スケルトンを倒した!
神父様によるとゴーデンダックのようなフレイル系の武器は防御が難しいらしい。
その変則的な軌道もそうだが最も脅威なのはその威力。
鎧着た兵士すらぶっ飛ばすので農民が反乱なんかでこの武器を使ったときには甚大な被害が出るのだとか。
で、そんなものを万が一にも自分や味方に当てた日には、怪我するっていうレベルじゃないので取り扱いには十分気をつけろと厳重な注意を受けた。
確かに味方の頭をうっかりミンチにするとか洒落にならない。
「よっしゃあ! 待たせたなスケルトン!」
そうして三日ほど神父様からゴーデンダックの使い方をみっちり仕込まれたわけだが、相変わらずスケルトンは村の外でガンガン結界を叩いていた。
この三日で他の村人が結構出入りしていたはずだが、何故誰もスケルトンを気にしていないのか。
もしかしてこの村本当にそこらの兵士より強い戦闘民族しかいないのか。
まあそれは置いといて。
間合いを取るためにスケルトンから少し離れた所から結界を出て、ゴーデンダックを構える。
「まず正面!」
駆け引きも何もなく、ふりかぶったゴーデンダックを思いっきりスケルトン目がけて振り下ろす。
すると勢いがついた打撃部は見事にスケルトンの頭に命中し、鈍い音をたてて頭蓋骨を粉砕。それでもなお止まらずスケルトンの体を地面に叩きつける。
「うわ……凄」
自分でやっといてその威力に引いた。
いや考えてみればスケルトンって骨だけだし。
軽いから重い打撃食らったら簡単に体持っていかれるわ。
「でもチャンス!」
神父様が言っていたように頭を潰されてもなお立ち上がろうとするスケルトン。
その右腕目がけてゴーデンダックを掬うように叩きつける。
「おっとお!?」
するとスケルトンの腕は軽い音を立てて木の枝みたいにあっさりと折れ、勢い余って打撃部の勢いに引っ張られて体勢を崩しそうになる。
練習の時は丈夫な立木相手にやっていたから気付かなかったが、横に振った時に勢いが殺されないと自分の体勢が崩れそうになる。
なるべく振り下ろすようにした方がいいのか。
「そりゃ!」
なので今度は残っている左手めがけて振り下ろす。
少し狙いがそれた打撃部は腕ではなく手の平あたりに当たり、バラバラに粉砕された骨が周囲に飛び散っていく。
同時に衝撃が関節部にまで伝わったのか、スケルトンの左腕が肩から外れてポロリと地面に落ちた。
「ッ……」
そこまでやったところでいったん距離を取ったが、ここに来て俺は怖気づいてしまった。
両手を失ったスケルトンは立ち上がることもできず、体をくねらせ肩で体を支え立ち上がろうとしては崩れ落ちている。
どう見ても既に大した脅威ではない。
たったそれだけのことで攻撃を躊躇ってしまった俺はきっと馬鹿なんだと思う。
スライムの時には何も感じなかったのに、相手がまがりなりにも人の成れの果てだからなのか「もういいんじゃないか?」と言い訳してしまった。
でもそれって駄目なんじゃないか?
こんなことで躊躇っていたらこの先命がけの戦いに巻き込まれたときに自分や仲間を危険にさらすんじゃないか?
こんな葛藤はいらないものなんじゃないか?
そんな色んな考えが一瞬で頭の中を駆け巡る。
「はい。もういいですよ」
「容赦ねえ!?」
しかしそんな葛藤とか関係ねえとばかりに神父様が結界から出て来て剣でスケルトンの背骨ぶっ刺した。
まさかそれが噂の聖剣ですか。
ちょっと刺しただけでスケルトン動かなくなったよ。凄いね聖剣。
「見事でした。実際に戦う前も、剣では相性が悪いと気付いて武器を変え、その上でちゃんと私に相談に来たのもよかったですよ」
「え、でも俺が……」
「レオン」
混乱している俺の名前を神父様が静かに呼ぶ。
その顔に俺の不甲斐なさへの怒りや厳しさ何て欠片もなくて、ただ慈しむような微笑みだけがあった。
「貴方の躊躇いは当然のものです。いつかは答えを出さなければならないものでもあります。今回はアンデッドでしたが生きた人間と敵対し殺し合いになることもあるかもしれません」
うん。それは分かる。
分かるから、ここで俺はスケルトンにとどめをささないといけなかったんじゃないのか?
そんな言葉にならない俺の疑問を否定するように、神父様は首を振る。
「それは今でなくても構いません。迷いに答えを出すのと迷いを捨てるのは別のことです。いつかは決断しなければならない時が来るでしょう。だからその時までよく考えなさい。考えるというのは大事なことです」
そう言うと神父様は俺の頭を撫でて「後始末はやっておきますから休んでいいですよ」と離れていった。
そう言われても、頭の中がグルグルしててすぐには足が動きそうにない。
「よく考えなさい」
神父様に剣術を習い始めてから頻繁に言われるようになった言葉だ。
それまで俺が不得意な勉強で悩んでいても神父様はそんなこと言わなかった。
だからきっとそれはとても重要な事なんだと思う。
「いつまで突っ立ってんの。帰りましょうよ」
「あ、うん」
いつまでも動かない俺に焦れたのか、ヴィオラが手をひいて歩き出したのでそれにつられるようにして動く。
まだ俺はこどもで、守られる立場で、今のうちに大人になる準備をしろってことなのかなあ。
自分より小さいヴィオラの背を眺めながらそんなことを思った。