党首がいなかった
僕は凡人だった。
それは紛れもない真実であり、変えようのない事実であり、どうしようもない現実だった。
だけど。
僕の師は英雄だった。
僕の友は英雄だった。
守りたいと願った彼女は――。
だから凡人だからなどという言い訳は捨てた。
只人の身で英雄を越えるために足掻いた。
それほどまでに、僕は彼女を――。
・
・
・
「殺す気か!?」
「おおっと」
「……あれ?」
ヴィオラのタックルで頭を地面に強か打ち付け、思わず文句を言いながら起き上がったが、なんか見渡したら景色が変わっていた。
街中ではなくどこかの屋敷らしき調度品のある部屋の中。
やたら真っ白なシーツに包まれて寝かされていたらしい。
え? まさか俺気絶してた?
マジかよヴィオラのタックルやべえな。
「え? あれ? ヴィオラは?」
「お姫様なら涙目で君の心配をしていたけれど、この屋敷に着くなり曾お婆様とやらに耳を引っ張られてどこかへ行ったよ」
「ええ……」
とりあえず俺の様子をみていたらしいカムナに聞いてみたが、なんか俺が知らないヴィオラの話が出て来た。
あのヴィオラが涙目?
見たかった。ってそうじゃなくて。
「曾婆ちゃん?」
「ああ。なんでも彼女の母親、魔法ギルドの党首はこの街にいないそうだ」
「マジかよ。無駄足じゃねえか」
「だがその曾お婆様が代理を務めているそうだ。話ならその人にすればいいんじゃないかい。神父とも古馴染みだろうしね」
「ああ。なんか神父に代々弟子入りしてるって……」
そこまで考えて、不意に親父の言葉を思い出した。
ヴィオラの母親。親父が知る当時少女だったその子は「神父は自分の祖父だ」と言ったらしい。
それが比喩の類ではなく事実だったとしたら、神父との間に子供を授かったのはその曾お婆様とやらなのでは?
「ええ……どんな女傑だよ」
「まあ彼女は神父の弟子ではないはずだよ」
「あ、やっぱり?」
「何がやっぱりなのかは知らないけれど、彼女はむしろ神父の同志だね。神父や白騎士と一緒に魔王を倒した英雄の一人だよ」
「ああ。あの魔王の城に少数で乗り込んだとかいう頭のおかしい」
つまり神父様やクラウディアさん並みに人外なわけか。
何それ恐い。
「というか魔王倒されたの百年前だろ。まだ生きてたのかよ何歳だ」
「女性に歳の話をするものではないよ。それに百年前というのは大雑把な話で、正確には八十年ほど前だ。当時彼女や神父は十代だったはずだし、まだ百の大台には乗っていないはずだよ」
「神父様百歳越えてなかったの!?」
マジかよ。百年経ってないのにあれほど胡散臭い雰囲気が醸成されるものなのか。
というか十代で魔王倒したのか。どんだけ才能あふれてんだ。
「ああ。気付かれましたかレオンさん」
「クラウディアさん?」
そんな話をしていたら、どうやら開きっぱなしになっていたらしいドアからクラウディアさんが顔をのぞかせてくる。
そういや居なかったな。
「レイン様がお呼びですが、動けますか?」
「動くのは問題ないですけど、レイン様?」
「先々代の魔法ギルドの党首でヴィオラ様の曾祖母にあたる方です。党首は現在不在で代理を務めているそうなので、神父様の伝言ならばレイン様にお伝えすればいいかと」
「あーなるほど」
本人に言わなくてもいいのかなあと思ったが、神父様の伝言って「新教皇がなんか企んでてヤバい」というシンプルなものだから伝言ゲームで歪むようなものじゃないしな。
党首に伝わらない可能性があるのが問題なわけで、先々代の党首だというならほぼ確実に伝わるだろう。
「では行きましょうか。歩けますか?」
「大丈夫です」
というか歩けなかったらどうするつもりだったんだ。
いやクラウディアさんなら俺くらい余裕で運べるだろうけども。
そうして俺はクラウディアさんに連れられて、ヴィオラの曾お婆ちゃんとやらに会うことになった。




