こんにちは、死ね!
神父様の課題はスケルトンを倒しきるのではなく無力化すること。
ヴィオラの言葉を借りるなら動けなくなるまで分解すればいいわけだが、剣でそれをやろうと思ったら骨が折れる。スケルトンだけに。
ならどうするか。
ここで思い出すのはスライムの時にヴィオラにも言った神父様の言葉。
素人は下手に刃物を使うより打撃武器の方がいい。
スライムの時には裏目に出たが今回の相手はスケルトンだ。
骨みたいな硬いものなんて、斬るよりも殴って粉砕する方がそれこそ素人には向いてる。
「というわけでおっちゃん。とにかく威力のでかい打撃武器貸してくれ」
「うちはレンタルはやってねーよ」
流石に手製の棍棒では心もとないので村のよろずやにやってきたわけだが、店主のおっちゃんは取り付く島もない。
いや俺だってできれば借りるんじゃなくて買いたいよ。
でも金がないんだよ。
「金なら神父様に貰ってるから好きなのもってけ。日頃教会の掃除やってるから駄賃代わりだと」
「マジで?」
駄賃も何も教会の掃除をやってるのは森を燃やしかけた罰なわけだが。
まさか神父様こうなることを予測して掃除という罰を?
どう考えても釣り合わないので罰の期間が終わっても教会の掃除は続けさせてもらおう。
「で、打撃武器だったか。一口にそう言っても色々あるぞ」
「じゃあなるべく威力でかくてリーチあるの」
威力は当然だがリーチがあるのも重要な要素だ。
特に今回の相手のスケルトンはそんなに動きが速くないから懐に入られる心配もあまりない。
「ならコレとかどうだ?」
「おお! 何かすげえ!」
よろずやのおっちゃんが持ってきたのは、俺の身長よりも長い棒の先に鎖でつながれた金属製の棘みたいなのがついた武器。
モーニングスターとかいうやつのロングバージョンっぽい。
「ありがとうおっちゃん!」
「おお。神父様に礼言いに行けよ」
それは勿論。
というかいきなりこんなもん渡されても使い方が分からない。
なのでお礼を言うついでに神父様に聞きに行ったわけだが。
「これはまた珍しいものを選びましたね」
長い棒持って教会に突撃してきた俺を見て神父様の第一声。
やっぱ珍しいのか。俺も初めて見たしこんな武器。
「神父様。武器の代金ありがとうございました!」
「構いませんよ。剣などに比べれば安いものですしね」
そう言って微笑む神父様マジ聖職者。
まあこの武器柄の方は木製だし、剣とかに比べれば確かに安そうだけど。
「で、これの使い方教えてほしいんですけど。あと名前」
「こんにちはです」
「なんて?」
「こんにちはです」
※ゴーデンダック(こんにちは)
二メートル前後の長さの柄の先に鎖で連結された打撃部がついた武器。
フレイルの一種でありその中でも長柄の持ち手が特徴的なフットマンズフレイルに分類される。
元は農工具から発展したとされ主に農民が使っていた武器だが、長い柄から遠心力をつけて放たれる一撃の威力は通常のフレイルよりも強力。
対騎兵武器としても優れており重騎兵相手に多大な戦果をあげた記録も存在する。
「凄い強い武器だというのは分かったけどなんで名前が『こんにちは』なんですか?」
「さあ?」
さあて。
いやまあ名前の意味が分からなくても使う分には問題ないけど。
「しかしゴーデンダックは強力ですが長い分間合いが取りにくい武器でもあります。私が良しというまでそれでスケルトンに挑むのは禁止です」
「マジで!?」
これで勝ったも同然だと思ってたのにまさかの神父様ストップ。
確かに慣れない武器で戦うのは危ないし当然だけれども。
「では外に出ましょうか。貴方は武器の使い方はともかく立ち回りは上手いのでそんなに時間はかからないでしょう」
「使い方はともかく!?」
そこ結構というか今回一番重要なところでは。
そんな俺の疑問は放置され神父様にみっちりとゴーデンダックの使い方を教え込まれた。
ちなみにスケルトンの前でヴィオラが待っていたことをすっかり忘れていたため、次の日教会に行ったらめっちゃお怒りの様子で待ち構えていた。
とにかく平謝りで許してもらったが、着々と頭が上がらなくなっていっているような気がする。