カール・フォン・アルムスター
「カール・フォン・アルムスター。名前の通りピザンの大家アルムスター家の人間ね。といっても次男坊で家督を継ぐ予定はなかったし、私が初めて会った時はコンラートさん……白騎士の従騎士をしていたわ」
「従騎士?」
先ほどから何度か聞いてはいたものの、イマイチよく分からない役職に首を傾げる。
字面的に何かに従ってる騎士なのか。
「従騎士というのは要は見習い騎士ね。一人の騎士を主と仰ぎ、身の回りの世話や戦場での補佐をするの。コンラートさんは当時既に騎士だったけれどまだ爵位は持っていなかったし、それを考えればカールがコンラートさんの従騎士だったのはかなり異常なことだと言えるわね」
「え? ……ああ!」
一瞬何が異常なのか分からなかったが、二人の立場を少し考えれば理解した。
国有数の大貴族出身の人間が平民騎士に仕える。
確かに異常だし周囲からいらん詮索をされそうだ。
「そうなったのはカールの父親であるアルムスター公とコンラートさんが戦友と言える間柄だったから。最初にカールを紹介されたときにコンラートさんはこう言ったそうよ。『失礼ながら閣下。ご子息は騎士には向かぬでしょう』って」
「ええ……」
本当に失礼だな。
いや、そんなことを言っても許される仲だったってことなんだろうけど。
「だけどそれにアルムスター公はこう返した。『だが領主にはなお向かぬ』と。長男に何かあってもカールを跡継ぎにするつもりはなかったということね」
「うわあ」
身内からの評価が容赦ねえ。
身内だから容赦がないのか。
「実際初めてあったころのカールは生意気な貴族の盆暗息子って感じだったわね。不平不満を隠そうともしないし、いつも軽い調子で真剣みがないものだから、コンラートさんにもよく苦言をもらされていたわ」
「俺が知ってる曾爺ちゃんと違う」
え? あの人が不平不満を漏らしてるのなんて見たことないし、爺さんなのにピンシャンしてたから近所の他の爺婆に屋根の修理とか頼まれても文句も言わずに引き受けてたぞ。
なにがどうしてそうなった。
「ふふ。それでもコンラートさんのことは尊敬してたみたいだし、コンラートさんも貴族の息子だからなんて遠慮せずに扱いてたのが良かったんじゃないかしら。魔王との戦いが終わるころには、まあ一人前と言える程度にはなってたわよ」
「そこまでいってようやく一人前なんだ……」
もしかしたら曾爺ちゃんも神父様とかと一緒に魔王との戦いで大活躍したのかと思ってたんだが、この調子だと白騎士の後ろにひっついてただけで、大した活躍はなかったっぽいなあ。
まあ神父様によれば、その後の魔物たちとの戦いでは第一線で活躍したらしいが。
「いえ……そうね。今のは個人的な感情が大きくて客観的な事実が抜けていたわ。カールは優秀な騎士だったし、剣の腕も同期の中では頭抜けていて他の追随を許さなかったわ。まだ若手だったのに、コンラートさんが率いる騎士団の中でも中心的な役割を担っていた」
「え?」
「誇りなさいレオン。カールは、貴方の曾祖父は間違いなく誉れ高き護国の英雄よ」
「……はい」
がっかりしていたら、突然レイン婆ちゃんの顔つきが真剣なものに変わり、曾爺ちゃんを賞賛し始めた。
これはアレか。身内感覚でこき下ろし過ぎただけで、曾爺ちゃんは本当に凄い騎士だったということか。
「そもそも私やクロエみたいな魔術師でもない限り、あの戦いで活躍した人の多くは三十代前後の戦士として脂がのった時期の人たちだったのよ。カールは魔術のことを勉強はしていたけれど才能はなかったし。……そういえばレオン。貴方魔術の方は?」
「魔力ポンコツなんで全く使えないです」
そうか。曾爺ちゃんも魔術方面の才能はなかったのか。
それでも勉強してたって、対策のためだろうか。
曾爺ちゃんは無理だったらしいけど、白騎士は魔術師殺しだったらしいし。
「……本当に? クロエからも何も言われてない?」
「え、はい。神父様からは『やるだけ無駄でしょうねー』って」
あの時はすっごい朗らかな顔で言われて一瞬何言われたか分からなかったわ。
神父のくせに夢いっぱいな少年の希望を打ち砕くのにためらいがねえ。
「そう。なら大丈夫かしら」
「?」
俺の言葉に、レイン婆ちゃんはそう呟いた。
まるで何かに安堵したかのように、薄く吐息をついて。




