同居開始
「とにかくクロエからの伝言については了解したわ。こちらでも教皇については調べてみるけれど、貴方はこのままこの街の外に出さない方がよさそうね」
「え? 何でですか?」
「あのゴッタという神官に狙われているでしょう。彼は色々と特殊な立ち位置の神官で、神官嫌いな領主の多いピザン王国でも受けが良くて、よく外交の席に呼ばれているの」
「え? アレが?」
「事実です。私もアレほど異常な性根を隠しているとは思っていませんでした」
あんな異常者がと驚けば、クラウディアさんからフォロー? が入る。
つまり普段は真面目に神官やってたのかあのおっさん。
しかもピザンの領主たちに気に入られるほどの人たらし。
「つまり神官の中でも神父……クロエの情報を比較的容易に手に入れられる立場に居たの。教皇がクロエを陥れたのなら無関係ではないかもしれないし、その異常性を今まで隠していたのも気になるわ。何よりレオン。貴方を狙っている」
「曾爺ちゃんあいつに何かしたんですか?」
「さあ? 特に聞いたことはないけれど」
「私もです。そもそもカール殿は引退してからは滅多にあの村から出てきませんでしたし」
本当にあのおっさんは何で俺を狙ってるんだ。
曾爺ちゃんも話を聞いた限りでは、結局優秀な騎士止まりで、白騎士や神父様みたいな人外ではなかったみたいだし。
「クロエが地獄から出てきたら話が早いのだけれど、今度は何年かかるかしら」
「色々と待って」
レイン婆ちゃんさらりと言ってるけど、神父様地獄に落ちるの初めてじゃないの?
というか出てくるのに年単位かかるの?
「これで二回目だから何度も落ちてるわけじゃないわよ。ただあそこにいる『何か』が問題なの」
「ああ、あの」
何かと言われて思いだしたのは、一面の闇の中でもなお黒く浮かび上がる人型の何か。
目を合わせるだけでもヤバいらしく、神父様が俺の視界を塞いでいたが。
「クロエなら出ようと思えばすぐに出られるのよ。でもそのまま出たらその『何か』まで付いて来てしまう。だから隙をつくか足止めをする必要があるのだけど、クロエでもそれが難しくて時間がかかるの」
「それ神父様じゃなかったらそのまま死んでますよね?」
あんな闇しかない場所で年単位の持久戦とか不老不死な神父様にしかできんわ。
というかそんな真似ができる神父様の精神状態どうなってんだ。
「あれ? じゃあ俺を先に脱出させたのって?」
「興味が貴方に移る前に出したんでしょうね。むしろ興味を抱かれたら貴方も外に出せなくなっていたんじゃないかしら」
「……あれ? 俺もしかして一歩間違えたら死んでました?」
「クロエなら何とかしたでしょうけれど、すぐには無理でしょうし最悪餓死してたんじゃないかしら」
「うわあ」
道理で神父様俺の抗議をほぼ無視して脱出させたわけだよ。
例えランダムワープで人里離れた場所に出る可能性があっても、さっさと脱出させない方が危なかったのか。
「というか結局なんなんですかアレ?」
「さあ? 地獄の蓋が開いたらそこに居たとしか言いようがないわね。そもそも地獄に行って戻ってくる人間がほぼいないもの」
「ですよねー」
ともあれしばらく俺はこの街で暮らすことになるらしい。
田舎者がこんな魔術師だらけの都会に馴染めるのかねえ。
そんな危機感に欠けた心配をしていた。
この時は。
「じゃあ家の案内をお願いねヴィオラ」
「え? まさかうちに住ませるんですか?」
「え?」




