婆ちゃんが婆ちゃんだった
魔法ギルドの党首は不在らしいが、党首の祖母、ヴィオラの曾祖母にあたる党首代理が会ってくれるらしい。
神父様の仲間だった魔術師。もうこの時点で神父の同類の人外なんだろうなと思っていたのだが。
「いらっしゃい。ヴィオラから話は聞いているわ。ようこそ魔法ギルドへ」
そう言って俺を出迎えたのは、とてもそんな偉い人には見えない、小さな木製の椅子に腰かけた老婆だった。
年輪のように刻まれた深い皺。だけどその顔は生気に満ち満ちていて、背筋もピンと伸びており生命力にあふれている。
なんというか、予想外だけど予想外じゃないというか。
てっきり神父様みたいな不老不死もどきが出てくるのかと。
「どうかしたのかしら?」
「え、あ、すいません。なんというか美人な婆ちゃんだなと」
「アンタは!?」
「アッハッハ」
「ええ!?」
思わず本音を言っちゃった俺に婆ちゃんの隣にいたヴィオラが目を剥いたが、その婆ちゃんが笑い始めたのを見て何か驚いてる。
どうした。まさか普段は笑わないのかこの婆ちゃん。
「面白い子ね。流石カールの血縁者だわ」
「え? 曾爺ちゃん知ってるんですか?」
「もちろん。友人だもの。それで、貴方の名前を聞いてもいいかしら未来の騎士様」
「あ、すいません。レオンハルトといいます。って騎士?」
「あら? クラウディアの従騎士になったって聞いたけれど?」
「それは彼を保護するための方便ですよ」
いきなり騎士と言われて首を傾げれば、クラウディアさんが口を挟んでくる。
ああ。あの神官のおっさんに対して言ったのはやっぱり俺を守るためだったのか。
ついさっきのことなのに何でもう知ってんだこの婆ちゃん。
「私はレイン。貴方が仲良くしてくれているヴィオラの曾祖母にあたるわ」
「仲良くはないです」
「あら? あんなに心配して泣き暮らしていたのに?」
「泣いてません!?」
レイン婆ちゃんの言葉に顔を赤くしながら反論するヴィオラ。
なんかさっきから信じられない事ばかりなんだが、本当にそこまで心配してたのかヴィオラ。
聞いたら殴られそうだから聞かないけど。
「大体アンタ今までどこほっつき歩いてたのよ!?」
「そうね。話からして世界の狭間に落ちたみたいだけど、どうやって出て来たのかしら?」
「地獄に落ちてました」
「……」
「いや恐えよ」
俺が地獄に落ちてたと言ったら、ヴィオラの表情がスンッと消えた。
マジで恐えよ。どういう感情だよそれ。
「地獄に?」
「あ、はい。そこに運よくというか運悪くというか神父様がいて」
「神父……が?」
「はい。何でも神父様が言うには新教皇の罠にはまって地獄に落とされたらしくて。神父――クロエ・クラインの名前を出して魔法ギルドの党首に新教皇の危険性を伝えろと、俺だけ先に脱出させてくれたんです」
「そう……。あいつらしいわね。自分のことは後回しなんだから」
そう言うと、何かを懐かしむように、しかしどこか寂しそうに微笑むレイン婆ちゃん。
その顔を見て、ふと一つの疑問を思いだす。
「……レイン婆ちゃんって神父様の奥さんなんですか?」
「ばっ!?」
「アッハッハ。遠慮がないわねレオン。そうね。結婚はしていないけれど、確かに私はクロエと愛し合っていたわ」
「……え?」
俺の言葉にヴィオラが激高しかけたが、レイン婆ちゃんの言葉を聞いてフリーズした。
どうした。まさか親父の言ってたヴィオラのお母さんと違って、神父が自分の曾祖父だと知らなかったのか。
「あいつは神官だから結婚はできないし、お互い立場があるから公にはできなかったけれど、公然の秘密としてそれなりに噂になったのだけどね。最近は忘れられてるみたいね」
「あーもしかしてその繋がりでうちの曾爺ちゃんと?」
「いいえ。もっと前から私はカールを知っていたわよ。何せコンラートさん……白騎士の愛弟子だもの」
「……はい?」
曾爺ちゃんが?
白騎士の?
愛弟子?
……ちょっと待て。
信じられないけどそれ信じたら疑問だったことが一気に繋がるぞ。
「じゃあこの剣は?」
「あら懐かしい。カールがコンラートさんから貰ったって嬉しそうに見せに来たことがあったわ。確か一人前の証に貰ったんだったかしら」
「……なるほど」
曾爺ちゃんがアルムスターとかいう大貴族の出なら、むしろ白騎士に剣をあげる側なのではという疑問がこれで解決した。
曾爺ちゃんは白騎士の弟子だったので、白騎士から剣を貰ってもおかしくない立場だったと。
……いや何で白騎士の弟子になってんだよ!?
「えーあー。曾爺ちゃん何者?」
「カールやクロエから何も聞いてないのかしら? 男って自分の武勇伝を語りたがるものだと思っていたのだけど」
「全く何も聞いたことないです」
神父様はあの通りの性格だし、曾爺ちゃんも生真面目というか厳格な人であまりおしゃべりな人ではなかった。
なので騎士だったことすら知らなかったわけで。
「厳格? あのお調子者が?」
「お調子者!?」
なんか曾爺ちゃんとは結びつかない単語が出て来た。
それ爺ちゃんの方じゃないの? 例のヴィオラの婆ちゃんに告白して玉砕した。
「なるほど。貴方は貴方自身のルーツについて何も知らないわけね。例の神官がアルムスターに拘る理由も気になるし、教えておいた方がいいのかしら」
「……お願いします」
「それじゃあ。年寄りの昔話に付き合ってもらおうかしら」
そう微笑みながら言うと、レイン婆ちゃんは俺の曾祖父――カール・フォン・アルムスターという男のことを語り始めた。




