少女が謎だった
「は? 私一度も席立ってないわよ?」
「あれ?」
真っ白けな女の子と合った日の夕食時。
何か得体のしれないパイが出てきて困惑していたら、牛肉と芋のパイだと分かりヒャッホウと喜びつつ変なやつと会ったと話していたら、ヴィオラが低い声でそんなことを言い出した。
一度も席を立ってない。
いやでも実際あの女の子が話しかけて来た時には居なかったし。
「人避けの結界……は無理か。魔法ギルドのお膝元の、しかも貴重な資料が多く眠る図書館だ。魔術への対策も他以上に厳重なはずだ。何よりそばにいるヴィオラに気付かれないはずがない」
「……」
「なんだいその子供が粘土に穴をあけただけの人形みたいな顔は」
「どんな顔だよ。え? いや、なんつーか。ヴィオラってそんな他の魔術師に出し抜かれないと断言できるほど高レベルなのか?」
「何故君が私に聞くんだ。まあ彼女を侮る人間が居たという話が信じられない程にはね。流石次期魔法ギルド党首。しばらくはギルドも安泰だろう」
「そこまで!?」
え? この娘っ子そんなに凄かったの?
確かに魔法ギルドの党員が血相変えて迎えに来たカムナの魔術より、もっと大規模な魔術使ってもケロッとしてたけど。
「そうはいっても私には経験が不足してるし……それでも今この街には曾お婆様がいるのよ。気付かれないはずがないわ」
神父様に並ぶであろう魔術師なレイン婆ちゃんにも気付かれない異常。
あれ?
もしかしてこれ大事ですか?
呑気に世間話みたいに話さずに、すぐに報告すべきことだったりした?
「当たり前だろう。そもそも何故初対面の人間にあっさり正体をばらしているんだ」
「えー、見た感じ普通の女の子だったし」
「この場に見た目は普通な女の子が二人いるわけだがどう思う?」
「曲者しか居ねえ」
「誰が曲者よ」
ヴィオラに文句を言われたが、確かに見た目で判断するなという意味では凄い説得力だ。
もしかしてあの子も実は凄い魔術師だったりする可能性があるのか。
「でもレイン婆ちゃんにも気付かれないレベルって……もしかしてあの人か? 神父様の姉の魔女」
「それは……ありえないとは言い切れないが」
「いやないわよ。魔女と呼ばれててもただの人間なんだから、先生みたいに若作りはしてないわよ」
それはそれで神父様が神父なのに魔女以上に人外ということになるのでは。
いや実際人外だけれども。
「えーじゃあ何者だよ。というか本当にヴィオラ見てないのか? どう足掻いても目立つぞあのしろすけ」
「仮にも女子相手になんというあだ名だ」
「くろすけは何か心当たりないのか?」
「誰がくろすけだ。私のこの色は人種的なものだが、肌や髪から目まで白い民族なんて聞いたこともないよ」
「私も聞いたことないわね。やっぱり曾お婆様に報告するしかないと思うけど」
「うわあ。怒るかなレイン婆ちゃん」
「怒られることをやった自覚はあるのか」
「教えれば理解するのに、何を理解してないか分からないから困るのよこいつ」
そうため息をつくヴィオラだが、なんかカムナにも前に似たようなこと言われたような。
やはり俺の常識はチーズなのか。
「まあ友好的な態度だったのなら、また接触してくるんじゃないかい? その時に備えてレイン様に本気で罠をはってもらえばいい」
「なるほど。レオンが無警戒でチョロいと思われたのを逆に利用するわけね」
「えー」
そして本人置いてけぼりでなんか始まってるしろすけ捕獲計画。
大丈夫かコレ。マジでただの女の子だったらどうすんだ。
まあ後にして思えば、そんな危惧をしている時点で俺は本当にチョロ甘すぎたのだろう。