女子二人が意外に仲良い
「帰りたい」
なんかよく分からない内にヴィオラの家……つーか屋敷で暮らし始めた次の日。
俺は早くもくじけそうになっていた。
今はなんか無駄にでかい机とやたら椅子の置かれた食堂みたいな場所で夕食をとっているのだが、目の前に「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」と言わんばかりに置かれた分厚い肉にも中々手が出ない。
いや普段なら「ヒャッホウ!」と喜んで食うんだが、なんか添え物のポテトの方が喉通る。
「何よ。三食きっちりついてて出かける時は護衛もつくのに何が不満なの」
「おまえは俺が何なのか忘れたのか」
俺の文句に文句を返すヴィオラだが、こちとらただの農民の息子だぞ。
護衛つけられて気にせずはしゃげるわけないだろ。
それと飯だが……美味しいけどこれまた使用人の方々が控えてて安らげない。
今も俺の背後にメイドさんらしき女性が控えていて、一挙手一投足を見張られているようで落ち着かん。
それなりに神経が太いという自負はあるが、飯が喉を通らないというのを己の体で経験する時がくるとは思っていなかった。
「少年は繊細だねえ。使用人の類は居ても普段は見えていないかのように振る舞うのが上に立つ者の務めだよ」
「むしろ何でおまえ馴染んでんの?」
一方そんなことは欠片も気にせず、相変わらず小食ではあるが飲み食いを満喫してる様子のカムナ。
いやマジで何でそんな平気なの?
おまえまで実は高貴な出ですとか言い出さないだろうな。
「というか上に立つ者って何だよ。俺農民だって」
「曾お爺様は貴族、しかも公爵家の人間だったのが確定しただろう。それに本当にその手の振る舞いに慣れていた方がいいかもしれないよ。もう少年が普通に冒険者やれる未来が見えないからね」
「何で?」
いや本当に何で?
そう俺が言うと、カムナが呆れたような視線を向け、ヴィオラと同時にため息をついた。
えー何。何でおまえらほぼ初対面なのにそんな息があってんの。
「カンタバイレでそれなりに暴れたのが白騎士と絡めて噂になっていただろう。それにアルフ爺様も君のことを話題に出さないはずがない。アルフ爺様の亡命の経緯を知るものの中では、少年は命がけでそれを助けた立役者で、もう教科書に載るのはほぼ確定だよ」
「うちでも先生の弟子でクラウディアさんの従騎士で、しかも曾お婆様に気に入られたって噂になってるわ。もう期待の騎士候補みたいな扱いになってるわよ」
「何それ恐い」
なんか成り行きで巻き込まれた騒動のせいで俺の評価が独り歩きしてる。
というかクラウディアさんの従騎士の件は改めて正式にお断りした方がいいのかコレ。
いやでもあのゴッタとかいう神官のおっさんのことは何も解決してないしなあ。
「その神官の件があるから、あんたは素直にうちかクラウディアさんの保護下に入った方がいいのよ。先生が地獄から出てくるのは時間がかかるみたいだし」
「教皇が不穏な動きを見せているなら、教会のどのあたりまでが彼の私兵と化しているかも気になるしね。もしかの神官が教皇の意向で動いているなら、少年の立場はかなり危うくなるかもしれない」
「……あれ? 俺もしかして不用意に出歩いたら死ぬ?」
俺に拘ってるのがゴッタの個人的な感情ならまだマシで、もし新教皇絡みならそれこそ国家レベルの権力持ってる人に守ってもらわないとヤバいと。
そして本来ならその役割を担ってくれたであろう神父様は地獄で一回休み中(年単位)。
少なくとも神父様が出てきて新教皇にお礼参りするまでは、俺も身の振り方を真剣に考えないとえらいこっちゃになると。
「死ぬかどうかは分からないけれど、拉致された結果が愉快な結末とは思えないね」
「すぐ終わる話でもないでしょうし、もう素直にうちに居るか、本当にクラウディアさんのところで修業してピザン王国の騎士になった方が安全だと思うわよ」
確かに。ヴィオラは魔法ギルドの党首の一族だし、クラウディアさんは白騎士の孫で王家との繋がりもあるらしいしなあ。
でも魔術師でもない俺がこのままジレントに居座ってヴィオラの家で居候というのは格好が悪いし、現実的に考えるならクラウディアさんのところに行く一択なのでは?
そしていざ騎士になったらあまり勝手は許されないだろうし、そりゃ冒険とかできんわ。
「俺の人生計画が」
「アンタそんな複雑な人生設計してなかったでしょうが」
「『冒険者になる』で止まっていて、どのあたりで何を目標にして生活費をどうやって稼ぐかとか考えてなさそうだしね」
人が人生狂ったのを嘆いているのに、女子二人が容赦ないです。
いや本当におまえら会ったばかりなのに何でそんなに仲いいの。
「そこは乙女の秘密というやつだよ。まあ共通の話題があれば人は早く打ち解けるものさ」
「共通の話題?」
「聞くな」
「あ、はい」
普通に疑問に思ったことを呟いただけなのに、ヴィオラに威圧された。
とりあえずただでさえ扱いに困る娘っ子が二人に増えたせいで、俺の心労は増えそうだった。




