい』なわけではないからね。なので相手は彼に任せよう」
「彼? っておお!?」
そう言って空を指さす教皇に、いやそんな方向から来るわけねえだろあからさまな誘導かと思ったのだが。
風をきる音が聞こえ、反射的に屈んで飛来した「何か」を避ける。
「……げ」
そして改めて見上げたそこに居たのは、悪魔のような姿をし、石のような肌をもったガーゴイル。
かつて俺では歯もたたず、大群で村を襲った魔物が、たった一体ではあるがこちらを見下ろしていた。
「なんで……」
「ふふ。私は神官ではあるがどちらかと言えば魔術師のような研究者肌な人間だからね。ゴーレムの類の製作の腕は中々のものだと自負しているよ」
「アンタが作ったのかよアレ!?」
魔物召喚したとか手懐けたとかじゃなくて、一から作ったやつかよあのガーゴイル。
確かに元から魔物なやつとゴーレムタイプのやつがいるとは聞いたが。
「って、ちょっとまて。じゃあ村を襲ったあのガーゴイルは」
「うんうん。もしかすれば神父が帰ってくれるかと思ったのだけどね。報告を受けても『ガーゴイルくらいうちの村人ならどうとでもなるでしょう』と欠片も心配していなかったよ。というか報告を受けた頃には実際全滅していたのは笑うしかなかったね」
「あーうん」
それはそうだ。
なんならヴィオラが手を貸さなくても、うちの親父とロイスさんなら一体ずつ撃破していきそうな勢いだったし。
「ところで私と話している余裕はあるのかな?」
「え? うお!?」
教皇が言うのに合わせたように、再び飛来したガーゴイルがこちらに掴みかかってきたのを寸前で身をねじって避ける。
いやこれどうすればいいんだ。斬る?
石像を斬れるわけねえだろふざけんな。
「いや……」
よーく見ろ。
相手は確かに動く石像だが、石像だからこそかところどころは生物だったらありえないほど細い。
特に羽の付け根だ。
蝙蝠みたいなそれは基本の骨子が棒みたいで、見てるとなんか俺でも斬れそうな気がしてくる。多分。恐らく。
「おっと」
それにガーゴイルの動き。
速いのは間違いない。しかし空を滑空してくるそれは酷く分かりやすくて、何より神父様やクラウディアさんのそれに比べたら止まっているに等しい速さだ。
しかし相手は空の上。
攻撃のチャンスはこちらを狙って降りて来た時だが、すれ違いざまに背中の羽を狙うというのも難しい。
なら――。
「そこおっ!」
「――!?」
こちら目がけて急降下してきたガーゴイルに合わせて、思いっきり足を振り上げる。
半ば自棄で放った蹴り足は見事にガーゴイルの顎下をとらえ、衝撃で口の中でも噛んだのか石同士がぶつかる鈍い音を立てながらガーゴイルがのけぞる。
「ぜや!」
続けざま、足を地面に下ろすと同時に地面を蹴り、ガーゴイルの背中側に回り込みながらその背を剣で斬りつける。
すると余程当たり所が良かったのか、ガーゴイルの羽はあっさりと切断され、棒っきれみたいに回転しながら宙を舞った。
「……おお」
自分でやったことに自分で驚いた。
え? そんなあっさり斬れていいのか?
ここはやっぱり歯が立たずに負けて俺がさらわれる場面では?
「……なるほど。強いね君は」
「ええ……」
羽を失って体のバランスが取れないのか地面でばたついてるガーゴイルをどうしたものかと見ていたら、教皇がなんか神妙な様子で言い出した。
嫌味か貴様。
「謙遜することはない。流石あの内乱ばかりで無駄に兵の練度が高いカンタバイレから、アルフレド大公を守り通しただけはある」
「また俺の評価が独り歩きしてる!?」
カンタバイレの兵の練度が高いって。
俺アルフ爺さんを一応守りはしたけど、カンタバイレの兵士からは逃げてばかりでほとんど交戦してないぞ。
あの爺さんちゃんと説明してんのか。
「確かに華麗とは言い難い戦い方だ。だがそれでこそカール殿の戦いを思い出す」
「曾爺ちゃん?」
なんか教皇が語るモードに入ってる。
どうすんだ。逃げてもまた変なもん出してきそうだし、聞いてた方がいいのかコレ。
「確かにカール殿は神父や白騎士のような英雄には劣っていた。だがだからこそだね。彼の強さは只人の限界を目指したそれだった。もしかすれば私でも一生をかけて鍛錬を続ければ届くのでは。そんな希望を抱かせた」
「あー」
確かに神父様レベルには一生かけてもなれる気がしないわ。
でも親父ならなんとか届くかなあというそんな感じか。
「しかし同時に不思議でね。何が彼をそこまでさせたのか。魔王無き世で何故そこまでの強さを求めたのか。もしかすれば……と思ったのだが、レイン様の話によるとどうやら違うようだしね」
「何が?」
というかレイン婆ちゃんといつ話したのこの爺さん。
もしかして話したんじゃなくて盗み聞きでもしてたの。
……してそうだな。
「しかしそれはそれ。君もどこまで伸びるのか。興味があるね。故に――」
「げっ」
おもむろに教皇が手を上げ指を鳴らした瞬間、その背後の空間が歪んで二体のガーゴイルが出て来た。
村であんだけ盛大に一斉処分されたのに、どんだけストックあるんだそのガーゴイル。
「ギリギリを攻めれば君は応えてくれるタイプと見た。さあ、倒れるまで踊ろうか」
「アンタ本当に聖職者の長か!?」
やってることがえげつねえ。
俺が力尽きるまでガーゴイルけしかける気か。
だが逃げようにも、対応はできても速さ自体はガーゴイルの方が上なわけで。
崖目指して全力疾走させられてるみたいな持久戦が始まった。




